処遊楽

人生は泣き笑い。山あり谷あり海もある。愛して憎んで会って別れて我が人生。
力一杯生きよう。
衆生所遊楽。

厄除け詩集

2024-03-02 16:42:34 | 

 ハナニアラシノタトヘモアルゾ 「サヨナラ」ダケガ人生ダ

        

幾つの齢の頃か、恐らく高校生時代からか妙に気に入った一節だった。
小気味よくリズミカル、明るい諦観と力強さ。意表を突くカタカナ表記のなせる技か。
後年井伏鱒二の作と知るに及んで氏の漢詩の造詣の深さと力量の並々ならぬものを感じたのだった。

もとは中国の唐の詩人于武陵の詩「勧酒」であり、井伏はそれを抄訳しカタカナで表している。
于武陵の詩とその書き下し文は下記になる。
 =原詩=     =書き下し文=
「勧酒」        「酒をすすむ」
勧君金屈巵    君に勧む 金屈巵
満酌不須辞    満酌 辞するを須いず
花発多風雨    花発けば 風雨多し
人生足別離    人生 別離足る 
  ≪註≫金屈巵:黄金の金盃,満酌:なみなみと酒を注ぐこと,不須辞:辞去する必要なし,足:多い
次が井伏鱒二の訳
コノサカヅキ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ

井伏鱒二には漢詩和訳が17編あり、それらを収録した『厄除け詩集』は多くの出版社から出されている。
その中には李白の「静夜思」もある。

牀前看月光    牀前 月光を看る  
疑是地上霜    疑うらくは是 地上の霜かと
擧頭望山月    頭を挙げて 山月を望み
低頭思故郷    頭を低れて 故郷を思う

高校時代に教室で散々唱和してきたおそらく日本人に最も愛されて来た漢詩の一つであろう。
井伏によるとこうなる。
ネマノウチカラフトフト気ガツケバ
霜カトオモフイイ月アカリ
ノキバノ月ヲミルニツケ
ザイショノコトガ気ニカカル

原詩の五言絶句を見事な七五調に載せ、リズミカルに時にはコミカルに表現する大胆さは実に気持ちがいい。
手にした『厄除け詩集』は田畑書店版。英訳詩集は、ウイリアム・I・エリオットと西原克政が訳者である。小振りの愛すべき造りである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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