井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

フェリ・クローム・テープと交響詩「ながさき」

2011-10-07 00:21:47 | 音楽

カセットテープというのは、私が生まれた頃に開発されたから、その開発の歴史と共に時間を過ごしてきたことになる。最初は、とても音楽を聴く媒体とは言い難い代物だったにも関わらず、オーディオ機器の仲間入りをしたのは結構速かったかもしれない。

その中で「フェリ・クロームFe-Crテープ」というのがあった。カセットテープの磁性体、つまりテープに記録する部分は通常酸化鉄が使われていた。

一方、ものすごい貴重品だった録画のための「ビデオテープ」(1970年当時一本一万円以上したそうだ。バスが30円で乗れた時代に、である。)には、二酸化クロムが使われていた。

その二酸化クロムをカセットテープに使って「クロームテープ」という高級品もあった。二酸化クロムは高域特性に優れているということだったが、低域はむしろ酸化鉄が良いとのことで開発されたのが「フェリ・クローム」。テープベースに酸化鉄を塗って、その上にクロムを塗る「デュアル・コーティング」とか言っていた。

これは上等だったのだ。通常のカセットテープ(かなりノイズがするくせに「ローノイズ」という)の定価が400円の時代(バスは60円から80円)、1000円くらいしたと思う。

私は、その頃フェリ・クローム・テープを2本しか買っていない。

一本はソニーの60分で、ヘンリク・シェリング来日公演のFMを録音したもの。バッハのパルティータとブラームスのソナタ等を録音した。今考えると、FMの音なんてたかが知れているから、わざわざ高級テープを使うほどのものではないのだが、当時はマイクロフォンも持っていなかったから、生録音もできない。シェリングを精一杯大事に扱った証明とでも言っておこうか。

もう一本はスコッチの46分、これには團伊玖磨の「筑後川」(オーケストラ伴奏)と交響詩「ながさき」というLPをダビングした。このLPは九州交響楽団の初LP、師匠の音が入っているし、ということで、それはそれは大事に聴かせてもらった。

それならばLPそのものを買ったらどうかと言うなかれ。このLP、中学校の後輩が先に買ったのだ。そうすると、同じLPを買うというのが、とても不経済に感じたからにほかならない。

それから2,30年して、久しぶりに聴いてみたら、えらくこもった音がする。もしやと思って録再ヘッドをのぞいたら、こげ茶色の粉がまとわりついていた。

恐らく表面の二酸化クロムが剥げ落ちているのだろう。デュアル・コーティングなんてかっこいいこと言って高いお金払わせて、これだからなぁ。酸化鉄のみの普及品の方が寿命が長いなんて皮肉なものだ。

しかもフェリ・クロームが最高級品だったのは十年もなかった。酸化鉄などという「まがいもの」の鉄ではなくて、鉄そのものを磁性体にした「メタルテープ」が開発されたからだ。あわれフェリ・クローム!

さて、そこに録音されていた交響詩「ながさき」。3楽章から成る20分くらいの曲だが、長崎の人にさえ、今では知られなくなった。このLP録音以来、演奏されたことがないからだ。第2楽章は原爆の悲劇を歌った「のどがかわいて、たまりませんでした」が出てくるし、第3楽章の冒頭では爆竹を使うしで、やや演奏されにくい要素があるのは確か。しかし、演奏されない直接の原因は、なんと楽譜の喪失だと、最近伺った。

初演した長崎交響楽団、録音した九州交響楽団、どちらも持っていないという。あとの可能性は委嘱した長崎市役所のどこか。そんなことがあるとは、いまだに信じられないのだが。

途端に、交響詩「ながさき」が名曲に思えてきた。

夾竹桃の花のかげに隠れないで

夾竹桃の花のかげから出てきて 出てきて

このあたりは、筑後川や西海讃歌に勝るとも劣らない、美しい部分だ。楽譜さん、どこかの倉庫に隠れないで、出てきて・・・。


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