解決の方向③ ワシントン・コンセンサスへの規制、運動
③ワシントンコンセンサスに対する抵抗、運動
ここまでにも紹介した岩波新書、西川潤早稲田大学大学院教授の著「世界経済入門」(07年第5刷版)は、1988年に初版が出て、『大学や高校の国際経済学、国際関係論や政治経済の副読本としても広く使われ』たというベストセラーである。が、この第5版はグローバリズム経済を前にして、それへの反発という点を終始問題意識の一つに置いて書き直された『新しい入門書』という重要かつ珍しい側面を持っている。そこのさわりを紹介して、このシリーズの終わりとしたい。
西川氏は、『経済のグローバル化』は、『人権や環境など、意識のグローバル化』を進展させずにはおかなかったと語る。そして、この書は、この両者の『相関、緊張関係を通じて、新しい世界秩序が生成しているとの視点に立っている』と解説される。これは『第3版へのまえがき』の部分に書かれた表現だが、これに呼応した回答として述べられているのは、最終章最終節のこんな記述であろう。
『この経済のグローバル化が世界的にもたらす不均衡に際して、ナショナリズム、地域主義、市民社会、テロリズムといくつかのチェック要因が現れている』
『これらの不均衡やそれに根ざす抵抗要因に対して、アメリカはますます軍備を拡大し、他国への軍事介入によって、グローバリゼーションを貫徹しようと試みている』
『(アメリカの)帝国化とそれへの協力、あるいはナショナリズムが、グローバル化への適切な対応でないとしたら、残りの選択肢は何だろうか。それは、テロリズムではありえない』
『これまでの分析を念頭に置けば、市民社会と地域主義が私たちにとって、グローバリゼーションから起こる不均衡を是正するための手がかりとなる事情が見えてくる』
とこう述べて、西川氏がこの部分の結論とするところはこういうことになる。
『1999年にオランダのハーグで、国際連盟成立のきっかけとなったハーグ平和会議1世紀を記念して、平和市民会議が100国、1万人余の代表を集めて開催された。この宣言では「公正な世界秩序のための10の基本原則」として、その第一に日本の平和憲法第9条にならって、各国政府が戦争の放棄を決議することを勧告している』
『2001年には、多国籍企業や政府の代表がスイスで開くダボス会議に対抗して、ブラジルのポルトアレグレで世界のNGO、NPOの代表6万人が集まり、世界社会フォーラムを開催した。このフォーラムは「巨大多国籍企業とその利益に奉仕する諸国家、国際機関が推進しているグローバリゼーションに反対し、その代案を提起する」ことを目的として開かれたものである。ポルトアレグレは、労働者の自治組織が市政を運営し、発展途上国とは思えないほど社会保障の充実した都市で、それ自体、グローバリゼーションのもたらす不均衡へのオールタナティブとなっている。その後、「もうひとつの世界は可能だ」を合言葉とするこの市民集会は年々拡大し、2004年1月、インドのムンバイで開かれた第4回の世界社会フォーラムでは、参加者が10万人を超えた』
『もうひとつ、アジアとの関係も重要になる。いま、日本とアジアの経済関係はきわめて深く、第9章に述べたように、新たに東南アジアと東アジアを結ぶ東アジア・コミュニティの構想も動き始めている。しかし、このような地域協力を政府の手にのみ委ねておくのでは、こうした協力も得てして戦略や欲得がらみのものとなり、ナショナリズムの対立がいつ何時、抗争を引き起こすとも限らない』
以上について、僕の下手な説明は要るまい。ただ一言だけ。西川氏のこの問題意識は、僕がここまでこのシリーズ原稿を書いてきた動機に通じるところがとても大きいと感じたものだった。
これを、長らく読んでいただいた方、ありがとうございました。
なお、14日から10日ばかり家を留守にしますので、欠稿すると思いますが、皆さんよろしくお願いいたします。
③ワシントンコンセンサスに対する抵抗、運動
ここまでにも紹介した岩波新書、西川潤早稲田大学大学院教授の著「世界経済入門」(07年第5刷版)は、1988年に初版が出て、『大学や高校の国際経済学、国際関係論や政治経済の副読本としても広く使われ』たというベストセラーである。が、この第5版はグローバリズム経済を前にして、それへの反発という点を終始問題意識の一つに置いて書き直された『新しい入門書』という重要かつ珍しい側面を持っている。そこのさわりを紹介して、このシリーズの終わりとしたい。
西川氏は、『経済のグローバル化』は、『人権や環境など、意識のグローバル化』を進展させずにはおかなかったと語る。そして、この書は、この両者の『相関、緊張関係を通じて、新しい世界秩序が生成しているとの視点に立っている』と解説される。これは『第3版へのまえがき』の部分に書かれた表現だが、これに呼応した回答として述べられているのは、最終章最終節のこんな記述であろう。
『この経済のグローバル化が世界的にもたらす不均衡に際して、ナショナリズム、地域主義、市民社会、テロリズムといくつかのチェック要因が現れている』
『これらの不均衡やそれに根ざす抵抗要因に対して、アメリカはますます軍備を拡大し、他国への軍事介入によって、グローバリゼーションを貫徹しようと試みている』
『(アメリカの)帝国化とそれへの協力、あるいはナショナリズムが、グローバル化への適切な対応でないとしたら、残りの選択肢は何だろうか。それは、テロリズムではありえない』
『これまでの分析を念頭に置けば、市民社会と地域主義が私たちにとって、グローバリゼーションから起こる不均衡を是正するための手がかりとなる事情が見えてくる』
とこう述べて、西川氏がこの部分の結論とするところはこういうことになる。
『1999年にオランダのハーグで、国際連盟成立のきっかけとなったハーグ平和会議1世紀を記念して、平和市民会議が100国、1万人余の代表を集めて開催された。この宣言では「公正な世界秩序のための10の基本原則」として、その第一に日本の平和憲法第9条にならって、各国政府が戦争の放棄を決議することを勧告している』
『2001年には、多国籍企業や政府の代表がスイスで開くダボス会議に対抗して、ブラジルのポルトアレグレで世界のNGO、NPOの代表6万人が集まり、世界社会フォーラムを開催した。このフォーラムは「巨大多国籍企業とその利益に奉仕する諸国家、国際機関が推進しているグローバリゼーションに反対し、その代案を提起する」ことを目的として開かれたものである。ポルトアレグレは、労働者の自治組織が市政を運営し、発展途上国とは思えないほど社会保障の充実した都市で、それ自体、グローバリゼーションのもたらす不均衡へのオールタナティブとなっている。その後、「もうひとつの世界は可能だ」を合言葉とするこの市民集会は年々拡大し、2004年1月、インドのムンバイで開かれた第4回の世界社会フォーラムでは、参加者が10万人を超えた』
『もうひとつ、アジアとの関係も重要になる。いま、日本とアジアの経済関係はきわめて深く、第9章に述べたように、新たに東南アジアと東アジアを結ぶ東アジア・コミュニティの構想も動き始めている。しかし、このような地域協力を政府の手にのみ委ねておくのでは、こうした協力も得てして戦略や欲得がらみのものとなり、ナショナリズムの対立がいつ何時、抗争を引き起こすとも限らない』
以上について、僕の下手な説明は要るまい。ただ一言だけ。西川氏のこの問題意識は、僕がここまでこのシリーズ原稿を書いてきた動機に通じるところがとても大きいと感じたものだった。
これを、長らく読んでいただいた方、ありがとうございました。
なお、14日から10日ばかり家を留守にしますので、欠稿すると思いますが、皆さんよろしくお願いいたします。