うちは二階建ての細長いアパートで、私が住んでいるのは大家さんが物置にしている角部屋の上だ。ある日昼寝をしていたら下の方から「…ねえ」と聞こえてきたので無視したら今度は耳元で囁かれ、更に無視していたらようやく聞こえなくなったが数日後に反対側の角部屋の人が引っ越していった。
うちは二階建ての細長いアパートで、私が住んでいるのは大家さんが物置にしている角部屋の上だ。ある日昼寝をしていたら下の方から「…ねえ」と聞こえてきたので無視したら今度は耳元で囁かれ、更に無視していたらようやく聞こえなくなったが数日後に反対側の角部屋の人が引っ越していった。
そのボタンは何度も新しい服に縫い付けられ、その時々に服の魅力を引き立ててきた。やがて既製服が浸透した時代に取り外しや管理が面倒だと言う理由で服から外されたままのボタンは、今となっては時折宝石のようだと人々に賞賛されながら骨董品として仕舞い込まれたままだ。
産まれた時から体が弱かった娘の誕生日に、私の兄は真珠色のスズランと空色のスミレが描かれた淡いピンク色の菓子器を贈ってくれた。もしスミレと空がこんな色の世界でだったら私も元気になれるかなと寂しそうに微笑んだ娘はその後逞しく成長し、菓子器を菓子で溢れさせている。