1984年4月に約一か月間、ヨーロッパで仕事をしたことがあった。
回った順にフランス、スイス、オーストリア、ドイツ、スウェーデン、デンマーク、フィンランド。
国際会議への参加と関係する各国の機関や団体への訪問・協議・交流が主な内容である。
ジュネーブの国際会議場。ドアを入ったとたんに馥郁たる薫り。初体験の香りである。はて?
同行の国連職員に、「何の匂いか」と尋ねた。「演壇中央に座る議長が銜えているパイプだ」との返事。千人のキャパのにも拘らず、たった一人が放つ芳香にビックリ。この贅沢を自分もやってみたい。
あとで知ったのだが、デンマークもスウェーデンもパイプ愛好者の多い国。この旅でパイプのノウハウを教わり、爾来40年弱楽しんできた。葉の選択、パイプの形状やブランド、手入れ等々、素人も三年続けりゃ立派な玄人。ワイン、ブランデー、TPOにもカッコつけ、自己流の喫煙家を自負してきた。
我が人生もすでに終活期。身の周りの整理の一環で、買取で名の通った業者が東京から出張鑑定するという全国紙広告を目にし試しに持ち込んでみる。
結果、値のついたのはパイプはダンヒルが1万円、シャコムが千円、ライターでダンヒル千円、カルチエ(シルバー)5百円。30年の間に国内外で買い求めた総額からは思いつかない呆れるほどの廉価。嘆きつつも手放したのだった。
実は、3か月年前にはジャズのLPレコード50枚、ドーナツ盤(70~80年代の邦盤)100枚を、これも業界第一とい言われている業者に査定して貰い、結局売ったのだが、その時の衝撃が大きく、お陰で今次の打撃は多少減じたのだった。でも悔しい! 悲しい! 無念! 自身の半生の証が無い!
この先、そうした思いがすべてに纏わって来る。
「さらば友よ‼」「有難う‼」