日本の友人が、ある動画を送ってくれた。
癒し系のおもしろいやつかと思って開いてみたら、
見たこともない人が早口でまくしたてていて、あろうことか私はその人が何を言っているのか理解できなかった。
何度か再生してみたが、わかったのは
「動画を見てくれてありがとうございました」ぐらいで、あとはカセットテープを早回しにしたようにしか聞こえず、たまに単語がわかる程度。
友人によると、その人は紅白にも出たグループであるらしい。
反応が薄い私に友人は
「あ・・・やっぱダメか・・・ダメかもなーとは思ったんだけど」
大昔、祖母と歌番組をみていて、林寛子が出てくると
「なんだね、この子の口はどうしただね」と言った。
林寛子は当時アイドル歌手で、口をイー!と広げて歯を見せてほほ笑むのが「かわいい」とされていた。
それが祖母には、口がどうにかなった人、にしか見えなかった。
母と車に乗っていたとき、山下達郎のCDをかけていたら母が
「お経みたいな歌だね、お経かね?」と言った。
十代とか二十代であった私にわかる感覚が、祖母や母には通用しない。
「ンもう!なんでわかんないかなぁ??」
と私は不思議でならなかったが、今、私は完全に祖母や母の側にいる。
15年ぐらい前に流行った、メロディに対して長すぎる歌詞を詰め込んだような歌は
理解はできるが、すでに何がいいのかよくわからなくなっていた。
山下達郎でお経なら、そういう歌を母が聞いたら何と言うだろう。
動画が理解できなかった、という話を夫にした。
「どうやら私の耳は老化したみたいだよ」
と言うと夫は言った。
「耳じゃなくて、脳だよ」
え・・・・・・今、なんて。
「耳に入ってきたものを、脳が理解できなくなってるんだよ」
そんな重要なことを、よくもまあさらっと言ってくれるわね・・・・
早口の日本語なんて、もう何年も聞き慣れていないんだし、とか言ってくれたのが帳消しになった。
「じゃあ私、早口の日本語も、英語もわかんないってことだよね」
「そうだねえ」
「語学力じゃなくて理解力で、脳の問題なら、それはこれからも失い続けるんだよね」
「まあ、そうかもね」
あまりにショックだ。ひどいじゃないか。
「ということなら、これからよろしくお願いしますよっ」
嫌味のつもりで言ったら
「OK!」
とあっさり言われた。