安倍首相のお父さんは安倍晋太郎、お祖父さんは岸信介です。岸信介を育てたのは吉田茂です。
吉田茂は近代日本の歴史の中で、明治以来の日本が歩んだ道にはまったく誤りはなかったと信じていた。ただ、満州事変からアジア太平洋戦争の敗戦までに限り、日本軍部によって変調をきたしたと考えていた。だから、占領下日本を、新しい民主主義の国としての「新生日本」ととらえず、「再生日本」という視点で国づくりをすべきだと考えていた。そして、満州事変以前の日本に戻して、それを土台にし、満州事変から敗戦までの期間を手直して日本を再建する、つまり、軍事主導体制を天皇制下の政治主導体制に戻す事に力点があった。日本国憲法については改正論者であり、岸信介に対して「今の憲法は気に食わないけれど、日本の国体(天皇制)を維持するためにはあれを呑むよりほかなかった、君らはそれを研究して改正しなければいけない」(『岸信介の回想』)と言ったという。
岸信介は、「アジア・太平洋戦争」を「自存自衛の戦争である」とし、「侵略戦争と言う事は絶対に許してはならない」(『断相録』)と考えた。そして、A級戦犯容疑者であった彼は、東京裁判について「事実を曲げた一方的偏見に終始するとともに、量刑も極めてずさんで乱暴極まるもの」(『日記』)と反発した。占領政策についても「日本を弱体化させ再起不能とする事が狙いであった」(『岸信介証言録』)と評した。
彼は強力な憲法改正・再軍備論者として行動した。「戦前の大日本帝国の栄光を取り戻す事」を政治目標とし、対米従属関係を一切払拭して、「自由独立」体制を確立するという政策目標を掲げていた。日本国憲法については「占領軍の最高司令官マッカーサーから押し付けられたものであり、民族的自信と独立の気魄を取り戻すためには我々の手によって作られた憲法を持たねばならない」と考えていた。そして、「真の独立」とは「権利として自衛軍を整え、我々の手で祖国を防衛するという事で、米国の軍隊を国内に駐屯させてその力によって独立を維持する事ではない」とした。
安倍首相は、吉田茂から引き継いだ岸信介の意志をさらに受け継いで実現させる事を、自分の使命としていると考えられる。その内容はすでに、自民党の憲法改正案にすべて示されている。その目指すところは、戦前の天皇制国家の再建である。
ついでに、吉田茂は、国民の事を「臣民」=「(天皇の)家来」という目で見ていたし、大衆を蔑視していた。そんな大衆には強圧的に対応する事が必要だと考えていた。いま、国民はどんな幸福を求めているのかな?国民は国民主権や基本的人権や民主主義を捨てるのか?自由や平等を捨てるのか?今年はその分岐点となる。
(2015年6月12日投稿)