井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

プーランク:ヴァイオリン・ソナタのミス・プリント

2016-05-07 19:49:43 | ヴァイオリン
今度の日本音楽コンクールの第3予選の課題曲に選ばれていたのが、大変興味深い。

プーランクと言えばフルート・ソナタとクラリネット・ソナタである。この2曲と決してひけをとらず、本当はもっと高く評価されて良いと私は思う。

なぜ、この程度の評価なのか。

それはひとえに、演奏が難しい、これに尽きる。ドビュッシーやラヴェルの比ではない。
作曲者自身が「管楽器のための作品が得意」と明言しており、ヴァイオリン的ではないパッセージもちらほら出てくる。

それらのことも影響して、あまり良いと思う演奏に巡りあえない。超がつくほどの一流ヴァイオリニストの演奏でも、首をかしげたくなるものがある。

もう一つ、名演が生まれない理由に、楽譜の問題がある。パリの老舗出版社から出ていたのだが、そこはもう倒産したか吸収合併されたか、今どうなっているか寡聞にして知らない。

その昔の楽譜なのだが、ミス・プリントがいくつかあるのだ。それがとても気づきにくいもので、ヴァイオリン譜とピアノ譜を詳細に付き合わせてわかるものだったりする。
が、その数カ所はミスを訂正した方がすっきりした仕上がりになる。

ピアノ譜には音部記号のミスもあるが、不協和音の連続箇所で、ヴァイオリン側からすれば「ついにここまで変な和音を使うか」で通り過ぎてしまう。
実際、ミス・プリントのまま、堂々とCDになっている演奏もある。
私も数回演奏したことがあるが、最初の頃は気づかなかった。あるピアニストの指摘でわかったのである。

ミス・プリントはドビュッシーのソナタにもあちこちあるが、あのくらい頻繁に演奏されると、楽譜のミスはミスとして認識される。(しかし半世紀以上ミスを訂正しない出版社の見識?常識?もすごい。いちいち訂正していたら、あっという間に倒産するのだろうが。)

プーランクのクラリネット・ソナタは新版が出て、ギョッとするような目新しい箇所もいくつか出てきた。(以前、クラリネット・ソナタに関しては記事にしているが、その後に出版されている。)
ひょっとしたらヴァイオリンも新版が出たのかもしれない。そうなると、上記の悩みは解決するかもしれない。

かも、というのは、新版が新しいミス・プリントを作る可能性もあるからだ。ヴァイオリン教則本のシェフチークなどは、ひょっとしたら新版の方がミスが多かったりして、というお粗末な先例もある。

そのあたりのチェックをしっかりした演奏が良い成績をとる…

ほど単純な問題ではない。繰り返すが、私は無論、超がつくほどの一流ヴァイオリニストでも見逃すくらいのミスである。審査員が見逃しても不思議ではない。

でも、そのミスを探し出すくらい楽譜を読む、これが最も大事なことだ。

そうなると、ミスのある楽譜も使いようだ。「この楽譜には3箇所ミスがあります」と言って楽譜を渡す。渡された側は丹念に楽譜を読むかもしれない。クイズが好きな人だったら。

これを課題曲に選んだ方の慧眼ぶりに頭が下がる思いだ。