井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

チューナーの効用

2010-07-19 23:50:12 | ヴァイオリン

機械類がとても好きな友人がいて,身近な家電製品のみならず,車,バイク,飛行機,何でも,と思いきや,嫌いな機械が二つだけあるという。それはメトロノームとチューナー。なるほど,己のできなさ加減を教えてくれる忠実な僕の仕事は,余計なお節介ということか。

管楽器の世界では四半世紀前から常識になっているチューナーの使用,ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロではまだまだ普及していない。根強い懐疑論があるからだと思う。曰く、チューナーがないと音を取れないのではないか、耳が発達しないのではないか・・・というような意見が出てくるのは容易に想像がつく。

20年くらい前だったと思う。あるクラリネット奏者が「○○先生はチューナーのこと、あまり知らないんだよね。」生徒のチューナーを見て珍しがって、チューナーを見ながら吹いていた。「結構、音が外れているんだよね。」その頃、その先生は在京オーケストラの首席奏者だった。いわゆる「名手」でも、チューナー的な音感 (=平均律) からすると「外れて」いる現実を、我々は新鮮に受け止めたのだった。

その後、日本の管楽器奏者のイントネーションは飛躍的に改善された。その伝でいくと、チューナーを使わない手はないように思える。

もちろん、弦楽器奏者のイントネーションだって、かなり精度が上がった。それがチューナーの使用によるものかどうかはわからない。チューナーとは大して関係ない可能性もある。

ところで、チューナーのない昔、音高の訓練はどうしていたか。

筆者の師匠(I)はレッスン時、音階を弾くのに合わせてずっとピアノを弾いてくれていた。(なので、それは筆者も現在にいたるまで踏襲している。)

師匠II(田中千香士)は「一緒にピアノで弾いてもらって、それに合わせるのが一番いい」と教えてくれたことがあった。

(ということは、両先生の師匠格にあたる斎藤秀雄先生も、その方法だった可能性がある。)

この方法の最大の難点は、一人でできないことにある。

また、筆者が育った頃のチューナーは、いちいちダイヤルをAならAに合わせてから音を出し、それが合っているかどうかを針が教えてくれ、Fを合わせたければ、ダイヤルをFにして、という恐ろしく面倒な機械だった。こんなことをする暇があったら、耳を直接鍛えたがマシという風に考えるのが自然である。

しかし、ほどなくして音名を自動識別するチューナーが出ていたようだ。こうなると話が変わってくる。こんな便利な機械を使わない手はない。

問題は使い方である。大事なのは、音が合った時の左手・指の状態、音の聞こえ方をよく記憶しておくことである。このくらい指を拡げた時、この音の高さになる、ということを指と耳に覚えさせる、それを繰り返せば、そのうちチューナーが無くても耳は正しい音高を認識し、指は正しく動くようになるだろう。

この「記憶させる」が「上達」なのである。そんな、音高と指の状態なんて、とても覚えられない、と子供時代には思っていた。これが「間違い」である。タイムマシンがあったら、昔の自分に言い聞かせたい。「いや、絶対記憶できる!」

という訳で、チューナーを使うように常々指導しているのだが、筆者の生徒はなかなか使おうとしない。それでいつまでたってもイントネーションが怪しい。使うな、と言ったら使うようになるのだろうか・・・。