2019年6月2日の「天声人語」が、1945年6月に「内閣情報局」が発表した「新選・夏の七草」の事を載せていた。つまり、食べられる野草・雑草を「代用食」として推奨したという事である。
アジア・太平洋戦争の戦局が、神聖天皇主権大日本帝国政府側に不利になるにともない深刻な食糧不足となったため、メディア(新聞・雑誌など)は通常の食品に代わる様々なものを「代用食」として推奨していた。朝日新聞も、1942年後半には「食物総力戦」と題した記事を連載して「代用品」を推奨していた。例えば、1942年10月11日朝刊には、「イナゴの食べ方」として、「秋のハイキングにはイナゴを捕って大いに食べよう。蝗は虫偏に皇と字が当てられて虫の中での王とされているもの、つまりは蝗が食べられるからである。エビに似た味でビタミンA、Dを多量に含んでいる。捕らえた蝗はザルに入れ布をかぶせ熱湯をかけ、水洗いし、天陽で乾かす。油で煎りつけて食べても良ければ、醤油で煮つけて食べても良い。あるいは陽に乾してすり潰して粉にして御飯にふりかけたり、味噌汁の中へ入れて食べる。そのまま澄まし汁の中に入れたものは蝗の姿が見えて食べにくいが、粉にして味噌汁に入れれば十分食べられるうえ、蝗の全身を乾かして粉にしたものはカルシウムに富む。<陸軍航空技術研究所川島四郎大佐談>」や、42年10月25日朝刊には「砂糖代用の柿の皮」として、「柿の皮は多く捨てられて顧みられないが、柿の皮を砂糖代用として用いる事は古くから行われている事で、大変甘く糖分が約50%あるから砂糖の半分の甘さが得られる。その最も簡単な方法は、むいた柿の皮から、そのまま甘味をとる事で、ニンジン、ごぼう、里芋などの野菜類と一緒に鍋の水の中へ柿の皮を入れ、だしのようにして5分か10分煮出す。すると柿の皮の糖分がみんな湯にとけてしまうから、大体とけたところで柿の皮だけ出して、これに醤油などの調味料を加えて煮つければよい。柿の皮を出した後で調味料を加えないと柿の皮に味がついて、それだけ調味料が不経済になる。しかし、柿の皮は生の時よりも乾かした方が水分が少なくて甘味を感じるから、陽に乾してすり鉢ですって粉にして用いると保存もできて便利である。<日本女子大食物室>」や、1944年4月30日には「藁うどんの腹でさあ出炭、鶴嘴戦士に贈る変わった決戦食」として、「藁うどん、藁パンといっても牛や馬の餌に用いる生の藁ではない。稲藁を粉末にして適当な科学的処理を加え、あらめ(昆布科の海草)やかじきなどヨード分の濃厚な海藻や小麦粉を混ぜて作った新決戦食糧、名づけて「瑞穂麺」、「瑞穂パン」が炭鉱の北九州を舞台に代用食時代の脚光浴びて登場した。(中略)原料藁の入手もこのほど試食をした内田農商相も、「せめて九州の鶴嘴戦士だけでもうんと食べて貰いたい」と考慮を約したとあるから、栄養価値はともかく、文字通り米の成る木の牛飲馬食(多量に食べる事)で満腹感を味わえる日も近いとみられる。」などである。国民をこのような状態に置きながらも、帝国政府は国民に戦争遂行を強いたのである。何という恐ろしい政府であったかという事を知るべきである。安倍自公政府はその神聖天皇主権大日本帝国への回帰を実現する最後のミッションを成し遂げようとしている。それが安倍首相の言う「憲法改正」である。
ついでながら、内閣情報局は太平洋戦争を始めた翌日、メディアを呼びつけ「世論指導方針」を命じた。それは、戦略的にわが国が絶対優位にある事を鼓吹する事、わが経済力に対する国民の自信を強めさせる事、敵国の政治経済的ならびに軍事的弱点の暴露に努める事、国民の中に米英に対する敵愾心を執拗に植えつける事、などであった。さらに特に厳重に警戒すべき事項として、①戦争に対する真意を曲解し、帝国の公明な態度を誹謗する言説。②開戦の経緯を曲解して政府及び統帥府の措置を誹謗する言説③開戦に際し独伊の援助を期待したとなす論調④政府、軍部との間に意見の対立があったとなす論調⑤国民は政府の指示に対し服従せず、国論においても不統一あるかのごとき言説⑥中、満その他外地関係に不安動揺ありたりとなす論調⑦国民の間に反戦、厭戦気運を助長せしむるごとき論調⑧反軍的思想を助長させる傾向ある論調⑨和平気運を助長し、国民の士気を沮喪せしむるごとき論調⑩銃後治安を撹乱せしむるごとき論調一切(歴史学研究会『太平洋戦争史』Ⅲ)、を指示した。
(2019年6月2日投稿)