チャイコフスキーとブラームスを題材にした授業の話を書いたが、このお二方の音楽は、まるで違う方向性を持っているように見受けられる。一番わかりやすい「メロディーを作る才能」で考えた時、百点満点の天才と常に落第ぎりぎりの劣等生くらいの違いがある。
ほとんどの方が、ここの部分をまず見てしまい、最初の評価を下す。そして、クラシック音楽に強い人間は「いやいや、構築性も大事、この積み上げ方はすばらしい」と、ようやくブラームスを評価する、という感じだろうか。
両方好きな人は大勢いるにしても、両者の別の部分を聞きとって、評価しているのが普通だろう。チャイコフスキーは、豊かなメロディとゴージャスなサウンドが良い。ブラームスはがっしりした重みと厚みを感じる渋さが良い。この逆は考えられない。つまり全く違う、というのが世間の一般的な評価だと思う。
筆者も長年そう思ってきた。
それにチャイコフスキーはブラームスが好きではなかったという話ものこっている。さもありなん、だ。
一方、やはり長年不思議に思っていたことがある。
このお二方、誕生日が一緒なのである。ブラームスが1833年5月7日、チャイコフスキーが1840年5月7日。誕生日が同じだから傾向が同じということはないにしても、両極端に近いのは、何か納得しづらいものがある。
ところが最近、意外とこのご両人、やはり近いかも、と思わせる事項がいくつかみつかってきた。
一つは「ヘミオラ」と呼ばれる「2対3」のリズムを多用していること。二連符と三連符を連続して使用する手法も両者に多い。
メロディメーカーの名をほしいままにしているチャイコフスキーも、ベースラインの変化は笑っちゃうくらい貧しい。一方、ブラームスのベースラインは、古今の作曲家の中でも群を抜いて豊かである。豊かなメロディが高音部にくるか低音部にくるかだけの違いで、これも両者の本質は同じことかもしれない。
さらに、珍事実がある。
ブラームスは4曲の交響曲を遺した。敬愛するシューマンの調性をなぞっているのは、昔から知られている。
シューマンの交響曲の調性は、
第1番 : 変ロ長調、第2番 : ハ長調、第3番 : 変ホ長調、第4番 : ニ短調
ブラームスの交響曲の調性は、
第1番 : ハ短調、第2番 : ニ長調、第3番 : ヘ長調、第4番 : ホ短調
シューマンが「シ♭、ド、ミ♭、レ」でブラームスが「ド、レ、ファ、ミ」。ちょうど一音上になっておいかけている格好だ。
さて、チャイコフスキーは6曲の交響曲を遺している。この調性は、
第1番 : ト短調、第2番 : ハ短調、第3番 : ニ長調、第4番 : ヘ短調、第5番 : ホ短調、第6番 : ロ短調
6曲あるから、もともと対応なんて全く考えない。の・だ・が・・・
第2番から第5番をよく見ていただきたい。この4曲、長短調の違いこそあるが、ブラームスの配列と同じなのだ!
作曲年代順に並べ替えてみよう。
1873 チャイコフスキー第2番
1875 チャイコフスキー第3番
1876 ブラームス第1番
1877 ブラームス第2番
1877 チャイコフスキー第4番
1883 ブラームス第3番
1884 ブラームス第4番
1888 チャイコフスキー第5番
ブラームスの3番まではブラームスが追いかける形、チャイコフスキーの第5番のみブラームスが先行する格好になっている。
しかし、チャイコフスキーの第3番は世紀の駄作だし、2番は書き直して1879年に再発表している。
しかも1888年は、ブラームスとチャイコフスキーが会った年だ。チャイコフスキーはそれでブラームスを嫌いになったらしいが、その後に評価が変わって、という話ものこっている。
一見、ブラームスの後だしジャンケンに見えるけれど、実はチャイコフスキー、結構影響を受けていたりして、とも読める。
いずれにせよ、全く無関係な二人ではなさそうな気配が濃厚。やはり同じ誕生日、お互いに無視はできない間柄だったに違いない。
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