履 歴 稿 紫 影子
北海道似湾編
カケス 7の3
カケスと言う鳥は、香川県にも居たかも知れないが、北海道へ移住をするまで、その名さえ知らなかった私であった。
従って、私は似湾へ来て始めてその鳥の名を知って、その鳥の姿を見たものであった。
その日も私は保君と跳釣瓶の井戸の傍で相撲を取って遊んで居たのであったが、その時刻的には太陽が正に西の山に沈まんとする頃のことであったが、綺麗な羽をした鳥が五、六話羽の群れとなって、ギャアギャアと鳴きながら、南の方向から飛んで来たのだが、その鳥の大きさは鳩程の大きさでしかなかったが、嘗て私が見たことの無い鳥であった。
その私には珍しい鳥が、跳釣瓶の井戸の傍に在る雑木の茂みの中で、只一本亭亭と天を摩して居た桂の大木の枝に止まった。
そうした鳥の様子を見た私は、「保君、一寸待てよ。」と、保君との相撲の遊びを止めて、「保君、あの鳥綺麗だなあ。」と言って、見とれて居ると、「なんだ、カケスじゃないか。」と簡単に言い捨ててから、「お前あの鳥欲しいのか。」と保君が言ったので、「うん、欲しいなあ、俺この鳥見るの今日始めてなんだ。一羽飼って見たいなあ。」と言う私に、「そうか、よし俺が一羽捕てやる、明日まで待っとれ。」と言って、保君は、その日も自分の家から鉈を持って来た。
そうした保君は、「オイ、あの桂の木の下へ罠を作るんだ。そうすると明日は屹度カケスが捕れるぞ。」と言って、その桂の木の下の雑木の茂みから、枝がY字になって居て、根元が4糎程の大きさの木を1米程の長さに揃えて二本切って来た、そしてそのY形の上部を十五糎程に揃えた。
そうした保君は、更に附近から中指程の太さの萩の木を、矢張一米程の長さに揃えて二本切って来た。
「オイ、これで準備は出来たんだ。あとは明日学校から帰ってからまた作ることにするべ。」と保君が言った時に、丁度夕食の時刻であったので、彼の家の表から、「保、ご飯だよ」と呼ぶ母親の声に、「さよなら」と言って、保君は帰って行った。