ヴァイオリンを演奏することと教育することに関して、筆者は専門家である。しかし、楽器そのものに関しては専門家とは言えない。しかし専門上、大事な道具であり、ある程度は知っておかないと具合が悪く、機会あるごとに知識は仕入れている。
これは程度の差こそあれ、楽器演奏者に共通することであろう。それが専門家でなくても、である。
ところが案外知られていなくて、悩んでいる方も結構見受けられるので、筆者から見て「常識」とその一歩先程度までを、この場を借りて紹介しておくことにする。
「弓」の話である。
まず、弓は本体と違って消耗品、使ったら減るものだという認識が必要である。が、家電製品よりは長持ちする消耗品で、どんなに短くても数十年は大丈夫。
なーんだ、と思われるかもしれないが、百年以上たった弓を買いたくなる場合もあるから、その時に本体と同じ認識ではうまくいかない。
次に、使用されている「木」が重要。ペルナンブコ(フェルナンブコだと主張する専門家もいらっしゃるが)材と呼ばれる、ブラジルのペルナンブコ州(アマゾン河の河口近く)で採れる木で作ったもののみが「弓」と見なされている。それ以外の木、サクラ、スネークウッド、他のブラジルウッドは価値があまりない。
バロック時代には、このペルナンブコ材がなかった。ので、バロック奏者のレプリカ楽器は、わざわざ他の木を用いたりしているが、それがいいと思っている人は「汚い音」が好きな変人だと思う。
弓には高密度な木が必要で、その昔トゥールトTOURTEという弓作りの名人が、香料の原木から探し出したのがペルナンブコ材と言われている。
しかしブラジルは政情不安定で、そこから原材料を仕入れるのは容易ではない。日本で長い間ペルナンブコ材で弓が作れなかったのは、そういう理由もある。
ところがアメリカには、そのずっと以前にペルナンブコ材を大量に仕入れていた人もいたらしい。そこからのルートで、安定供給がある程度可能になったとのこと。
そうして国産でもようやく質の高い弓が作られるようになった。Aルシェ社の弓が出た時は、本当に驚いたものだ。(残念ながら、現在、創業当時の高品質は維持できていないが。)
そして数年前、Aルコスというブランドで、ブラジルから弓が比較的安価で輸入され始めた。この会社には、弓づくりの腕利きが何人かいるのだが、フランス人だったりドイツ人だったりするらしい。そして彼らは、そのままフランス風の弓やドイツ風の弓を作っているので、同じブランドなのに作風がかなり違うものが混在しているとのこと。価格も一応カタログ上では何段階かに分かれているけれど、実際には同一価格帯の中で結構な差が生じている。これを見分けられるのが専門家で、筆者は(繰り返すが)専門家ではない。
長くなったので、続きはまた今度・・・。