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随筆  ババ城、陥落す     文科系

2014年09月29日 04時29分48秒 | 文芸作品
 高熱が去り始めた身体をソファに横たえていると、隣部屋の激しい言い争いが途切れ途切れだが嫌でも耳に飛び込んで来る。ぼーっとした頭にもこんなことが駆け巡る。
〈我が家の近くに住んでいる娘夫婦も結婚して六年。お婿さんの太ちゃんも我が連れ合いから見て「家族並み」になったのだろう。最近は、こんな険しいやりとりも起こるようになったな〉
〈争いの発端、原因はこうらしい。最近これも近くに住むことになった息子の車を太ちゃんが借りたその「借り方、態度」に関わって、連れあいが何か苦情を思いついたようだ。太ちゃんは要するにこう応酬しているはずだ。「僕とケンタ君に関することであって、お母さんは全く関係のない話です」。その通り、彼が正しい〉

 さて、我が連れ合いのこの性格は、僕自身長年持て余してきたもの。どれだけケンカの種になってきたことか。例えば、彼女が僕に運転手をお願いして乗せて貰った車の道中でも、助手席から突然こんなことを言い出すのである。「今の角は右に回るべきだった。こっちは道が細くて飛び出しも危ない。あちらへ曲がればずっと速かったはずで……」。対する最近の僕はこの手の声など無視して運転していくけど、一々言い返して必ず終わりのない言い合いになるという長い歴史を持っていた。なんせ、以下のように道理ある反論にも、一向に臆する所がない彼女なのだ。「あなたは地図の読めない女ね。そもそも東西南北も分からないから、斜めの近道なんて分からないはず。僕はと言えば、地図だけで初めての目的地へも一発って、君も知ってるよね」。争いの果てに出るこんな究極の正しい理屈さえも通させてくれないのだから「僕の運転には何も言わない」も守れるわけがないのである。

 ところでさて、この太ちゃんとのことはもう外っておけない。娘のマサコとは同じような言い争いの結末で、すでに三ヶ月ほど前から絶交状態だ。太ちゃんまでそうなったら、孫のハーちゃんが我が家に全く顔を見せてくれなくなる。まず、そのこと自身から話を始めた。流石に彼女もハーちゃんが来なくなることをすでにもー心配していると分かって、まずこれはとにかく、ほっとした。
 これに勢いを得て、一晩かかって考えた内容をこんこんと話し始める。
「貴女は家族に対して、いろんな事がやってあげられる力がある。それはとても素晴らしいことなんだが、その代わりに、自分他人の領域の区別がなさ過ぎる。その結果、他人の領域に普通に入って来て指図する人間と見られて、太ちゃんももういつも構えてるんだよ。マサコが絶交状態なのは、太ちゃんとそうなるよりも自分が先にと警鐘を鳴らしたんだろう。実はマサコよりも他人である太ちゃんの方がずっと驚き、傷付いているかも知れない」
 などなど……と。もちろん、長年の「車のケンカ」などをも題材に使って解説を加えたのは言うまでもない。最後には、こんなとっておきの言葉も用意していた。
「家族に何か言いたくなったとき、一度はこう考えてみてよ。『その話、苦情、指示を貴女が相手にする権利があるかどうか、相手がそれを黙って聞いている義務があるかどうか』ね」

 それから数日後、娘宅をたずねたとき、二人が異口同音にこんなことを告げてきた。
「お義父さん。義母さんに何か言ったの。この前の車の件で電話が来て、なんか謝ってきたよ。母さんが謝るなんて、僕として多分初めて見たことだと思う」
「そうそう、母さんかなり変わったよ。この前の誕生パーティーでもなんか腰が低くなってなかった? 二人でそう言い合ってたんだけどね」

コメント (1)
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