駅のホームに紙をかかげて立つ少女。見ると、
「やまぴーこんチケットありませんか?」
ぴーこんと言えばP.con.(Piano cocertoピアノ協奏曲)だ。「やま」は何?
改札出ると、「チケット持っていたら買うよ」というだみ声が聞こえてきた。久しぶりに見た「ダフ屋」だ。何だこの騒ぎは・・・。
紙をかかげている少女達もどんどん増えていく。交通整理のお兄さんもあちこちに立ち、私のように関係ない者までまきこまれそうになる。行列が始まり、ハンドスピーカーの声が聞こえる。「○○席は向こうの列に並んで下さい・・・」
こうなると確かめたくなるのが人情というもの。
ホールの催し物案内で、ようやく正体がわかった。
山下智久、という方の演奏会だった。誰ですかね?
その方が、1万数千人を収容するホールを三日間満席にしているのだ。自粛なんてどこの国の話、とばかりに。キヤアキャア言っている少女の中には、シベリウスのヴァイオリン協奏曲を練習しているような大学生も含まれている。
その現実を目の当たりにして、古い映画を思い出した。
シューベルトが演奏会を開くけれど、なかなか人が集まらない。人々は、パガニーニに心奪われていて、みんなパガニーニを聞きに行ってしまったのだ。そのうち、シューベルトもパガニーニに夢中になってしまう・・・。
関東地方は一斉にコンサートが消えたが、関係なしに開催され、それを別にとがめる雰囲気も全くなく、ということが別の地域ではいつも通りに行われている。「これでいいのだ」
クラシック音楽の演奏会でも「ダフ屋」が出てくるくらいの人がいればさらにいいのだけれど。