ハワイで日本の本が買えるのは、博文堂という日本のステーショナリーストアかブックオフだ。
博文堂は新しい本だから値段も高く、種類もとても限られていて、読みたい本を探すのは難しい。
それでブックオフに行くのだけれど、日本のブックオフを想像してはいけない。
日本の店の10分の1ぐらいのスペースに、英語の本と日本語の本やDVD、CDなどがあるのだから
推して知るべし。
しかし、アメリカの本屋ですらことごとく倒産して、唯一残ったバーンズノーブルも次々に縮小し、
いまやアラモアナショッピングセンター内でただ1店舗が青息吐息、という状態を鑑みれば
本なしではいられない私にとって、日本の本が買える場所があるだけでもありがたいのであり
それも文庫本が1ドルから5ドルなのだから、これ以上の贅沢はいえまい。
限られたスペースに並ぶ本はそれほど変わり映えがせず、あまりジャンルにこだわらずに本を読む私でも、
食指が動く本がだんだんなくなってくる。
そうなると、未開拓の作家に挑戦するようになり、がっかりすることもあれば
思いがけず楽しめることもある。
その思いがけず楽しかった作家の一人が、獅子文六である。
名前だけは知っていたが、NHKのテレビ小説の1作目『娘と私』(自伝小説)の作者だとは知らなかった。
今、読んでいるのは「てんやわんや」で、
「臆病で気は小さいが憎めない主人公は、太平洋戦争直後、戦犯を恐れた社長の密命により四国へ身を隠す任務を与えられる。
そこは荒廃した東京にはない豊かな自然があり、地元の名士に厚遇を受けながら夢のような生活が待っていた」
という物語で、この四国でいろんなドタバタが起こる。
文体も軽快で、どんどん愉快になってくる。
その調子は、こんな具合である。
四国まで追いかけてきた女に遭遇するが、すっかり洋装になっていて驚く。
しかるに、この女は単に正規の洋装をしているのみならず、衣紋竹を背負っているように肩の張ったスプリングコートでも、
ドラ焼きを叩きつけたような、小さな帽子でも、皮の大黒頭巾のような大きなハンドバッグでも悉くが新調であり・・・
さらに、その女が主人公を襲う。
「ちょいとウ・・暫く会わないうちに日本語忘れちまったの、なぜ黙ってんのよ」
二ッと笑ったその顔が、ちゃぶ台の上に伸びてきた。顔が拡大されて畳一畳敷きほどあるような迫力を、私に感じさせた。
焦げ茶色の噴水のような描き眉、三色版の夕焼けの空のような頬化粧、鶏のゾウモツの心臓のような口紅、それは毒々しいというような、
生優しいものではなかった。
本を読みながら笑ったのは、久しぶりだ。
どれを買おうか迷うほど大量の本が並んでいる、日本の本屋が心から懐かしく思うけれど、
日本にいたら読まなかったであろう本を読むことができるのは、案外楽しいものである。
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博文堂は新しい本だから値段も高く、種類もとても限られていて、読みたい本を探すのは難しい。
それでブックオフに行くのだけれど、日本のブックオフを想像してはいけない。
日本の店の10分の1ぐらいのスペースに、英語の本と日本語の本やDVD、CDなどがあるのだから
推して知るべし。
しかし、アメリカの本屋ですらことごとく倒産して、唯一残ったバーンズノーブルも次々に縮小し、
いまやアラモアナショッピングセンター内でただ1店舗が青息吐息、という状態を鑑みれば
本なしではいられない私にとって、日本の本が買える場所があるだけでもありがたいのであり
それも文庫本が1ドルから5ドルなのだから、これ以上の贅沢はいえまい。
限られたスペースに並ぶ本はそれほど変わり映えがせず、あまりジャンルにこだわらずに本を読む私でも、
食指が動く本がだんだんなくなってくる。
そうなると、未開拓の作家に挑戦するようになり、がっかりすることもあれば
思いがけず楽しめることもある。
その思いがけず楽しかった作家の一人が、獅子文六である。
名前だけは知っていたが、NHKのテレビ小説の1作目『娘と私』(自伝小説)の作者だとは知らなかった。
今、読んでいるのは「てんやわんや」で、
「臆病で気は小さいが憎めない主人公は、太平洋戦争直後、戦犯を恐れた社長の密命により四国へ身を隠す任務を与えられる。
そこは荒廃した東京にはない豊かな自然があり、地元の名士に厚遇を受けながら夢のような生活が待っていた」
という物語で、この四国でいろんなドタバタが起こる。
文体も軽快で、どんどん愉快になってくる。
その調子は、こんな具合である。
四国まで追いかけてきた女に遭遇するが、すっかり洋装になっていて驚く。
しかるに、この女は単に正規の洋装をしているのみならず、衣紋竹を背負っているように肩の張ったスプリングコートでも、
ドラ焼きを叩きつけたような、小さな帽子でも、皮の大黒頭巾のような大きなハンドバッグでも悉くが新調であり・・・
さらに、その女が主人公を襲う。
「ちょいとウ・・暫く会わないうちに日本語忘れちまったの、なぜ黙ってんのよ」
二ッと笑ったその顔が、ちゃぶ台の上に伸びてきた。顔が拡大されて畳一畳敷きほどあるような迫力を、私に感じさせた。
焦げ茶色の噴水のような描き眉、三色版の夕焼けの空のような頬化粧、鶏のゾウモツの心臓のような口紅、それは毒々しいというような、
生優しいものではなかった。
本を読みながら笑ったのは、久しぶりだ。
どれを買おうか迷うほど大量の本が並んでいる、日本の本屋が心から懐かしく思うけれど、
日本にいたら読まなかったであろう本を読むことができるのは、案外楽しいものである。
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