The Rest Room of ISO Management
ISO休戦
星野仙一著 “シンプル・リーダー論”(文庫本) を読んで
読後感想が 続き 恐縮ですが、本年 最後のISOバカ日誌です。
今年、ペナント・レース終了後、北京オリンピックに参加するアジアで1枚の切符を手に入れた星野監督のリーダー論です。
当然と期待されていることを、当然のように 間違いなくやってのけることは、やはり偉業のような気がします。だから感動があったのだと思うのです。特に 団体戦では、それが難しい。そこで、その団体・集団のマネジメントの秘密を垣間見たい衝動に駆られたのでした。
全編 星野監督の情熱にあふれています。長年に亘って日本人全体に倦怠感が 漂っている時代だと思いますが、その中にあって あの情熱が持続しているというのは それだけで稀有な存在ではないかと思います。
確かに 熱血漢・星野監督は 高血圧のようで、それが原因で阪神の監督を勇退したとのことのようです。
この本、阪神タイガース優勝の直後に書かれたようで、すでに相当な時間が経過しているように感じます。つまり、日本のプロ野球の抱える諸問題、とりわけ国際化に向けての戦略のような部分には言及されていません。“文庫版「あとがき」”に ご本人の見解の一端が “怒り”として情熱と良心の現れのように わずかに書かれてはいますが、時の流れの速さを痛感します。
とにかく阪神タイガース優勝のためにやってきたことに紙面の大半を割いています。当時の具体的なチームの様子が興味を引きます。
そんな、アウト・オブ・デートな面があるとはいえ、リーダー論という観点からは 当然いささかも古さを感じません。
標題が示すように また本書の冒頭から指摘されているように リーダー如何に有るべきかについては 非常にシンプルです。具体論のあとの抽象論。まず “覚悟”が必要だということが 本書の残り25ページあたりにようやく出てきます。
“監督という仕事には自信を持っているが、世間に掲げて見せるようなリーダー論などは持っていない。強いていうとすれば、それは「覚悟」だと思う。” と述べて、先ずリーダーたる者の心構えが大切だと説いています。
厳しい言葉ですが、“すべてを覚悟して引き受けたことだから、最後の最後まで覚悟して取り組んでいく。その腹さえ決まれば、あとは迷ったら前へ。苦しかったら前へ。つらかったら前に。後悔するのはあと、そのずっとあとでいい。覚悟さえついていれば人間、そうしたエネルギーが必ずでてくるものなのである。苦労もするが、思わぬツキに恵まれたりすることもある。わたしはそれが人生、あるいはそれが人間、それがまたリーダーだろうと思う。” と指摘しています。
強烈な意志を感じます。このような 強い意志・主体性はどのようにすれば 手に入れられるのでしょうか。どこかに ハングリーな野生を感じます。
その “覚悟”の後に 次のような言葉が続きます。
“監督として大事にしていることは、
・人間としての基本の厳守と徹底
・減点主義をとらず、得点主義をとる
という2本柱、私が大切にしているのはこの2点だけだ。”
その心は “ことの善悪、すべてにわたっての「いいか悪いか」ということだ。難しいことはわからなくても、いいか悪いか、それは誰にでも理解ができ、気付くことができるもので、誰にでもしようと思えばできるはずのものだ。人間のものの考え方と実行は人間のすべての中心軸である。基本とはその中心軸のことだ。”
そして喜怒哀楽をストレートに出す星野スタイルは、“具体的でわかりやすい、明快な人間像、リーダー像、あるいは監督増” が 求められている現代には プラスだと考えているという。以下その具体的監督像について。
“下の者から見て、監督は今何を考え、なにを求め、今どう思っているのか。今、喜んでいるがなにを一番喜んでいるのか。今、怒っているようだが、なにに対してどれくらい怒っているのか。誰に対してもわかりやすい存在でなければならないと思う。逆にいえば、自分の人格も人間性も、思想も感情も、自分のすべてを飾らず隠さず、オープンにさらけ出して、部下との共感、共鳴を大事にしながらチームを引っ張り、動かしていける力量というものが必要な時代になってきているのではないか。すでにどんな職場でも人間性まで管理する時代ではなく、むしろそれぞれの人間性を発揮させ、それを引き出していくことの方が大切な時代になってきているのではないだろうか。
思ったことはストレートにいい、心の内や考え方もオープンにして上下一体になって取り組んでいく、戦っていく時代だ。上にいる人間が玉虫色の発言をしたり、陰口をきいたりすれば部下の判断力も生まれてこないし、部下の心理を複雑にさせたり不愉快にさせたりするだけだ。わたしが望むのはわかりやすいシンプルでオープンマインドな世界だから、選手たちには至ってわかりやすい監督だろうと自認しているわけだ。組織の胎動や新しい息吹はそうした空気がなければ生まれてくるはずがないではないか。”
ここで 語られていることは 価値基準を明確にする“理念経営” そのもののことのように思えます。理念経営実践の 具体的なリーダーとしてのハウトゥが 入っています。それも明快な価値基準の下で、一致団結してことにあたる集団に鍛え上げ、作り上げていく時のリーダーの在り方が 語られています。
千変万化する事態に その一瞬 どうするかを、その価値基準に従って自ら決定し行動し、組織に貢献する、そういう自律した組織人を育て上げる心構えが 示されているのだと思います。
得点主義については、“野球は失敗の多い団体競技である。”と指摘し、失敗にいちいち とらわれていては 勝負にならない、というような意味のことを 言っています。通常の ビジネスと違い、野球の場合 パフォーマンス結果に対し多くのデータが残っていて成否を確率論で議論できるため、何が間違っているのか 明確にしやすい利点はあるようです。この様々な事象の因果関係の確率について知っていることも 野球指導者のノウハウのようです。(野村ID野球は有名) そういった確からしさから 得点主義を支持しているのです。
この“失敗の多さ”については 人間のなすこと万事に言えることだと思います。したがって、一般のビジネスにも この得点主義の優位性については 間違っていないように思うのです。
こういったことの全てにより オリンピック予選でのゲーム 特に台湾戦での劇的スクイズの成功から 勝利を導き出したのでしょう。
星野監督は 以前に読んだように川上氏にも可愛がられていたようで、きわめて幅広い的人脈を 持っておられるようです。NHK解説者として活動したことも その人脈の幅を広げるきっかけになったようです。
星野氏には 故島野氏、田淵氏、山本氏のような気心の知れた同世代のスタッフが 良く知られています。彼の熱血が 様々な人を引き付けるのでしょうか。
このように星野氏は、日本のプロ野球界が 脱ジャイアンツ化していく過程での最初の スター監督だという印象です。
そして、川上氏が 求道者的であるのに対し、星野氏は 知情意を備えた現代的マネージャーのイメージであります。両者を比較すると、その特徴が 特に際立ってくるように感じ、非常に興味深い印象です。
この本には リーダーとしての心構えの全てがあるといえます。特に 若い管理者に読んでもらいたい本です。
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