ヴァイオリンを弾く人はピアノを弾く人に比べてリズムに弱い人が多い。
それは楽器の特性に由来すると長年思ってきた。
ピアノでリズムをとるのは上から下に指を動かす動作である。下から上ではないし、腕を左右に動かす訳でもない。
木管楽器は息を吹き込むことと、指を押さえること、この二つの組み合わせでリズムをとる。金管楽器はトロンボーン以外は似たようなところ、トロンボーンは指ではなく腕を動かす。
さて、弦楽器は左の指を押さえる動作と弓を動かす動作の組み合わせである。と言うと木管楽器に近いような表現になっているが、弓は下げても(ダウン)上げても(アップ)音が出るため、リズムをとるのは指の下方向、弓の上方向と下方向、計三つの動作の組み合わせになる訳だ。
木管楽器がハーモニカのように吸っても音が出るのならば、ちょうど弦楽器と同じと言えるのだが、もちろんそうではない。三つの方向を統御してリズムをとるのだから、なかなか難しい。だから弦楽器奏者にはリズムに弱い人が多い、と思った訳だ。
この考え方が間違っているとは思わないのだが、ある日、子供さんのヴァイオリンレッスンを傍で見ていて、それだけではない別のことに気付いたのである。
ある曲をあるお子さんが弾いていて、イントネーションもそれなりに良く、音色的にも悪くなかった。「よくできました」とヴァイオリンの先生共々思ったのだが・・・
実は、各フレーズの最後の音符、長さは正確ではなかったのである。ある時は長く、ある時は短く・・・
これがヴァイオリン弾きからすると、ほとんど気にならない、というのが新発見だった。初心者を見る時、ヴァイオリン弾きが常に気にしているのは、「きれいな音が出ているか」(そのために弓が正しく使えているか)、そして「音の高さは正しいか」、これがほとんどで、音の長さは二の次なのである。
私もいつもだったら見逃していたかもしれない。見逃さなかったのは、そばに「ピアノの先生」がいらしたからである。その上、そのピアノの先生からは「どうもこのお子さんは音価を正確に数えることができないのではないか」という目で見られていたのを知っていた。
その視点に立つと、そのお子さんはまだまだ弾けていないことになるのだ。
ピアノは伴奏声部も自分で弾くから、フレーズの末尾が長かったり短かったりしていては音楽にならない。初心者の段階で、そのあたりは結構修正されるだろう。
一方、ヴァイオリンの場合は、そのあたりはおおらかに、いつかできるさ、と問題は先送りされがちである。
それでも近々に音価の修正があれば良いが、何年も先送りされてしまうと、数える習慣が身につかないで、リズムに弱いヴァイオリン弾きの誕生につながっていったりして、などという想像をしてしまった。
楽器の特性上、リズムに弱くなる傾向が生じるのは止むを得ないとして、だからこそ、正確にリズムをとる訓練を早い段階から意識しておくことが肝要だなぁ、と、そのお子さんを見ながら考えることしきりであった。
そのようなこともあるから、理想を言えばヴァイオリンだけでなくピアノも多少は習っておくと良いのだろうな、とも思った。
今だからぶっちゃけ話しますけど(笑)
ブラームスのピアノトリオ。
新人の頃、散々いぢめられました。
弦のご本人たちは自分たちの伸ばしたいところで
伸ばす伸ばす・・・たまらず、「ここってまだ展開部の途中ですよね?」
と突っ込んだことがあります。が、弦二人は結託して、僕は
一人ピアノで仲間ハズレでした。(笑)もう二度とブラームスのピアノトリオは
やらないと誓ったものです。
学生の頃は、弦楽器じゃなくて声楽の伴奏をアルバイトでやったんですが、
そのときにモーツァルトの魔笛かなにかのアリアを伴奏していて、
その歌い手さんが小節飛ばすは、テンポ早めるはでかなり苦労した
覚えがあります。「歌はテンパラメントなのよ!」と言い放った彼女が
とても印象的でした。(笑)
でも僕は知ってる。
上手いひとは弦楽器でも管楽器でも声楽でも、音価はもちろんリズムやテンポを守るし、ましてや自分勝手に引き伸ばしたり縮めたりしないことを。(笑)
ちゃんとそういうものの上で表現するんですよね。
井財野先生もそうでしょうけど、そういう上手いひとって和声感やリズム感があるんですよね。つまりちゃんと伴奏も含めたうえで音楽と認識してる。
けれど、そうじゃないひとは旋律を弾く自分だけが音楽だと思ってる節があります。
ピアノにおいては、ルバートしたときの「間」において音の香りとも言うべき残響は、和音の繋ぎにあると思います。
学生の頃、僕の師匠だとかホルヘボレットのような名ピアニストの弾く魔法のような瞬間に熱中したことがあります。そしてその秘密は左手にあり!なんて言われたものです。(笑)左手を制する者はピアノを、音楽を制すとも、先輩が言ってましたっけ。
ピアノにおける魅力的な瞬間の多くは、実は左手の巧みな扱い方に
あるんですよね。それが出来ないと表面上弾けても、魅力に乏しく、弾けたという内に入らないかと思います。そのへんは弦楽器の方と認識がちょっと違うかもしれませんね、確かに。
リズムに関しては、西洋的なリズム感に元々免疫のなかった日本人には難しい問題でしょうね。
使わせてもらいます。