村上春樹
『村上春樹全作品 1979~1989 ② 羊をめぐる冒険』★★★★
文庫本orハードカバーが見当たらなかったため
渋い作品集
冒頭に本人の「自作を語る」新しい出発が収録されているからよしとしよう!
こういう小噺は新鮮でもある。うん。
装幀が和田誠
それにしても渋い
紙質が好き。
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水曜の午後のピクニック
「もちろん誰とでもいいってわけじゃないのよ。嫌だなって思う時もあるわ。でもね、結局のところ私はいろんな人を知りたいのかもしれない。あるいは私にとっての世界の成り立ちのようなものをね」
「一緒に寝ることで?」
「うん」
「それで……少しはわかったのかい?」
「少しはね」
世界中が動きつづけ、僕だけが同じ場所に留まっているような気がした。
「本当にしゃべりたいことは、うまくしゃべれないものなのね。そう思わない?」
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「何も説明しなくたっていいのよ」と彼女は言った。「もう私には関係のないことだから」
「説明しているんじゃないよ。しゃべってるだけさ」
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「とても簡単なことなのよ」と彼女は言った。「あなたが私を求めたから。それがいちばん大きな理由ね」
「もし他の誰かが君を求めたとしたら?」
「でも少なくとも今はあなたが私を求めてるわ。それにあなたは、あなたが自分で考えているよりずっと素敵よ」
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彼は濃いブルーの新しいシャツに黒いネクタイをしめ、髪にはきちんとくしが入っていた。オーデコロンとローションの匂いは揃いだった。僕はスヌーピーがサーフボード を抱えた図柄のTシャツに、まっ白になるまで洗った古いリーヴァイスと泥だらけのテニス・シューズをはいていた。誰が見ても彼の方がまともだった。
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一人の人間が習慣的に大量の酒を飲むようになるには様々な理由がある。理由は様々だが、結果は大抵同じだ。
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「君は昔はもっとナイーブだったぜ」
「そうかもしれない」と言って僕は灰皿の中で煙草をもみ消した。「きっとどこかにナイーブな町があって、そこではナイーブな肉屋がナイーブな
ロースハムを切ってるんだ。昼間からウィスキーを飲むのがナイーブだと思うんなら好きなだけ飲めばいいさ」
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自分にもうまく説明 できないことを、他人に向かって説明することなんてできるわけはないんだ。
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時間というのはどうしようのなくつながっているものなんだね。我々は自分のサイズにあわせて習慣的に時間を切り取ってしまうから、つい錯覚してしまいそうになるけれど、時間というのはたしかにつながっているんだ。
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荷物を持たずに長距離列車に乗るのは素敵な気分だった。まるでぼんやり散歩しているうちに時空の歪みにまきこまれてしまった電撃機みたいな気分だ。そこにはまるで何もない。
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「あんたは先に先にと考えすぎるんだ」
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性格は少し変 るが凡庸さというものは永遠に変りはない、とあるロシアの作家が書いていた。ロシア人は時々とても気の利いたことを言う。冬のあいだに考えるのかもしれない。
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僕は二本目の煙草に火を点け、二杯めのウィスキーを注文した。二杯めのウィスキーというのは僕はいちばん好きだ。一杯めのウィスキーでほっとした気分になり、二杯めのウィスキーで頭がまともになる。三杯めから先は味なんてない。ただ胃の中に流し込んでいるというだけのことだ。
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なんとなく、家に帰る前にまともな人間が二本足でまともに歩いてるまともな世界を見ておいた方が良いような気がした。
「新宿の西口に」と僕はいった。
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「しかし明けない夜がないように、終わらない交通渋滞もありません」
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本当に静かだ、と僕は思う。あたりにはもう物音ひとつしない。我々以外の全ての人々は秋の最初の日曜日を祝うためにどこかにでかけてしまったのだ。
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*
「やれやれ」と僕は言った。
*
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「でも暇つぶしの友だちが本当の友だちだって誰か言ってな」
「君が言ったんだろう?」
「あいかわらず勘がいいね。そのとおりだよ」
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「うまくいくといいね」と僕は言った。
「うまくいくといいね」と相手は言った。
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独りで海に向かったと聞いて怒りがわいてきた・・
身体が熱く「わたしがいてもいなくても」
再度弟くんを伝ってお礼・・うんよいコ。
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