嶋中事件は、「天皇制」を語る事をタブー視するのを強めるきっかけとなった。
1960年、雑誌『中央公論』12月号に、深沢七郎の短編小説「風流夢譚」が掲載された。この内容に、夢の中で革命が起き、昭和天皇、皇后、皇太子夫妻が処刑される場面が書かれていた。これに対して右翼団体が、皇室に対して「不敬」だとして、たびたび中央公論社に押しかけ圧力をかけた。そのため、同社は宮内庁に対し「配慮が足りなかった」と陳謝に追い込まれた。また、同社が発行を委託されていた思想の科学研究会編集雑誌『思想の科学』天皇制特集号(1961年1月号)も発売中止にせざるを得なくなり、出来上がっていた同誌も廃棄するに至った。しかし、これで終わらなかった。
翌61年2月1日夜、17歳の大日本愛国党の党員が、中央公論社社長・嶋中氏の自宅に押し入った。社長が留守だったので、手伝いの女性を刺殺するとともに、社長夫人に重傷を負わせたのである。つまり、右翼がテロ行為を起こしたのである。そして、この許せない事件以後、天皇制や皇室に絡む小説や論文などに対して、右翼が非合法に出版社や筆者を脅迫する事件がしばしば起きるようになったのである。
大きなテロ事件を挙げると、1987年には、憲法記念日に、朝日新聞の阪神支局が「赤報隊」なるものに襲われ、散弾銃により二人の記者が死傷した。2005年1月には、「新日中友好21世紀委員会」の座長・小林陽太郎氏(富士ゼロックス会長)の自宅玄関脇に、火のついた火炎瓶が2本置かれていた。小泉首相の靖国参拝について「個人的にはやめていただきたい」と語った後に起きた。
また以下は、テロ事件ではないが、天皇制と深く関わる今日までの政治の動きを挙げておく。
1966年には、「建国記念の日」制定(第1次佐藤栄作自民党内閣)。1979年には「元号法」制定(第1次大平正芳自民党内閣)。1999年には「国旗国歌法」制定(小渕恵三自自公党内閣)。2000年には「神の国発言」(森喜朗自公保党内閣)。2001年には「新しい歴史教科書をつくる会」版「歴史」「公民」教科書が検定合格(第1次小泉純一郎自公保党内閣)。2018年には小学校で「道徳」の教科化(第4次安倍晋三改造自公党内閣)などなど神聖天皇主権大日本帝国への回帰の動きが着実に進められてきた。この動きは換言すれば、敗戦後に成立した日本国憲法に基づく民主主義国日本は、自民党を核とした歴代政権によって、戦前の姿に逆戻りさせられてしまいその実態を形だけのものとされてしまったという事である。今日の日本社会はその最先端にあり、安倍自公政権にとってこの先は「憲法改正(改悪)」を残すだけというところまで至っているようだ。しかし、民主主義を尊重する国民は、まだその気になればこの動きを止め元に戻す事は可能である。しかししかし、新元号にフィーバーし、又させられている国民の姿を見るとそれが可能かどうか心もとない気持ちになるが。さて、やり直しがない最後のチャンスに悔いのない選択を、主権者国民としてどうする?
(2019年8月25日投稿)