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神戸ポート・アイランドでの“WET研究懇話会市民講演会”に参加して

標題のような、耳慣れない研究会の 紹介E-mailが送付されて来て、しかも参加料無料とのこと。どうやら水質汚濁問題への対処法についてではないかと思われ、環境ISOマネジメントもテリトリーと公称している私としては、最新情報を仕入れておく必要があると考え、参加を申込んでいた。この懇話会が 先週の9月1日ポートアイランドで開催され、参加したので概要を 報告したい。

さて、開催地のポート・アイランドだが、最近はあまり滅多には訪れない場所だ。以前は 商業施設もありエベントも頻繁にあったので、買い物がてら車で遊びに行くこともあったが、それらがなくなってからは 殆ど行く機会はないのが現状だ。せいぜいで花鳥園へフクロウを見に行くくらいだ。
したがって、ポートライナー*は、今や南端の神戸空港に至っているが、乗る機会もあまりない。予定会場の下車駅は、「医療センター(市民病院前)」とのことだったので、その駅で降りようとしたら駅名が「みなとじま」と変わっていて、うろたえる。車内の案内表示を見ると、そこから2つ目の駅が「医療センター(市民病院前)」となっていた。どうやら、神戸市民(中央)病院は南の新たに埋立てた地に移転して、駅の旧名「市民病院前」が 「みなとじま」に変わったようだ。ポート・アイランドは今から約30年前に 神戸ポートピア博覧会を開催した跡地で、そこへマンションや様々な施設を誘致したのだが、その後 さらにその南を埋立てて(図中青い点線の南)、さらにその南沖に神戸空港を配置したのである。六甲山系を切り崩してニュータウンを作り、その土砂で海を埋立てるという、市域が狭いと思った神戸市が考えた南方拡張戦略だ。
その「医療センター(市民病院前)」で降りて、駅東側にある会場の臨床研究情報センター(公益財団法人先端医療振興財団) 第1研修室に向かう。このあたり一体は、先端医療開発拠点として、神戸市が様々な医療関係施設を誘致しており、神戸大学もここに拠点を置いているようだ。様変わりの状態に 若干の驚きを覚えた。
それでは、元々あった「みなとじま」の旧市民(中央)病院の巨大な建物はどうなったのかと、帰りの電車で注意深く見ていると、“ポートアイランド病院” との表示があり、民間の病院が 後を引き継いだようだった。それにしても、この島の中で、大きな病院が複数あるのは 少々違和感がある。

*人が実車運転していない新交通システム。大阪のニュートラム、東京の“ゆりかもめ”と同様の交通システム。神戸にはこの東にある六甲アイランドの六甲ライナーもある。



さて、肝心の講演プログラムは以下の通りだった。
講演1 水とは何か :北野大、明治大学教授
講演2 水生生物を守るために :須藤隆一、東北大学名誉教授
講演3 生物応答を利用した“環境の水”の評価 :鑪迫(たたらざこ)典久、国立環境研究所主任研究員

受付で立派な予稿集をもらった。それには、次のような挨拶文があり、これでWETとは何かが理解できたので引用する。
“水環境の質の確認として、これまでは個々の物質や水全体の性状を把握するために、化学分析を用いる手法が採られてきました。そして成果もあげてきました。しかしながら、化学分析による方法では、対象とする物質以外については情報が得られず、また私たちが見逃している有害物質があるかもしれません。また物質相互の複合影響についてもわかりません。さらには規制項目が増えれば増えるほど、分析項目が増えるという経済的問題もあります。
これらの問題を解決する手法として生物応答(バイオアッセイ)を利用したWhole Effluent Toxicity (WET)という排水影響の評価手法が欧米で開発・運用されてます。これは排水に含まれる化学物質の影響を総和的に管理する一つの評価手法“モノサシ”となります。WETの手法について多くの関係者がその有用性を認識し、さらには我が国の多くの事業所でこの手法による排水管理を進ませることが今後の健全な水環境の保全に必要と考え、そのための種々の活動を行うことを目的として、WET研究懇話会が立ち上がりました。”
つまり、水質検査において化学分析により個々の有害物質を検出し、濃度測定してその有害度を判断するより、標準的生物の生存率で有害度を見る方が、迅速かつ経済的であるということだ。水生生物の脊椎動物の代表格としてゼブラフィッシュやヒメダカ、無脊椎動物としてはニセネコミジンコ、植物として緑藻を使用するのが世界標準となっているとのことであった。

各氏と言うより本来は各先生だが、その講演の印象は、北野氏は“楽”、須藤氏は“静”、鑪迫氏は“熱”といったところだった。
北野氏は 言わずと知れたあの北野タケシ氏の兄君。一般市民への理解を促す解説を笑顔で楽しくされ、勿論タケシ氏をジョークのネタにしたりされたが、英語の発音にはきちんとした学者の風格がり、しかも 最後に“われらに燃ゆる希望あり”の言葉で締めくくられて明治大学への誇りが感じられ、その外観から来るオーラに反して、親しみと好ましさであふれておられた。明治で先生の講義を受講してみたい気分になった。
須藤氏は 冷静に落ち着いた感じで話された。水生生物にはあまり詳しくはないので、私自身には深く理解するには知識不足であった。

鑪迫氏は、とにかく生物応答(バイオアッセイ)の実情と、WET法の良好な再現性について語られたので、特に専門知識は無くてもよく理解できた。標準的に使用される生物は、国環研でも飼育しているとのことであり、有害性判定の再現性は全く問題ないことを熱っぽく強調されていた。
ゼブラフィッシュの孵化後の胚の状態の映像をみせて、“私はこれをみるとザワザワしてしまう。皆さんどうです?”というようなことを言われて、非常に意外な感じを受けた。私も そういう感覚を子供の頃から持っている方だったので、“生物”分野は避けて、無機的な物理的方面を選んで進んだつもりだったが、生物学者と目される人物からこういう発言があるのは非常に驚きだった。映画“エイリアン”は そういった感覚を集約して呼び起こし、“生物”の恐怖感を煽るには秀逸の作品だったように思う。いや、ヒョッとして無機的な“水”を相手にしていたつもりが、“生物”にまで関わらざるを得なくなった不幸なのかも知れない。
もう1つの意外な発言。“ペット・ボトルの水よりも水道水の方が安全です”との指摘。“何故ならば、水質基準の検査項目は水道水の方が圧倒的に多いから”だそうだ。

こうしたWETの手法はMSDSの作成にあたって、“毒性”特性に関しての表記に大いに参考になるのではないかとの感想を持った。標準化が進展して、デファクト・スタンダードになることを期待したい。


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