★★たそがれジョージの些事彩彩★★

時の過ぎゆくままに忘れ去られていく日々の些事を、気の向くままに記しています。

ヘッドハンティング 5

2012年03月11日 23時46分15秒 | 小説「ヘッドハンティング」
  商品一部 仕入一課 係長
   真田雄二(35)

  商品二部 仕入二課 係長
   梶尾康平(34)

  企画部 企画開発課 係長
   大原和之(35)

  情報部 システム開発課 係長
   上島信一郎(36)
 
  業務部 顧客管理課 係長
   川本誠(37)   

 そこには先の人事異動で、左遷同様に異動させられた者のうち、真田を含めて五人のカタログ事業部の係長が、旧所属部署の肩書きで書かれていた。
「まさか、わたしたちは身体ひとつでシーシェルに移れるわけではないんでしょうね」
「カタログ事業に関する情報やノウハウのうち、唯一あなたがたの頭の中に詰め込めないデータが必要です」 
 柳瀬は思わせぶりに言った。
「顧客データ…ですね」
「そう、それも優良顧客を5万から10万件」

 顧客データはカタログ通販の売上げの鍵を握る重要なファクターのひとつで、優良顧客は売上げの重要な基礎票である。
 グループでのまとめ買いをひとつの特色とする万葉社の場合、大きいグループとなるとひとりの代表者(通称お世話係)が何十人もの顧客を組織している。
 仮にひとりのお世話係が、年間100万円分の商品をカタログで購入するとして、5万人のお世話係では年間50億円、10万人だと100億円の売上げに貢献することになる。

「真田さん、あなたはまだ若い。どうでしょう、シーシェルであなたの能力を存分に発揮してみませんか?」
「考えさせてください」
 激しく食指が動く。しかし真田ひとりの意志ではどうにもできない問題である。
「二週間待ちましょう。その間に五人の総意をまとめて下さい。もし総意が得られない時には、この話はどうかお忘れ下さい」


 柳瀬と谷岡が立ち去った後、真田はお代わりのコーヒーを前に考え込んでいた。
 …現在の主流派がいつまでも権勢を誇れるはずはない。
 驕る平家は久しからずである。
 気長にそれを待つのか?
 閑職の社史編纂室とはいえ、一部上場の万葉社にいれば食うに困ることはない。暇な時間は趣味や自己啓発に充てればいい。

 しかし俺のやりたい仕事は、決して社史編纂などという過去の遺物をいじくり回す仕事ではなく、カタログビジネスという無限の可能性を秘めた、現代の時流に密着した仕事なんだ。
 シーシェルでは破格の待遇で、そのやりがいのある仕事ができる。現在は低迷しているとはいえ、最盛期には500億を売り上げ、通販業界の売上げベストテンにランキングされたこともある会社だ。バックには三信興産が控えている。通販部門の責任者の柳瀬の引きとあれば、万葉社ではいろいろ制約があってできなかった、もっとダイナミックなことができるだろう…。
 今の状況を考えると、真田のとる道は明らかだった。
 真田は、冷めたコーヒーを一気に飲み干すと椅子から立ち上がった。
コメント
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