カケラノコトバ

たかあきによる創作文置き場です

旅路その56・喪われた旅

2019-07-29 21:00:16 | 旅人の記録
たかあきは夏の廃墟に辿り着きました。名所は古墳、名物は野菜料理だそうです。

 私が子供の頃に祖父母が住んでいた村はとうに朽ち果て、残された廃墟はかつてこの地に暮らしていた人々の墓標のように思えた。様々な野菜を育んだであろう畑は丈の高い雑草に覆い尽くされて見る影もなく、自然と言うものの本質が何処までも人間の文化的な生活とやらと相容れないものであるのを雄弁に物語っている。
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骨董品に関する物語・星のグラス

2019-07-29 20:46:00 | 突発お題

 手品師だった伯父は、よく魔法陣の描かれたクロスに星模様の入った細長いグラスを五つ星の形に並べてから水を注ぐとシャンパンに変わるという手品を披露してくれたが、ある日弟が過失でグラスを割ってしまって以来、どんなに頼もうと種明かしどころか手品もしてくれなくなった。
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骨董品に関する物語・すみれ色のロザリオセット

2019-07-29 20:41:44 | 突発お題

 教区の人々に慕われた葡萄酒好きな神父に、人々はお金を出し合って葡萄酒色の数珠を贈った。集まったお金は紫水晶の数珠を買える程の金額ではなかったが、ガラスビーズ製で長めのものと短めのものを揃いで用意することが出来たので、それからの神父は礼拝の時にどちらかを常に身に着けていた。
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骨董品に関する物語・キマイラのコーベル(棚)

2019-07-29 20:40:06 | 突発お題

 誘蛾灯に誘われる蛾のように、異形の者たちは光に誘われながら輝きの下で浮かび上がる異形に知る必要のなかった己の醜い姿を思い知らされ、その身を光で焼き焦がす。だから悪魔は闇に潜んで光を憎み、神の子である人間の心を闇に堕として異形と変え心の慰めとするのだと言う。
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骨董品に関する物語・空色のロザリオケース

2019-07-29 20:38:08 | 突発お題

 太陽にも月にも、お星さまにだって神様や天使は暮らしていらっしゃるのに、どうして空には神様がいらっしゃらないのと尋ねてきた娘に、空は広すぎて一人の神様や天使では治め切れないんだよと答えると、それじゃ空があんなに青くて綺麗なのはきっと寂しいからなんだねと呟いた。
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骨董品に関する物語・ガラスと真鍮のチボリウム(聖体容器)

2019-07-29 20:34:35 | 突発お題

 彼は急な病で息を引き取る直前、僕は帰るけど必ず戻ってくると言い遺した。不幸な生い立ちの末に家族も故郷も捨てた彼が本当に帰りたかったのは恐らく己が生まれ落ちた場所よりも更に深く広い世界で、だからこの器に入った聖なるパンは、きっとそこから戻った彼の肉体でもあるのだ。
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