★★たそがれジョージの些事彩彩★★

時の過ぎゆくままに忘れ去られていく日々の些事を、気の向くままに記しています。

ヘッドハンティング 6

2012年03月18日 21時53分15秒 | 小説「ヘッドハンティング」
 柳瀬と会ってから三日後、真田は大原和之を居酒屋『なか』に誘った。
『なか』は真田たちカタログ外人部隊の行きつけの店で、八人掛けのカウンターと、小さな座敷に大小二つの座卓がある、小ぢんまりとした居酒屋だった。万葉社の他部署の社員が来ることはほとんどなかった。

 ふたりは座卓のひとつに席を取った。
「どうだ、調子は?」
 一杯目を一気に飲み干した大原のグラスにビールを注ぎながら、真田は聞いた。
「いいわけないだろう」
 大原はぶっきらぼうに言った。
 もともと大原の言動には企画マンらしい繊細さはなく、どちらかというと、不敵なものの言い方をするので、一部の上役や先輩からは煙たがられていた。しかしながらカタログの企画に関しては非凡な能力を発揮し、仕事の結果で余計な雑音をはね返していた。

「俺も同じさ。時間の流れがもの凄く遅くなった。一日に何回も時計を見てる」
 真田はカウンターの中のママに適当なつまみを頼みながら言った。
「おまえ、知ってるか?一部では俺たちもブラックじゃないかと噂されてるらしいぜ」
 大原が言った。
「誰が本当のブラックかは、俺たちが一番よく知ってるじゃないか。言いたいやつには言わせておくさ」
「しかしカタログ事業部から、俺たち外人部隊はほとんど干されてしまったからなあ。会社のトップのほうはなに考えてんだろう」
「うちは茶坊主が多いからな。正確な情報はトップには届いていないだろうな。当分は山辺摂政政権の天下だろうな」
 

 先の人事異動に伴う組織改編では、カタログ事業各部を統括する統括部が新設され、企画から商品決定、仕入、販促政策に関するほとんどの権限がそこに集権化された。
 統括部の部長は、カタログ事業本部長の松前光三郎専務が兼ねていたが、大手印刷会社からの天下りをしてから日が浅かったこともあり、実務の権限は次期部長候補と目されている、次長の山辺に委ねられていた。

 漏れ聞くところによると、高級クラブを借り切って行なわれた総括部の結成式は、さながら、山辺教組に忠誠を誓う、取巻き連中による秘密結社入会の儀式の様を呈し、我が世の春の山辺は、数軒のクラブやラウンジをはしごして散々酔ったあげく、最後の店の若いママと高級ホテルへしけ込んだ、ともっぱらの噂である。
コメント
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