★★たそがれジョージの些事彩彩★★

時の過ぎゆくままに忘れ去られていく日々の些事を、気の向くままに記しています。

京都青春セレナーデ3

2009年11月04日 14時14分01秒 | 小説「京都青春セレナーデ」
 ひときわ高い金管のファンファーレが鳴り響き、体育会系のテントのひとつから、青地に金モールのミリタリー調のコスチュームを付けたチアリーダーたちが踊り出てきた。
 ブラスバンドを後ろに従えたチアリーダーのデモンストレーションが始まると、現金なもので、それまで遠巻きに歩いていた新入生たちがどっと押し寄せてきた。
 当然、修二も最前列に陣取って、膝上30センチの超ミニから繰り出される、アンダースコートも裂けよとばかりのオーバーヘッドキックや、ジャンピング大股開きのムチムチに見とれていた。

「なかなかええ眺めやろ」
 突然、背後から声をかけられて修二は思わず振り向いた。
 そこには丈の長いガクランに身を固めた、角刈りにチョビ髭の学生が立っていた。
 これが、おふくろが絶対に近づいたらいかんと言うとった応援団か…。
「今年のチアリーダーはつぶ揃いやしな。なあ、そう思うやろ」
 そいつは馴れ馴れしく修二の肩に腕を回しながら言った。
「君は新入生やろ?」
「はあ、あのう…」
「もう入部するクラブは決めたんか?」
「いえ、そのう、まだ…」
「そうか、そりゃあいかんな。ほな、あっちへ行こうか」
 修二は半ば強引にテントの下へ連れていかれそうになった。
「ま、待って下さい。用事のあるとです」
「おっ、君は九州出身か?」
 チョビ髭は、修二の九州弁のアクセントに素早く反応した。
「そ、そうですが…」
「そりゃあ、ちょうどええわ。わが応援団は九州出身者も大勢おるから安心や」
「でも、入学式に出んといかんとです」
「時間は取らせへん。入団希望書にサインするだけでええんや」
「え~っ、僕は体力には自信なかですけん」
「心配いらへん。入ったら鍛えたる」
「でも、応援団はちょっと…」
「応援団はちょっと、なんや?」
 そいつは今までの猫なで声から、急にドスを効かせた声になった。
「ぼ、僕には合わんとじゃなかかと…」
「合うか、合わへんか、入ってみいひんことにはわからへんやないか。行こ、行こ」
 肩に回った腕にさらに力が込められた。
 あたりを見回すと、修二と同じような状況に陥っている新入生が少なからずいた。修二は絶望的になりながらも、足を突っ張って動くまいと耐えた。
コメント
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