東京新旧写真比較(1996/2008) No.19
靖国通りに面して建っていた映画館。
記憶があまりはっきりしないが、新宿松竹会館は4つのスクリーンがあり、ファストフードなどのショップも入居していた大型建物だった。ここで映画を観たのは数回。釣りバカとか文芸系の映画を見たことがある。内部に入ってしまえば何のことはない普通の映画館だった。
調べてみると、最大のスクリーンはかなり大きく820席、一方最小は44席という小ささだったという。
ただ私は、歌舞伎町の側からこの建物を見たときのこの無骨な外観(特に上部)がずっと気になっていた。建物の足下を歩いて入口にたどり着くと全然分からないのだが、遠くから見ると、あれは何?、と言いたくなるような形をしている。いまどきのキラキラした建物からは程遠く、かといって戦前の近代建築のようなクラシックなものでもなく、ごっつい外観。
建物の用途に従って設計をして、外部を飾り立てることなく、内部の空間を隠さずに外観に現した武骨な外観。特に上部は映画館の形そのもの。
だが結果的にこの外観からは、映画というものについてまわる庶民的な憧れの感覚が排除されているような気がしていた。確かに映画館としての機能は満たしているし、劇場内部の方はこんなに武骨ではなく、古くてもラグジュアリーな空間だったのだが、この外観だけを見ると映画を見ようという気分が少々萎えるものがあった。あの汚い外観の建物で映画見るのー?、あたしイヤよっ、と言われそうなくらい、薄汚れた外観。内部は違ったんだけど。私も含めて庶民としてはやはり、映画という非日常体験をする時に、それを見る空間の周囲も非日常空間であって欲しいと思う。
その意味では、新宿という街には豪華絢爛系や文芸路線の映画は、今まではどうも似合っていなかった。ギャング映画とか、成人映画など、全体にざらざらした系統の映画でないと街の雰囲気には合わない。見終わった後、外に出て美しい夢の続きを見ることができる街ではないような・・・。すぐに現実に引き戻されるというか、別の現実を見せられてしまう街。
数年前に早稲田の学生に、新宿と映画について問うてみたところ、女子学生を中心に新宿ではあまり映画を観ないという回答が多かった。周辺の私鉄沿線都市に出来はじめたシネコンで観るか、日比谷・有楽町へ行くという惨憺たる結果だった。少なくとも数年前まではそんな感じだったのだ。
だが最近は状況が少し変わってきたらしい。シネシティ新宿としてイメージアップに取り組んだから、というのだけでは残念ながらない。歌舞伎町の映画館は、箱自体が現在のところ変わっていないので、さしたる変化はない。
変わったのは新宿東映の跡にできた新宿バルト9であり、今回の新宿ピカデリーである。新宿区新聞などによれば、新宿バルト9はかなりの集客力をみせているようだ。歌舞伎町には来ないような、若い女性が来ているという。旧新宿松竹会館も、今回、完全に建て替わって、同様に、新宿では新しいタイプの映画館になったようだ。新宿ピカデリーのサイトによれば、4Fから11Fに、115〜580席の大小さまざまな10のスクリーンがある。内部もきれいで、今まで新宿で映画を見なかったカップルも来るようになるだろうなと思われる。
副都心線が開通した新宿の街は、映画館一つをとってみても次第に変わりつつあるのかもしれない。
ただ、改めて、新しくできた新宿ピカデリーの外観を見てみると、新宿バルト9が入居している、新宿三丁目イーストビルになんだか似ている。とても繊細できれいな感じなのだが、いまいち印象が強くない建物だなぁ。今さら言うのもなんだが、前の建物の方が個性的で面白かった。上の方で書いた文とまるで矛盾するのだが、新しいのができてみたら、昔の建物の意外な面白さが分かった気がする。
以前の建物の二倍近いヴォリュームがあるようなので、濃いデザインとか派手なデザインだと街並みを混乱させることになり、それはそれで困るのだが、ここまで無色透明な感じだと、どうなのかなぁと思ってしまうのだった。
映写室からのつぶやき
> File.37 新宿松竹会館が建替え、 File.51 新宿松竹会館メモリアル 1
新宿経済新聞 > 新宿松竹会館、シネコンへの再開発始まる
新宿ピカデリー
Tokyo Lost Architecture
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