コロナ病床確保、制度不備で補助金膨張3兆円 検査院
2023年1月13日付日本経済新聞、
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE066R20W3A100C2000000/
「会計検査院は13日、新型コロナウイルス患者の病床確保事業の検査結果を公表した。国は2年で3兆円を超す補助金を医療機関に交付したが、受け入れ態勢が整っていない病床の分も支払うなど制度の不備があったと指摘した。コロナ対応に病床を割くほど補助金でもうかる構図になっており、厚生労働省に改善を求めた。
国はコロナ患者の受け入れを促すため「病床確保料」などを医療機関に支払っている。検査院によると、2020~21年度で3483医療機関に計3兆3848億円が交付された。
日本経済新聞も22年12月、調査報道シリーズ「国費解剖」で病床使用率が都道府県平均を大きく下回った404病院に2年間で3660億円超が支払われたと指摘した。補助金が過剰投入された実態が改めて浮かんだ。
検査院は国公立病院や大学病院など、地域医療の中核を担う496病院を抽出して調べた。交付額は全体の42%の計1兆4057億円に上った。
病床確保料について①患者受け入れ態勢ができていない病床でも交付②もともと空床でも交付③一部で高めの補助金額――の不備を指摘した。
①では医師や看護師を確保できずに入院要請を断った病院が8つ見つかった。ある病院は78床確保したとして病床確保料を受け取りながら、実際に受け入れ可能な病床は41床だった。態勢整備を交付要件で明示しなかったことが原因だ。
②はコロナ患者受け入れのため休止した病床の問題だ。検査院がこれらの病床についてコロナ前の稼働率を調べると17病院で50%未満だった。過去の稼働率に関係なく休止すれば補助金を交付する甘い仕組みだった。
③は集中治療室(ICU)1床で1日最大43万6千円を交付したが、大病院の6割で診療報酬より確保料が高かった。最も差が大きい病院で29万4千円の開きがあった。実際にコロナ患者を受け入れるより、空床にしておく方がもうかる構図だ。
検査院は入院患者が多かった21年1月と8月、22年2月の病床使用率も調べ、半数以上の269病院が1度は50%を下回っていた。
検査院は補助金交付要件で患者の受け入れ態勢が整っていることを明確にし、実態に合わせて金額を設定するよう厚労省に要請した。
厚労省は取材に「今回の指摘を踏まえ適正な執行のために都道府県に調査、報告を求める予定」とコメントした。
▼病床確保料
新型コロナウイルス患者を受け入れるため病床を空けた場合に支払われる補助金。通常医療を制限するなどして休止した病床も交付対象となる。集中治療室(ICU)は1床1日最大43万6千円、一般病床は同7万4千円が空けた病床数と日数に応じて支払われる。財源は国の緊急包括支援交付金から拠出される。
-補助金、目立つ副作用 医療の効率化遠のく-
会計検査院がコロナ病床確保で投じられた補助金の過剰ぶりを裏付けた。何度も批判されながら抜本的な見直しをためらう国に一石を投じた。補助金で病院経営が潤ったことで、非効率な病床を再編する改革機運が後退するなど副作用も出てきた。
「病院が補助金でもうけようとした証拠はなかったが、結果として黒字幅が大きくなった」と検査院の担当者は話す。
検査院は検査対象にした496病院のうち、国立病院や労災病院など269病院の医業収支を分析した。1病院あたりの平均額は補助金を除くと20年度は8億円の赤字、21年度は7億円の赤字と、19年度(4億円の赤字)より赤字幅が拡大した。だが補助金を含めると20年度は3億円の黒字、21年度は7億円の黒字になっていた。
病床確保料は病床を空けることで生じる収入減を補填する狙いだったが、実際は減収分を上回る補助金が支払われたとみられる。コロナ対応に病床を割いて補助金を受け取った病院ほど業績の改善度合いが大きい傾向にあったためだ。
通常の補助金はかかった費用に対して実費を支払うが、病床確保料はコロナ患者のために病床を空けただけで支払われる。人員配置などの都合で休止した病床分も補填する手厚さだ。
補助金が患者受け入れをためらう病院の背中を押したのは事実だ。国内で確保できる病床数は20年5月の1万6081床から22年3月には4万3671床と2.7倍に増えた。
一方、補助金を受け取りながら故意に患者を受け入れない「幽霊病床」の存在が指摘されるなど、巨額の国費で政策誘導したひずみも生じた。
国は制度の見直しに後ろ向きの姿勢をとり続けた。ようやく22年1月に直近3カ月の病床使用率が都道府県平均の70%を下回った病院の補助金を減額する運用を開始。22年9月に23年3月までの半年間で病床使用率が50%を下回る病院には補助金に上限を設けることを決めたものの、自治体や病院から反発が起きると知事が特段の事情があると認めた場合には適用除外できるとトーンダウンした。
病院と協議して病床を確保する都道府県のコスト意識も乏しかった。財源は国の全額負担で、受け入れ態勢を精査する前に病床を上積みすることが優先された。
検査院のアンケートに対し、調査対象期間に病床使用率が50%を下回った病院の約9割が「都道府県などからの患者受け入れ要請自体が少なかった」と理由を説明した。ところが実際には入院先が決まらずに自宅待機を強いられた患者が相次いだ。
自治体と病院のコミュニケーション不足を解消し、医療スタッフや設備などを地域で調整していれば、確保病床を無駄なく活用できたはずだ。
日本は人口あたり病床数が世界首位なのに医療逼迫を繰り返している。役割分担せずに病院が乱立し、医療人材や設備が分散しているからだ。非効率な地域医療体制を改善するにはかねて病床の再編が必須とされてきた。
しかし巨額の補助金によって赤字続きだった病院も経営状況が好転し、危機感を背景にした改革機運は後退した。新型コロナを巡っては感染症法上の分類を季節性インフルエンザと同じ「5類」に移すべきかの議論が始まっている。病院への財政支援のあり方を見直し、病床再編の推進に再びカジを切る必要がある。(小西雄介、高橋彩)」
2023年1月13日付日本経済新聞、
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE066R20W3A100C2000000/
「会計検査院は13日、新型コロナウイルス患者の病床確保事業の検査結果を公表した。国は2年で3兆円を超す補助金を医療機関に交付したが、受け入れ態勢が整っていない病床の分も支払うなど制度の不備があったと指摘した。コロナ対応に病床を割くほど補助金でもうかる構図になっており、厚生労働省に改善を求めた。
国はコロナ患者の受け入れを促すため「病床確保料」などを医療機関に支払っている。検査院によると、2020~21年度で3483医療機関に計3兆3848億円が交付された。
日本経済新聞も22年12月、調査報道シリーズ「国費解剖」で病床使用率が都道府県平均を大きく下回った404病院に2年間で3660億円超が支払われたと指摘した。補助金が過剰投入された実態が改めて浮かんだ。
検査院は国公立病院や大学病院など、地域医療の中核を担う496病院を抽出して調べた。交付額は全体の42%の計1兆4057億円に上った。
病床確保料について①患者受け入れ態勢ができていない病床でも交付②もともと空床でも交付③一部で高めの補助金額――の不備を指摘した。
①では医師や看護師を確保できずに入院要請を断った病院が8つ見つかった。ある病院は78床確保したとして病床確保料を受け取りながら、実際に受け入れ可能な病床は41床だった。態勢整備を交付要件で明示しなかったことが原因だ。
②はコロナ患者受け入れのため休止した病床の問題だ。検査院がこれらの病床についてコロナ前の稼働率を調べると17病院で50%未満だった。過去の稼働率に関係なく休止すれば補助金を交付する甘い仕組みだった。
③は集中治療室(ICU)1床で1日最大43万6千円を交付したが、大病院の6割で診療報酬より確保料が高かった。最も差が大きい病院で29万4千円の開きがあった。実際にコロナ患者を受け入れるより、空床にしておく方がもうかる構図だ。
検査院は入院患者が多かった21年1月と8月、22年2月の病床使用率も調べ、半数以上の269病院が1度は50%を下回っていた。
検査院は補助金交付要件で患者の受け入れ態勢が整っていることを明確にし、実態に合わせて金額を設定するよう厚労省に要請した。
厚労省は取材に「今回の指摘を踏まえ適正な執行のために都道府県に調査、報告を求める予定」とコメントした。
▼病床確保料
新型コロナウイルス患者を受け入れるため病床を空けた場合に支払われる補助金。通常医療を制限するなどして休止した病床も交付対象となる。集中治療室(ICU)は1床1日最大43万6千円、一般病床は同7万4千円が空けた病床数と日数に応じて支払われる。財源は国の緊急包括支援交付金から拠出される。
-補助金、目立つ副作用 医療の効率化遠のく-
会計検査院がコロナ病床確保で投じられた補助金の過剰ぶりを裏付けた。何度も批判されながら抜本的な見直しをためらう国に一石を投じた。補助金で病院経営が潤ったことで、非効率な病床を再編する改革機運が後退するなど副作用も出てきた。
「病院が補助金でもうけようとした証拠はなかったが、結果として黒字幅が大きくなった」と検査院の担当者は話す。
検査院は検査対象にした496病院のうち、国立病院や労災病院など269病院の医業収支を分析した。1病院あたりの平均額は補助金を除くと20年度は8億円の赤字、21年度は7億円の赤字と、19年度(4億円の赤字)より赤字幅が拡大した。だが補助金を含めると20年度は3億円の黒字、21年度は7億円の黒字になっていた。
病床確保料は病床を空けることで生じる収入減を補填する狙いだったが、実際は減収分を上回る補助金が支払われたとみられる。コロナ対応に病床を割いて補助金を受け取った病院ほど業績の改善度合いが大きい傾向にあったためだ。
通常の補助金はかかった費用に対して実費を支払うが、病床確保料はコロナ患者のために病床を空けただけで支払われる。人員配置などの都合で休止した病床分も補填する手厚さだ。
補助金が患者受け入れをためらう病院の背中を押したのは事実だ。国内で確保できる病床数は20年5月の1万6081床から22年3月には4万3671床と2.7倍に増えた。
一方、補助金を受け取りながら故意に患者を受け入れない「幽霊病床」の存在が指摘されるなど、巨額の国費で政策誘導したひずみも生じた。
国は制度の見直しに後ろ向きの姿勢をとり続けた。ようやく22年1月に直近3カ月の病床使用率が都道府県平均の70%を下回った病院の補助金を減額する運用を開始。22年9月に23年3月までの半年間で病床使用率が50%を下回る病院には補助金に上限を設けることを決めたものの、自治体や病院から反発が起きると知事が特段の事情があると認めた場合には適用除外できるとトーンダウンした。
病院と協議して病床を確保する都道府県のコスト意識も乏しかった。財源は国の全額負担で、受け入れ態勢を精査する前に病床を上積みすることが優先された。
検査院のアンケートに対し、調査対象期間に病床使用率が50%を下回った病院の約9割が「都道府県などからの患者受け入れ要請自体が少なかった」と理由を説明した。ところが実際には入院先が決まらずに自宅待機を強いられた患者が相次いだ。
自治体と病院のコミュニケーション不足を解消し、医療スタッフや設備などを地域で調整していれば、確保病床を無駄なく活用できたはずだ。
日本は人口あたり病床数が世界首位なのに医療逼迫を繰り返している。役割分担せずに病院が乱立し、医療人材や設備が分散しているからだ。非効率な地域医療体制を改善するにはかねて病床の再編が必須とされてきた。
しかし巨額の補助金によって赤字続きだった病院も経営状況が好転し、危機感を背景にした改革機運は後退した。新型コロナを巡っては感染症法上の分類を季節性インフルエンザと同じ「5類」に移すべきかの議論が始まっている。病院への財政支援のあり方を見直し、病床再編の推進に再びカジを切る必要がある。(小西雄介、高橋彩)」