The Rest Room of ISO Management
ISO休戦
“組織行動の「まずい!!」学―どうして失敗が繰り返されるのか”を読んで
この本 リスク・マネジメントの本質について語っているものと思い、また 初めの方の第1章第3節の 次のような書き出しが 面白そうだったので 思わず買ってしまったのです。
“三人寄れば文殊の知恵”・・・果たして本当にそうだろうか。戦国時代には様々な大名家が滅びていったが、主君の独断専行が滅亡の原因となった事例は案外に少ない。滅亡したのは、むしろ主君がイニシャチブを取らず、重臣会議で家中の戦略方針を決定していた大名家ばかりだ。・・・・その典型が、“小田原評定”で有名な北条家である。・・・・現代のIT産業には信長型の経営者が少なくないようだが、生き馬の目を抜く業界で生き残るには、判断の速さが不可欠なためだろう。
ところが、残念なことに 当初の期待に反して読了後 これといった感想は浮かびませんでした。
何故なのだろう・・・・。ですが 決してそれは 筆者の怠慢によるものではないと思うのです。むしろ 著者はこれまでの渾身の研究結果を 真面目に披瀝していると言えるだろうと思うのです。
残念ながら 本の構成・編集が 良くないのが原因の一つかも知れないと思い至るのです。出版社の編集が稚拙だったのでしょうか。
“第1章 人はなぜ、ミスを犯すのか” は その要素として、“ヒューマン・エラー”と“熟練者”、“集団のエラー”、“リーダー・シップ”の問題を挙げています。
“ヒューマン・エラー”では 概念整理・定義が 行われ、“熟練者”ではベテランの陥る問題を徒然草“高名の木登り”を例に 緊張感の維持・持続の重要性を指摘しています。現代の事故例として三菱長崎の建造中客船の火災を挙げています。
“集団のエラー”では 既述した“「三人寄れば文殊の知恵」・・・果たして本当にそうだろうか。”で始まります。一丸となった凝集性の高い集団に起き易い“集団浅慮”と同じような“グループシンク”の指摘です。
ここで面白いのは この“集団のエラー”と“リーダー・シップ”では 全く違う見解を述べていることです。つまりリーダー・シップの欠如した集団は亡びるが、これが強すぎると組織全体が萎縮し機能しなくなる。その 頃合については どう調整するか、は語られていません。この辺の 考察やヒントが 無いのが非常に残念です。
第2章では“危機感の不在”が 取り上げられていて、第3章では“行き過ぎた効率化”を取り上げていますが これは同一の章として編集するべきではないでしょうか。つまり、“危機感の不在”が “行き過ぎた効率化”を 生んでいるのではないかと思います。第3章は もう少し分量を減らして 第2章の一部にできるのではないでしょうか。
第3章に“第2節 成果主義の病理”を挙げていますが、“成果主義”は“効率化”とは少し異なる視点ではないのでしょうか。この人事評価は 組織運営にとっては非常に重要なので “人事のまずい!!”の表題で 別の章に独立させるべきではないのか。また この部分はもう少し 語るべき内容があるように思います。
第4章の“緊急時への備え” では“非現実的なシミュレーション”、“初動措置の重要性”、“情報は何処”、“専門家の限界”を挙げています。
シミュレーションは些細な問題点をそのままに“克服できたこととして”先に進めることの無意味さを指摘。“情報は何処”では 正確な情報と言うものは得ようとして容易に得られるものではなく、不十分な情報の中で適切な判断を下すことの重要性を指摘しています。この指摘自体は極めて重要だと思いました。“専門家の限界”では “軍人はいつも過去の戦いに備えようとしている”という箴言などで 専門家の思い込みによる失敗事例を説明しています。
しかし その対策や 真の原因については 語っていません。(真の原因が 分かれば 対策は立てられると筆者は別の箇所で言っていますが・・・・。)
“第5章リスク管理の要諦” では“撤退判断の難しさ”、“監視機構の実効性”、“悪魔は細部に宿る”、“組織改革の本質” を説明しています。
“撤退判断の難しさ”では 副題を“リスク管理に「もったいない」は禁物”とあり、長篠の合戦における武田勝頼の撤退判断のミスが真の敗因であったと指摘。他にもコンコルドの開発失敗もその例であるとしています。
“組織改革の本質”では 組織文化の重要性について 改めて指摘された、との印象です。“アウシュビッツの証言”として収容所の元職員の証言事例を挙げて、人間の弱さや社会心理学で言われている同調性の弱点を 情緒的に指摘しています。
著者は“はじめに”において“これまでの失敗学では、主に技術工学分野を中心に研究(失敗学会の畑村洋太郎先生)が進められてきたが、決して狭い枠内に閉じ込められるべきものではない。むしろ失敗学は様々な学問分野を横断的に包摂する性格を有しており、今後はその概念をいわゆる文科系の世界にも拡張していくことが課題である。”と言っています。
“本書は、その中でも特にマネジメントの分野に着目して、組織行動に関係する様々な失敗事例に分析を加え、リスク管理上の教訓事項を抽出したものだ。敢えて、「まずい!!」学と柔らかなネーミングとしたのは、技術アレルギーの文科系読者にも、本書を手に取っていただきたかったからである。”とも述べています。
このように ある種 野心的な試みを行ったつもりのようですが、いま少し テーマ整理や深い考察または 読者の考察へのヒントが 不十分な印象でした。
そもそも 社会科学の研究目的のほとんどが 破綻予防のようなところがある、ということを著者は 認識していたのでしょうか。技術工学分野では“安全”は副次的な研究対象でしかあり得なかったので 失敗学の発展は大いに意味のあるところですが、リスクマネジメントを文科系の世界に拡張するとは どういうことなのでしょうか。
でも ヒマな時に読んで無意味だとは 決して思いません。星5つは無理としても3つはあるような気はします。
“三人寄れば文殊の知恵”・・・果たして本当にそうだろうか。戦国時代には様々な大名家が滅びていったが、主君の独断専行が滅亡の原因となった事例は案外に少ない。滅亡したのは、むしろ主君がイニシャチブを取らず、重臣会議で家中の戦略方針を決定していた大名家ばかりだ。・・・・その典型が、“小田原評定”で有名な北条家である。・・・・現代のIT産業には信長型の経営者が少なくないようだが、生き馬の目を抜く業界で生き残るには、判断の速さが不可欠なためだろう。
ところが、残念なことに 当初の期待に反して読了後 これといった感想は浮かびませんでした。
何故なのだろう・・・・。ですが 決してそれは 筆者の怠慢によるものではないと思うのです。むしろ 著者はこれまでの渾身の研究結果を 真面目に披瀝していると言えるだろうと思うのです。
残念ながら 本の構成・編集が 良くないのが原因の一つかも知れないと思い至るのです。出版社の編集が稚拙だったのでしょうか。
“第1章 人はなぜ、ミスを犯すのか” は その要素として、“ヒューマン・エラー”と“熟練者”、“集団のエラー”、“リーダー・シップ”の問題を挙げています。
“ヒューマン・エラー”では 概念整理・定義が 行われ、“熟練者”ではベテランの陥る問題を徒然草“高名の木登り”を例に 緊張感の維持・持続の重要性を指摘しています。現代の事故例として三菱長崎の建造中客船の火災を挙げています。
“集団のエラー”では 既述した“「三人寄れば文殊の知恵」・・・果たして本当にそうだろうか。”で始まります。一丸となった凝集性の高い集団に起き易い“集団浅慮”と同じような“グループシンク”の指摘です。
ここで面白いのは この“集団のエラー”と“リーダー・シップ”では 全く違う見解を述べていることです。つまりリーダー・シップの欠如した集団は亡びるが、これが強すぎると組織全体が萎縮し機能しなくなる。その 頃合については どう調整するか、は語られていません。この辺の 考察やヒントが 無いのが非常に残念です。
第2章では“危機感の不在”が 取り上げられていて、第3章では“行き過ぎた効率化”を取り上げていますが これは同一の章として編集するべきではないでしょうか。つまり、“危機感の不在”が “行き過ぎた効率化”を 生んでいるのではないかと思います。第3章は もう少し分量を減らして 第2章の一部にできるのではないでしょうか。
第3章に“第2節 成果主義の病理”を挙げていますが、“成果主義”は“効率化”とは少し異なる視点ではないのでしょうか。この人事評価は 組織運営にとっては非常に重要なので “人事のまずい!!”の表題で 別の章に独立させるべきではないのか。また この部分はもう少し 語るべき内容があるように思います。
第4章の“緊急時への備え” では“非現実的なシミュレーション”、“初動措置の重要性”、“情報は何処”、“専門家の限界”を挙げています。
シミュレーションは些細な問題点をそのままに“克服できたこととして”先に進めることの無意味さを指摘。“情報は何処”では 正確な情報と言うものは得ようとして容易に得られるものではなく、不十分な情報の中で適切な判断を下すことの重要性を指摘しています。この指摘自体は極めて重要だと思いました。“専門家の限界”では “軍人はいつも過去の戦いに備えようとしている”という箴言などで 専門家の思い込みによる失敗事例を説明しています。
しかし その対策や 真の原因については 語っていません。(真の原因が 分かれば 対策は立てられると筆者は別の箇所で言っていますが・・・・。)
“第5章リスク管理の要諦” では“撤退判断の難しさ”、“監視機構の実効性”、“悪魔は細部に宿る”、“組織改革の本質” を説明しています。
“撤退判断の難しさ”では 副題を“リスク管理に「もったいない」は禁物”とあり、長篠の合戦における武田勝頼の撤退判断のミスが真の敗因であったと指摘。他にもコンコルドの開発失敗もその例であるとしています。
“組織改革の本質”では 組織文化の重要性について 改めて指摘された、との印象です。“アウシュビッツの証言”として収容所の元職員の証言事例を挙げて、人間の弱さや社会心理学で言われている同調性の弱点を 情緒的に指摘しています。
著者は“はじめに”において“これまでの失敗学では、主に技術工学分野を中心に研究(失敗学会の畑村洋太郎先生)が進められてきたが、決して狭い枠内に閉じ込められるべきものではない。むしろ失敗学は様々な学問分野を横断的に包摂する性格を有しており、今後はその概念をいわゆる文科系の世界にも拡張していくことが課題である。”と言っています。
“本書は、その中でも特にマネジメントの分野に着目して、組織行動に関係する様々な失敗事例に分析を加え、リスク管理上の教訓事項を抽出したものだ。敢えて、「まずい!!」学と柔らかなネーミングとしたのは、技術アレルギーの文科系読者にも、本書を手に取っていただきたかったからである。”とも述べています。
このように ある種 野心的な試みを行ったつもりのようですが、いま少し テーマ整理や深い考察または 読者の考察へのヒントが 不十分な印象でした。
そもそも 社会科学の研究目的のほとんどが 破綻予防のようなところがある、ということを著者は 認識していたのでしょうか。技術工学分野では“安全”は副次的な研究対象でしかあり得なかったので 失敗学の発展は大いに意味のあるところですが、リスクマネジメントを文科系の世界に拡張するとは どういうことなのでしょうか。
でも ヒマな時に読んで無意味だとは 決して思いません。星5つは無理としても3つはあるような気はします。
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