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書評 関野吉晴「グレートジャーニー」  文科系

2022年07月24日 01時34分03秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など

 まず最初にちくま新書のこの題名、「グレートジャーニー(長い旅行という訳になる)」が、現生人類すべての祖先誕生からその世界拡散・人類分化の歴史に関わる概念だということをご存じだろうか。
 最初の現生人類がアフリカ・タンザニアに生まれ、10数万年前に中東に出た人々が西欧人とアジア人に別れていき、アジア系からまずオーストラリア原住民、次いで縄文人などが生まれて、そのアジア北方系人種がベーリング海経由でアメリカ大陸に渡った末に、南米南端のパタゴニアまでたどり着いたという人類分化史を「グレートジャーニー」とイギリスのある考古学者が呼んだのである。著者関野吉晴は、この旅を南米南端パタゴニアからタンザニアへと逆に辿ったのだった。それも、自転車とカヤック・カヌーだけの人力で、1993年12月5日から2002年2月10日までかけてのことであった。

 なお、関野のこの旅にはその前史があって、1970年代半ばに、彼は南米はペルー・アマゾンのマチゲンガという少数民族の部落で何か月も過ごしている。それから日本に戻った彼は、人生をこんな風にやり直したと述べている。改めて医者になれば、滞在先の人々になにがしかのお返しができるだろう、と。
『一度日本に帰った私は彼らとの付き合いを続けたいと思った。もっともっと彼らのことを知りたくなった。そのためにはどうしたらいいのか? 世話になりっぱなしのただの居候であるより、医者として入っていったらどうだろうか。文科系の大学に8年間いた(文科系注 一橋大学に探検部を作った)私は医学部(文科系注 横浜国立大学。 後の文科系注 横国出身の娘にこの本を見せたら、言われた。「横国には医学部はない。横浜市大ではないか」とのこと。誤植?)に入り直すことにした。そしてその後も彼らの村に通い続けた』

 さて、上記の年月日をかけたこの旅の途中、当然のことながらアマゾン・マチゲンガ部落と旧交を温めることにもなるのだが、それも含んだ全行程はこうなっている。1993年12月のパタゴニアに端を発して、1995年アマゾン源流、中央アンデス。1995年10月中米に入る。1996年9月アラスカに入る。1997年8月ベーリング海峡を渡り、シベリアのヤクーツク、バイカル湖からモンゴル、中央アジア、中東、アフリカと辿って行った、と。この全体行程の中でただ一つだけ長い寄り道、別コースがあって、1999年にモンゴルからヒマラヤ横断をやっている。この寄り道コースの方では、行った先、例えばネパール・カトマンズから飛行機で帰ってきたのだろうと推察される。

 この本の長所は、まず半分は写真集と言ってよいような、その写真の美しさ。土地土地の「庶民の」生活、特徴を表す風景、祭り、祈りなどの写真もさりながら、諸民族の子どもの大写し容姿、表情などがすべて何とも言えず良いのである。皆が皆、それぞれエスニックに可愛すぎて・・・。そして、この旅人への心遣いなどにも現れた諸民族の良俗、美風などが文章で紹介されていて、それがまた「人類みな兄弟は残っている」という気にさせてくれたものだ。この旅の着想、誕生自身にかかわっているやのアマゾン・マチゲンガ部落から著者が学んだ人間の美しさを、世界に見続けていった旅と言ってもよいのではないか。僕はとにかく、そこが気に入ったのである。


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