デンマークから来たマーカスの誕生日を祝った。
二十歳だそうな。
テーブルの上にある箱は、私があげた地元作家もののマグ。
青地にクジラがゆうゆうと泳いでいる。
二十歳かあ、若いなあ。
ここにいたみんなが、それぞれ自分の二十歳の頃を思った。
「学生だったけどドイツにいたワ」と叔母。
「大学2年か。何やってたかな」とMIT卒の叔父。
「朝はサーフィン、昼間は大学、夜はイタリアンレストランで毎日バイトしてた、楽しかったなあ」と夫。
「忘れちゃったわ、65年も前だもの」とマーカスの祖母のベティが笑う。
私の二十歳は、社会人1年生だった。
あんまり思い出したくないようなことのほうが多いのは若さゆえか。
今ならもっとうまくやれるように思うけど、やり直したいなんて絶対に思わない。
小学生ぐらいの子供を見ると、この子らはこれからあんなことやこんなことを体験しなくちゃならないのか、と思って気の毒になる。
あの頃の1年の長さときたら、今の10倍ぐらいはあったんじゃないかと思うぐらい長かった。
戻ってやり直したい過去がないのは幸せなことか、どうなのか。
30年後、マーカスはハワイで迎えた二十歳の誕生日のことを覚えているんだろうか。
「二十歳過ぎたら、もうあっという間に50だからね」
「そ、そんなぁ」
遠い昔、私も誰かに言われたような気がする。
いつまでにこれをやって、そのあとはこうしなさい、と言われてきた窮屈な箱からようやく出てみたら、自由と不安はきっちりと背中合わせだった。
何が正解なのか、答え合わせをするすべもないとは、なんと心もとないものだろうかと思った。
マーカスは、何を思ってこれからの1年1年を過ごすのだろう。