夏の創作怪談・弁当を広げる女

　ある日の夜、貸出期限日だった本を図書館に返却しようと家を出た。開館時間はとうに過ぎていたので土砂降りの中返却ポストを目指して歩いていると、図書館外周を取り巻いている塀に等間隔でデザインされた大きな丸い穴に女性が一人座って弁当を広げていたので何も見なかった事にした。

旅路その４６・初夏の儀式

たかあきは初夏のかつての故郷に辿り着きました。名所は城址公園、名物は焼き菓子だそうです。

　故郷は田舎だったので都市と呼べる規模の街はバスで数時間掛かる場所にあった。そして年に一度、夏の初めにその街の中心部近くにある城の石垣だけが残った公園を訪れ、良く手入れされた樹木に囲まれた四阿で屋台の焼きとうもろこしを食べるのは、確かにその頃の私にとって極めて重要な儀式だった。