JR九州の電車は、新しい物が出る度に「ブルーリボン賞」や「ローレル賞」を「鉄道友の会」から頂いている。と、筆者が自慢する立場にはないのだが、なぜかとても嬉しい。
「ハイパーサルーン」と呼ばれる783系電車は、その皮切りである。各車両の中央に出入口があり、一両がA室とB室に分かれている、という斬新な作り、各座席にはイヤホンジャックがあって、4種類の音声が流れる飛行機並のサービスにびっくりした。クラシック音楽のチャンネルもあって、シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」をありがたく聴いたものだ。
音声の方は故障も多く、そのうち廃止されてしまったが、とにかく「こんな電車は東京にはない!」と、東京に出て行った九州人が一番喜んで乗っていたような気がする。ローレル賞を取ったのが1989年なので、もう20年以上たつ訳だ。筆者の頭の中では新しい電車に分類されているのだが、世間では「新しい」とは言わないのかもしれないなぁ。
そのハイパーサルーンを使って「ドリームにちりん」が走っている。日豊本線を宮崎まで走るのが「にちりん」で、その夜行列車版である。
その昔(昭和50年代前後)は博多・宮崎間をエル特急「にちりん」が6時間40分かけて走っていた。同じ頃、東海道・山陽新幹線の東京・博多間を「ひかり」が6時間40分かけて走っていた。ほぼ同じ時間なのに、「ひかり」はスピードを感じ、「にちりん」は「のろさ」を感じた。「ひかり」は快適で、あっという間に終点、という感じがした一方、「にちりん」は途中の大分で降りたくなるほど、苦痛を感じた。
その後、博多・大分間を「ソニック」という特急が走るようになり、博多・宮崎間の「にちりん」と交互に走っていたのだが、そのうち「にちりん」はほとんどが大分・宮崎間に短縮されてしまい、唯一残ったのが、この「ドリームにちりん」だった。
所要時間は、博多・宮崎間が約6時間40分。そう、30年前と同じ。だがスピードは明らかに上がっている。なぜか?
理由は、大分駅の長時間停車である。何と2時間近く止まっているのだ。
このダイヤは、その昔の寝台急行「日南」のダイヤを引き継いでいる。
筆者がその昔、宮崎の中学生だった頃、この「日南」に乗って博多までヴァイオリンのレッスンに通ったことが何度となくあった。23時頃に宮崎を出て、朝方6時過ぎに小倉に着き、そこから鹿児島本線に乗り換えて博多に向かった。その「日南」が大分で1時間くらい停車するのである。妙に静かになって、たまに目が覚めることがあった。窓の外をみると、月が見えて、まだ夜だと確認し、また寝入る。
そんな思い出があるダイヤに終止符が打たれる。昼間の「にちりん」は苦痛だったので、廃止されても何も思わないけれど、「日南」は苦痛ではなかったので、これを引きずる「ドリームにちりん」の廃止は、結構寂しい。
さようなら、ドリームにちりん。