都市徘徊blog

徒然まちあるき日記

日立御茶ノ水ビル

2010-08-01 | 千代田区 
お茶の水橋から聖橋と日立御茶ノ水ビル
所在地:千代田区神田駿河台4-6(Google Map
竣工 :1983(昭和58)
構造 :S造
階数 :20F・B3F
2008年10月末から解体
Photo 2008.4.21

 もとは日立製作所の本社ビル(自社ビル)だった。2003年に森トラストに売却され、御茶ノ水セントラルビルという名になったそうだが、日立が賃貸して継続利用していた。しかし2006年に本社が丸の内に移転し、その後、解体されることに。建て替え後については未把握。

 このビルを建てる前は、日立本社は新丸ビル内にあったそうなので、およそ四半世紀ぶりに丸の内に本社が戻ったということらしい。だが、個人的には、上京した頃から日立は御茶ノ水が本社だったので、おやおやという感じ。

 改めて写真を見ると、う~ん、あまり特徴のあるビルではない・・・。聖橋の橋のたもとにドーンと建ってる感じで、ボリューム面での存在感はあるけど、とにかくシンプルでどちらかというと地味な形。でも、オフィスビルとしては基本を押さえたオーソドックスで合理的な建物だったんじゃないのかと思う。唯一、屋上に二本、高いアンテナが立ってるのがちょっと印象的だった。玄関とか建物周りの様子は結局撮ることがなかった。目立った特徴が無かったのか、そのへんの記憶はほとんどない。だがやはり大きな建物だったので、なくなってしまうと景色に与える影響は大きい。


 最近は20階建て程度の大型ビルでも建て替えられるケースが出てきた。新しい建物の場合、その土地の容積率指定が緩和されていない限り、建て替えてもそんなに大きくはならない。それでも建て替えようというのはどうしてなんだろうと、時々疑問に思う。そのような場合に建て替えの理由として考えられるのは、構造面に問題がある、設備面で問題がある、使い勝手の面で問題がある、という3つの内のどれかではないだろうか。

 以下は、ビル設計に関しては素人ながら、建築を多少かじった身として考えたこと。

構造面
 地震が多い日本では、耐震、免震、制震などの技術開発が徐々に進んできた。いろいろな地震を経験してデータの蓄積も進み、建築基準法も何度も改正されて、安全に関わる基準は年々厳しくなっている。この日立本社ビルは1980年代の建物なので、まだ30年も経っていなかったが、比較的新しい建物でも、その後の研究などで大きな地震が来るともしかすると危ないかも・・・、みたいなことになる場合がなくはない。また、倒壊してしまうほど危険ではないが、現在の基準に照らすと違反になってしまう「既存不適格状態」になるケースもある。そのような場合も、継続利用するには耐震補強などをすることになるが、その手間とお金が掛かりすぎると、建て替える方が手っ取り早くなってしまう。

設備面
1)単純に、設備が老朽化している。大昔の建物でメンテナンスが悪いものには、基本的な設備さえもダメになってる場合があるようだ。日頃のメンテナンスがされていないと、いざという時に金が掛かりすぎて、建て替えるしか方策がなくなってしまうこともある。
2)最近の設備の要求に対応しきれていない。古い建物の場合、電気をたくさん使うことを前提にしていなかったりして、設備面が弱いことがある。また、天井が低い建物はOA対応がしにくい。それからOA機器はそれなりに重いので、床が頑丈にできていないと、たわんだり抜ける可能性がある。後付けで対応した建物は天井が更に低くなったり、段差ができたりと、ぱっとしない感じになることがある。
3)環境対応があまりできていない。賃貸の場合、エコとか省エネの面も最近は選定基準になったりするらしい。あと、この日立ビルの場合はアスベスト問題があったそうで、中銀カプセルタワー同様、これは建て替えを後押しする要因になっている。
 ちょっとした設備増強だったら改築で凌げるが、大掛かりなことになると、やはり建て替えた方が早いという判断になるのだろう。

使い勝手
 エレベーターや通路の位置などフロアプランの関係で、使い勝手は多少影響を受ける。また最近はセキュリティゲートをつけている会社やビルも多いが、最初からそれを念頭に置いた設計になっていないと、使いづらくなってしまうこともあるかもしれない。また自社ビルとして建てられた建物を、賃貸としてフロア貸ししようとするのは、アクセスやセキュリティ面でやはり勝手が違うのかもしれない。

 会社自らがビルを保有して自社ビルとして使っている間は、当然その会社が建て替えるかどうかを決める。どちらかというとせっかく建てた建物をそう簡単に建て替えたりはしない。

 だが、賃貸ビルだと、とっとと建て替える方が良いという判断になる傾向があるかもしれない。賃借していた会社が出て行ってしまうと、構造面、設備面、使い勝手の面で、他に比べて見劣りがするビルには新規に店子が入らないわけで、保有する会社は賃貸ビルとしての資産価値を上げる必要に迫られ、早めに建て替えるべしという判断を下すことにもなる。中小の会社は、古い建物でも賃料が安ければ入居するかもしれないが、大きな会社になるとやはり、新しい建物を選ぶことが多いかもしれない。

 古い建物が選ばれるのは、デザインが特に良くなおかつメンテナンス状況も良い、場所や建物に何らかのブランド力がある、などのかなり限定された場合かもしれない。だから戦前の立派なビルなどには意外に入居希望があることもある。その一方で、高度経済成長期の「ふつーの」ビルは、意外に存続が難しい状況になってきているのかもしれない。

 ただ一方で、最近、この高度経済成長期のモダニズム系オフィスビルのファンが密かに増えつつあるという。

 戦前のいわゆる様式的近代建築は、保存されるか解体されるかがはっきりしてきた。保存される方はみんなが知ってる文化財になり、そうでない方は残念ながらどんどん無くなっていく。そのような中、戦後のモダニズム系オフィスビルは、まだあまり手垢が付いてない分野かもしれない。とはいえ、まだ文化財にはなっていないが、将来は文化財になるかもしれない建物が、徐々に、そして加速度的に失われつつある状況にも突入しているようだ。だからこそ、今の内に見ておきたい気分になるというのは分かる気がする。

 日立御茶ノ水ビルは、そのような高度経済成長期の建物よりも更に新しいビルだったのだが、なんだかあっさり取り壊しが始まっていつのまにか消えていってしまったのでした。

Wikipedia - 日立製作所
東京23区の超高層ビルを中心とした再開発 ... - 御茶ノ水セントラルビル建替

Tokyo Lost Architecture
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コメント (7)
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