井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

あるリハーサル

2010-08-05 18:50:19 | オーケストラ
ちょっと前に行われた,あるリハーサルにおいての話。

ある指揮者「そこの2回目のフレーズは,・・・・・・という具合にやってもらえませんか?」

ある演奏者「そんなことは,○○オケも××フィルもやっていないけれど・・・」とブツブツ。しかし全員に聞こえた。

空気が冷える。

指揮者「だからナニ?って感じ。」

空気が固まる。

指揮者「私がそうしてほしいとお願いしているんです。」

と言いながら,指揮棒を構える。他の演奏者も楽器を構える。

演奏者「好きにさせてもらえませんか。」

全員が凍り付いた。指揮棒も上に上がったまま止まっている。

回答(解凍?)は指揮者からあった。
「○○から・・・」

以後,この箇所をやり直す事は一切なかった。

と,これだけ書くのだとフェアではない。

というのは,その日のリハーサルが始まって10分もしないうちに指揮者が「5分休憩」宣言をした,という前半のクライマックスがあったからである。理由は「タバコが吸いたいから」

ということになっていたが,もちろん本当の理由ではない。実はこの指揮者,予定の指揮者が急病のため,急遽代理として派遣された人だった。

バレエの伴奏の本番だったので,テンポやカットなど,事細かに打合せがなされていた。そこへ登場した代理指揮者,その細かい取り決めが完全に頭に入っている状態ではない。
ある箇所で,一旦隙間を空けてから次に進む約束の場所があった。なかなか隙間を空けるのも難しいところで,オーケストラとしてはようやくそれが体に入っていったというところ。
代理指揮者は構わず突入したが,誰も音を出さなかった。これは見事。

すると代理指揮者が吠えたのである。「なぜだ!」

オーケストラ「かくかくしかじか,このように言い渡されています云々。」

すると代理指揮者「そんなことではなくて,振ったら音を出すんです!一緒についてきて欲しいの!」

これは異なことをおっしゃる。はて,面妖な,と思いきや,指揮者は指揮棒を譜面台に置き「5分休憩」とのたまわった訳だ。

筆者は笑うしかなかった。というのも十数年前,同じようなシチュエーションを「彼と」経験したからだ。「まだやってるの?」と言わずにはいられなかった。偶然にも経験者が数人,オーケストラ内にもいたのだ。なので,休憩中は盛り上がった!

その「二つの」クライマックスが終わってのコメント,「ああいうの,毒をもって毒を制すってやつ?」
などというのもあったが,制しているのかどうかはわからない。斎藤秀雄先生も山本直純さんも,この「突然休憩」という手段を使った話は知っているが,いつまでこの伝統は保持されるのだろうか?

という訳で,件の演奏者もユニークだが,指揮者はもっとケッタイな印象を残しているのである。

その後のリハーサルは,極めて順調に進み,本番も大成功だった。本番さえうまくいけば,全てはチャラになる。これが普通。しかし,このリハーサルの記憶はチャラになっていない。これはこれで愉快な経験だったことになるのかなぁ?とても複雑な心境だ。