「あんたは知らんと思うけど、
お父さん、仕事が終わってから毎日、Kに会いに病院に行っててんで。
早く元気になれって、保育器の中にいるKにずっと、念、送っとんてんで」
知らなかった。
母にそう言われるまで私は全く気づくことなく、
病室を訪ねてくれた両親に自分ではどうすることもできない苛立ちをぶつけていた。
息子が新生児仮死。
母として不安に、罪悪感に、やり場のない怒りにさいなまれていた。
そんな自分の気持ちに手一杯で、周りのやさしさに気づく余裕を失っていた私。
父は私の八つ当たりをただ黙ってきいていた。
Kの退院の日が決まった。
父がKの沐浴を担当するという。
家のことはすべて母任せ。何もしないあの父が?!
一同、みんな驚いた。
それからというもの、父は仕事を終えると、寄り道もせず一目散に帰ってくる。
一日働いて汗をかいているからと、まず父自身がシャワーを浴び、身を清める。
新しい服に着替えて、父がベビーバスに慎重にお湯をはる。
お湯の温度にもうるさく、母がちょっと熱いお湯をたそうものなら、
「アホ。Kが火傷するやないか」 母に怒鳴る。
「よし。K、お風呂に入ろう」振り向いた父の満面の笑顔(豹変)
お湯につけながら、いつも決まって「お前、よぉ頑張ったな~ えらかったな~」
毎日毎日、欠かすことなく、保育器からの息子の生還を新鮮に称えた。
父のこの声がけに私はいつも泣きそうになって・・・困った。
今も綴りながら目頭が熱くなる。
最後、ベビーバスを洗って終了となるのだが、
せっかく着替えた服が汗だくになるほど丁寧に磨きあげる。これも、欠かさず毎日。
いつの頃からか娘は父と話す機会が減っていった。
再び、実家を出る日。
照れくさいので、運転する父に後ろから「ありがとう」と言った。
「Kが保育器にいる間、お父さんにひどいこと言ってごめんな」と言った。
「うむ・・・わかっている」と言った。
ありがとう、お父さん・・・
「お父さん、面白いでぇ。
毎朝、携帯の画面(もちろんKの顔写真)に向かって、話しかけてるねん。
元気でやれよって念、送ってるねんて」
母が笑いながら話す。
どうやら父の念はよく効くらしい。
嫁ぐ前、花嫁の手紙というものを書いたけれど、子供を産んだ後、書くのもいいかもしれない。
ありがとう、お父さん・・・私はお父さんの娘で、本当に、よかった。
以上が、初めてエッセイコンテントに送った文です。
ビギナーズラックならず、結果は参加賞。
テーマは「子育て、子育ち」
子供を育てることで、自分もまた子(娘)として成長できた・・・そんな思いで綴りました。
受賞は叶いませんでしたが、私には思い入れの深い作品です。