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東電の招いた悲惨?―“日本の技術力?”

先週に引き続き、福島原発が酷い状況であり、俯瞰的に見ても一向に事態は改善していない。しかし、報道によれば少しは小康状態になっている印象を持ってしまう。これは、“食うや食わず、不眠不休”の現場の死力を尽くしての頑張りのお蔭と考えるべきだ。ところが一部報道によると、東電はこの現場の従業者の過酷労働環境を少しでも改善させようとはしていないように見える。そういえば周辺に居た避難住民にも、自社の厚生施設を積極的に開放しようとはしていなかったようだ。むしろ関係の無い会社や自治体が好意で手持ちの施設を開放しているにもかかわらずなのである。この会社の厚生担当は一体何をしているのだろうか。遠くから見る限り立派な会社というイメージがあったが、こういった対応を知るにつけ不誠実な本質を垣間見たように思う。
だが、その尊大な東電も今回の事件による様々な補償を実施すると債務超過に転落し、恐らく国有化は決定的であろうと言われている。場合によっては解体もありうるのではないか。ムーディズは格下げを発表し、お蔭で株価は連日ストップ安を記録。マネジメント無策でありながら、夜郎自大が招いた転落の軌跡である。このような会社に入る新入社員は気の毒である。
“現場は優秀だが、酷使され、そこにマネジメントが無い”のは日本の会社の特徴なのであろうか。

先週になってようやく、テレビ報道でも最悪シナリオが指摘されるようになったが、それでも決定的な台詞は聞かれない。パニックを恐れてのことなのだろう。恐らく、チャイナ・シンドロームのような酷い炉心溶融はあり得ないにしても、その手前の軽い炉心溶融の可能性はゼロとは言いがたく、そうなれば現状より程度の悪い放射性物質の漏洩は十分あり得る。実際、海中や地下水への漏洩は増加しているらしい。一部の“高濃度たまり水”がコンクリートの亀裂から海中に漏出している部分が発見され、その閉塞作業は行われたが、不十分だったと言うし、漏出箇所はそこだけではないだろう。何故ならば、各炉からの放射性物質漏洩は完璧に封止できておらず様々な経路で海へ漏出する可能性があるからだ。これらを完璧に封止するには4基の炉を冷温状態に持ち込み、漏洩箇所確認の上、シールする作業が必要だが その状態に持ち込むには、これまでの手際の悪さを考えると相当先の話ではないかと思われる。
だが それがいつごろになるかは、関係者、特に避難住民にとっての最大の関心事だろう。だから、そのタイム・スケジュールは重要なのだが、一向に伝えられることはない。具体的にどのような手順でいつ頃どうするのか、そしてその都度、その時点での状況を開示することが不安と不信を解消する方法だと思うが未だ不明ままとなっている。

こういう不得要領の東電の対応に対し、政府こそはせめて大所高所から いつまでにどういう状態であるべきかを決意し、指し示さなければならない。日本社会がガマンできる限界を日本の全技術者に提示し、その範囲であらゆる資源を投入して解決策を検討するというマネジメントを展開するべきだと思う。技術はそういう過酷な条件の下で逞しく鍛えられ、先端的なものとなる。そこに最先端のノウハウも生まれるのだ。まさしく60年代米国のケネディは宇宙開発で、そのような手法を使った。“目的・目標”とはこのためにあると肝に銘じるべきなのだ。これこそ政治主導ではないのか。

こういう状況下で、当面は各炉の冷温停止を目指して外部からの注水・冷却を継続させることになるのだが、各炉の冷却水ダダ漏れ状態のまま注水するので、そこから漏れる高濃度汚染水を発電所域外に漏出するのを防止しつつ、一時貯蔵しておかねばならない。その貯蔵のためのタンカーやメガ・フロートの繋留検討となっている。
だが、それらの貯蔵能力にも限界があるので、増加する貯蔵水は減容しなければならず、それをどのようにするかについて、日本政府は、アメリカやフランスに協力を求めたようだ。ところが日本には水の高度処理の要素技術、例えば海水淡水化のための世界に誇るフィルター技術があるのだ。それにも拘らず、海外に協力を求めてしまったのである。

本来は 政府は先ず、今回の事故・問題に対し日本の要素技術でできること、できないことを素早く把握し、タイム・スケジュールに障害となる課題が何なのかを公表・提示した上で、それを解決するために海外に援助を求めると宣明するべきではなかったか?そうすることで、主導的に問題解決を目指すべきではなかったか。その点が曖昧なため、協力要請が米仏、特にアレバ社に無条件で全てを任せたように見える結果となっていないだろうか。
さらに、こういった判断を誰が主導的に行いマネジメントするのか、要するに問題解決のための対策本部はどこにあり、誰が責任者であり、どのような技術者がサポートしているのか、一向に姿が見えておらず、曖昧なままではないのか。もし、失敗した場合の法的責任はどうなるのか。活動のための人々を動員する、あるいは資源投入の法的権限はどうなのか、そういう活動のための体制が見えない。

サルコジ大統領はしつっこく菅首相に“援助の申し出”を行ったようだ。その結果、日本は受け入れ、仏アレバの社長は満面の笑みで日本にやって来た。魂胆明々白々のように見える。恐らく、タイム・スケジュールも含めたプログラムそのものやマネジメント・システム全体も引き受けようとしているのではないか。それに対する謝礼はどうするのか。ビジネスではなく純粋に援助と受け取って大丈夫なのだろうか。ビジネスと援助の線引きはどのようにするのか、明確にしているのだろうか。
ところが、そこには高濃度放射能下で働くロボットも含まれると言う。汚染水処理だけではなかったのか?
そこで和製ロボットはどこへ行ったのかと思いきや、予算削減で部品が維持できず動かないらしい。リスク・マネジメントが無いため、無定見に予算が削られ、肝心な時は活躍できない、情けない限りだ。日本社会の隅々にまでマネジメント無策が深く浸透しているような印象である。

このFUKUSHIMA問題解決に日本の主体性が崩れることは多くの問題を引き起こすことに注意するべきではないか。日本は原発のハードとソフト(マネジメント)で世界に伸びて行くとついこの間まで息巻いていたのではないか。だが、日本が海外から援助を受ける姿を見て、世界の人々は日本の工業技術全体をどのように評価するだろうか。まして、その頂点にある日本の原子力技術を評価するだろうか。これで、今後の輸出展開は困難になったのではないか。逆に フランスは優位に立てる条件を整えたと言って良い。
ベトナムは日本の原発を購入することになっていたが、それを心配したベトナム人女性が居た。テレビでは彼女は“日本人ですら上手く運転できない原発を、ベトナム人は上手くできるのだろうか?”と言っていた。ベトナム人らしい真摯で真面目な発言だったが、普通なら“日本から買う原発は大丈夫か?”と言うべきところだったろう。
日本の要素技術は それぞれ世界最先端なのだが、マネジメントが下手なためにシステムとして売れていないのが現実だと聞いている。これまでの原発の売込みがそうであり、鉄道もその典型だとされるが、今回の東電の対応は まさしく日本の工業技術全体の世界的評価を貶めてしまう契機を作ったと言って良い。そして、首相以下の日本政府はそれに輪をかける行動を取りつつある。

同じように津波の襲った東海第二や女川原発はリスク・マネジメントを多少とも機能させていたので対策が取られており、トラブルを極小化できたようだが、東電はそれを行わず、この大事故を引き起こした。さらに、その事故処理もきちんとしたマネジメントが行われているとは言いがたい。それを監督するべき政府にもマネジメントがあるとは言えない。
日本は こうしたマネジメント無策により、とうとう一流の座を滑り落ちることとなるのだろうか。日本にはISOマネジメント認証取得の会社は多数あるが、その第一歩の“目的・目標”の意味や、組織のトップがそれを提示することの意味を全く理解していない。そのような人々が構成している社会から選ばれた政治家も、“政治主導”を言いながら その本質を全く分かっていないのだ。日本とはマネジメントを血肉化・潜在意識化できていない社会なのだ。
日本の国民は自分自身が そういう存在でありながら政治家だけを小バカにして“政治は三流”だとマスコミを中心に言い続けて来た。ついでに“政治家は金に汚い”とまで言い募って来た。賄賂を出して自分だけ旨い分け前にありつこうとしていたにも関わらず、なのだ。いや、もっと汚く互いに足を引っ張り合って、暴露合戦をして来たのだ。政治は国民の程度を超えないし、自身を映す鏡であることをしっかり理解するべきではないか。自分自身に唾棄しても意味がないのだ。そして無反省のまま時間を過ごしてきたここ20年ではなかったか。ある意味、弛緩した東電もそのミニチュア版だったのかも知れない。
とにかく、ここに来て日本は明治以来、近代化を遂げ世界の超一流の座にもう一歩のところまで来て、最後の段階でマネジメント無策により、その座を滑り落ちる寸前までに至った。“もしドラ”の本質も理解せず、現実のマネジメントのあり方も知らず、そのまま大詰に至ってしまうのであろうか。そして、いよいよその大詰の舞台の幕がこれから開かれる。それもリーダー・シップ力の乏しい政権の手によって。

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