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2015-12-13 | よしもとばなな



よしもとばなな
『ハゴロモ』★★★★


再読の再読?

今のわたしにぴったりかと。
あぁしっくりきて救われた感



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ものごとはきれいな面だけではない。








仲のいい両親の子供は世界を疑うことを知らないで育つことが多い。私のように。








そういう無駄なやりとりがえんえん続いた。でも結局だだをこねているのは自分だけという状況に追い詰められた。ひとりで質問し、ひとりで答え、ひとりで文句を言っているようなものだった。
つらいなぁ、と私は妙に心静かに思った。それはもう相談ですらないじゃないか、決定じゃないかと
もう少しどろどろもめたり、迷ったり、時間をかけようよ、と思っていた。でも、彼がそう決めてしまったんなら、何も言うことがなかった。







本当は自分が何か大切なものを刻一刻とすり減らしているのはわかっていた。自分の時間、自分の考え方、そういうようなもの。



受け身、受け身の日々だった。








ぴりっとする冷たい風の中には、かすかに、木の燃えた後のような香ばしい冬特有のいい匂いが混じっていた。








人の、感じる心の芯のところは、決して変わることがないようだ。








人と人との間には本当には言葉はない、ただ、全体の感じがあるだけだ。







外は冷たそうな風がごうごう吹いていたが、部屋の中は暖かかった。ヒーターがちょうどよい熱を放っていた。窓はかすかに曇り、その向こうには枯れた木の枝が模様のようにきれいに見えた。








人の、意図しない優しさは、さりげない言葉の数々は、羽衣なのだと私は思った。
いつのまにかふわっと包まれ、今までは自分をしばっていた重く苦しい重力からふいに解き放たれ、魂が宙に気持ちよく浮いている。







東京では考えられないくらいの、きれいな空気だった。それが私を今という時間にひゅっと引き戻した。



東京と違うなあ、と私は思った。だいたいちゃんと空が黒い。東京ではたいてい、夜の空はぼんやりとグレーに明るかったのだ。







この世にはいろいろな苦しみがあり、時間が過ぎていく。自分だけの狭い世界から、少しだけ頭を出して、人の苦しみを思った。








「まじめなおつきあいよ。だって、私の人生、うわついたことをしているひまなんてないもん。本当はもう少しうわついたことをあれこれしたかったくらい、確実に進んできてしまったわ。やっぱりそれは環境の反動ね。」







甘かった、と私は思った。いい意味で、しっかりとそう思ったのだ。








彼はしばらく黙って、遠い、雪山を思っていた。それは、私にも伝わってきた。その憧れ、その渇望。







「私も、経験あるけれど、あれは中毒だと思う。朝、起きてまずTVをつけてしまうと、あっという間に一日がたってしまうの。」







恋愛はすばらしい。でも、この世の中は、もっともっと大きなことでできているんだ、と私はまた実感した。








そうこうしているうちに、私は、だんだん忘れてきた。



時々発作のように思い出が襲ってきて足元をすくわれることはあったが、回数は目に見えて減っていった。



時間というもののおそろしい力を、私は実感した。







青春と呼べる時期に私が考えていたことと言えば、食べ物とセックスのことぐらいだった。








私も私の内面を掘り下げていくことだろう、どこにいても。そして幻の外に一歩踏み出せるかもしれないし、それはまた別の幻に移行するだけなのかもしれない。一生続く、勝ち目のなさそうな戦いだ。








こうやって、ばっさり切られた傷が治っていくように、ほんとうに少しずつ、新しい細胞が生まれてくる。そして、いつのまにか傷があった時とは、決して同じように考えれらなくなってくる。体が勝手に今現在の自分に焦点を合わせてきて、どんなすばらしい過去であろとぼんやりとしてくる。








彼はいろんなことを全然急いでいない、何も急いでいないのだ。



重力から解き放たれ、一瞬、きれいな高みから世界を見おろす。







何かの残り香を求めていたのに、あるのはただ「これまでとは違う」という現実だけだった。







彼はこうと決めたことを、それが私と別れるということであれ、実行できたのだろうう。後追いの未練の電話もなく、急な訪問もなく。








「だって、あの朝に運命がわかれてしまったんだもの。後を追っても、もう、追いつかないわ。」








私は、時間をかけて、自分がちゃんと流れ着くようなところへ行こう。
そのためには、もう少し時間をかけなくては、と思った。







あれ?あんなにふさいでいたのに夕方になったら、もう、気分が変わっていた。
西の方から何かきれいな光がどんどん押し寄せてきて、いつのまにかそれにさらされて気分が変わっていた、だとか、寝て起きたら、全く違う雰囲気に包まれていた。



自然との感応はまるでいいセックスのようなものだ。



「一回泣くごとに、元気になっていくという感じ」



私たちはもうすっかり大人で、実際には簡単に寝ることができた。




























弱っているときにじんわりしみてくる気がする。

まさにそんなお話☆


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