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日本の株はもう駄目か―安倍氏の浅慮

私は8月の中旬頃から、急速に日本の株式市場は やがて果てしない恐慌の嵐に突入するのではないかという思いにとらわれるようになってきた。そういう勘は当たるも八卦、・・・・。だが、とにかく安倍政権の稚拙な“消費税増税対応”に不安が満天に広がるのだ。今のところ、その実施可否を10月の初頭に決めると言っているが、外見からは首相の肚は定まっていないように見える。

この見通しの悪い状態が何よりも市場参加者に不安を与え、それが次第にいわゆる“リスク・オフ”へとシフトして行くのだ。その前兆が 先週の相場ではなかったか。世界の市場が上昇していても、東京市場は反応しなかった局面が見られた。それは、週末に予定されていた“東京五輪招致”への不確実性も要因の一つだったと思われるが、それよりもその先に予定されている政策決定と それに大きく影響される日本経済の不確実性にも影響されているのではないか。

考えてみれば、“消費税増税”を実施してもしなくても、株は売られる。そして私の見るところ、金融関係者の半分は そう見ているのではないか。そもそもアベノミクスには懐疑的で、心ならずも市場に追随して行っているだけの金融マンは多いのではないか。
それは、増税の実施は明らかな不況要因であり、少なくともそれが、好景気になる要因だとは決して言えない。もし、そんな発言をする人が居たとすれば正気とは思えない。増税の実施は来年の春だが、株式市場は経済の半年先を見る、と言われている。したがい、実施と決まれば株価は暴落に近い下げを見ることになるはずだ。
しかし、その実施を中止しないまでも延期するとすれば、マーケット参加者の信任を失い株式のみならず債権も売られる、と言われている。
にもかかわらず、安倍政権の足元は真っ二つに割れている。一方は、財務省の影響下にある閣僚による導入の速やかな実施論、他方は内閣官房参与いわば安倍政権のブレーンで、アベノミクスの論理的サポータによる時期尚早論である。官邸はあくまでも“デフレ脱却が最優先課題”と称して中立を装っていて、今のところ真意は不明。これにより、首相自身は二者択一に揺れているように見える。
そこで、首相は急遽“有識者から意見を聴く「集中点検会合」”を実施した。これは、いささか遅きに失した観があり、誰しもが“今頃、何のために”と思ったに違いない。要するに、こんなことはやってもやらなくても意味がなく、誰に聞いても決まらない話だ。

本来、首相の為すべきことは直感で どっちにするか7月初頭には決断し、その決断に従って様々な準備を行うべきであった。その上で、パフォーマンスの一部として早々に“有識者から意見を聴く「集中点検会合」”を開くべきであった。つまり、どちらかにシナリオを決めて 思う方向へ意見誘導できる参加者で見解を示させる茶番劇を開催すべきだったのだ。それでこそ、真の政治家である。しかし、安倍氏は実際のところ、ことの重大性を理解しておらず どうして良いのか分からぬまま時間を無駄に費やしてしまったのではないか。

だが、増税を志向する財務省は、そのための様々な準備を 着々と行って来ている。考えてみれば、日銀総裁を財務省出身者にして、早々に金融面でのバックアップの準備とした。これが、アベノミクスの思わぬバックアップ効果ともなってしまい、浅慮の首相を有頂天にさせた。水面下では、自民党内の財務省派と連携して様々な増税ショックを和らげる政策を準備させている。すなわち低所得者層への定額給付の検討、住宅・自動車購入時の減税検討、法人税の実効税率の低下検討等々である。しかも、あの「集中点検会合」の準備も財務省が行った。だから増税可の意見が多数を占めることとなったのだ。
こうして、財務省派は、消費増税は“コントロール可能なリスク”と称している。しかも、増税延期を“コントロール不可能なリスク”とうそぶき、“増税可否どちらが正解でしょうか”と嘲笑っている。

私は、アベノミクスを首尾よく完成さたいなら、或いは アベノミクス発案者の見解を尊重するならば、増税延期が当然のやり方だと思う。何しろ、庶民には未だアベノミクスの効果は降りて来ていないのが実情である。(私はアベノミクス自体首尾よく完遂されるとは信じていおらず、効果が下層経済にまで及ばず金融インフレで終わると見る立場にあるが。)現に、街の事業者に聞いてみても景気実態はさして変化ないと言うし、自分自身もそのように感じている。デフレで価格低下には慣れてはいるが、収入が増えない内に物価上昇するのは御免だというのが本音である。ここで増税となれば収入は減らないとしても、明確に物価は上がるので購買意欲は削がれる。そうなると景気の腰を折り、再び不況へとまっしぐらに落ち込んで行くように思う。そうなれば、租税収入自体が減少し、財政改善どころではない。市場参加者は このことは百も承知だ。だから、増税決定は やがて必ずネガティブ・ショックとなって株価は低下するだろう。

ならば、増税延期を“コントロール可能なリスク”とするための知恵を 首相またはその周辺はこれまでに考えるべきであった。つまり、官邸は“デフレ脱却を最優先課題”としていると言うが、もしそのために増税実施を先送りするべしと決断した場合のリスクは、市場との対話がリスク・コントロールとして重要になって来る。なので市場参加者へ財政不安は起こさせないという決意を合理的な政策でもって示す、或いはそういった政策実現の行程表を明示する必要がある。いわゆる第三の矢の実現、つまり先送りしてきた改革を決然と行う覚悟を 主に市場に向けて明示し、実際に着手するのが、この夏に行うベスト・シナリオであったのではないか。
にもかかわらず、浅慮の安倍氏はそれを怠ってしまった。あらぬことか、思わず財務省の手のひらにズルズル載ってしまい、恩人たる内閣官房参与の浜田宏一氏の期待を裏切ってしまっている。テレビでインタビューされる浜田氏の憮然たる表情が 明確にそれを物語っている。

要するに、安倍氏は“改革”など慮外のことであり、その時々の都合の良い政策のつまみ食いで何とか名前だけを残そうとしている小粒の政治家ではないのだろうか。だが、何故かしら右派の人々は彼をして、“しっかりした国家観の持ち主”だとして崇める傾向にある。もし、安倍氏に“確固たる国家観がある”というなら、当然 国家のため“改革”も視野に入るはずだし、その実現のための戦略も構想するはずだが、決してそうではない。右派の人々は根拠なき推戴によって何らかの利益誘導を考えているのだろうか。(憲法改正か?それは何のため?)

原発問題も国家戦略の中核的課題だが、それを今後どうするのか全く明確ではない。持続可能な国土の環境改善・維持とエネルギー確保両立の戦略像が明確に見えていない。日本の首相は、こうした定見を持たず、海外に日本製原発の売込を続けている。何だか浮ついた印象しかなく、国際的には顰蹙ものではないだろうか。
だから、東電福島の汚染水流出も後追いの政策となってしまう。福島原発を国家管理の中に置いて、確実に統制するべきであり、そのための政治的経済的仕組を構築するべきであるが、それを放置している。これは日本の国家としての国際的信義の問題でもある。だから、付け刃の対策を五輪招致の演説で説明しなければならなくなった。そういうことに前もって思いが至らない人に、どうして“確固たる国家観がある”と言えるのだろうか。

この人の頭の中には 具体性のない“美しい日本”という言葉に象徴される単なる虚構しかないのではないか。言葉が虚構だから、それが現実と矛盾することになる。例えば、今回首相になる前は、前回の首相在任時に靖国参拝ができなかったことは“痛恨の極みである”と言ったそうだが、現実に首相の座に就くと あっさりとそれを再度見送ってしまった。“痛恨の極み”との強い言葉を用いたならば、覚悟を持ってそれを実現させるべきだ。それができないなら、その言葉は虚言となるので本来言うべきではないが、そんな単純な想像力も持ちわせていない。
しかも中国との“戦略的互恵関係”も単なる言葉だけのことだった。だから、その後も今に至っても問題は生じ続けている。本当に“戦略的”であったならば、中国との間に互恵外交が展開されているはずで、ここまで問題はこじれなかったのではないか。
五輪招致の演説でも、安全については“私が責任を持つ”と言ったが、どのように彼個人が責めを負うもりなのか具体論は相変わらずない。あの急場で、言葉だけでは何とでも言える。政策としての仕組の設置によって確実な対応が為されることによってのみ、日本政府としての本当の責任が果たせることになるはずだが、未だそのような気配はない。
この人はかように言葉が軽い。その時々でかっこよくありたく、そのためだけの言葉ではないか。その空虚な言葉を吐く性癖は、そもそも真の政治家に決してあってはならない資質だ。にもかかわらず、このような人物が幸運にも二度も首相の座を射止めるというのは、日本の人材不足も窮まれりではないか。

ひょっとして、消費税増税の重大性に寸前でようやく気付き、進退窮まり、また腹痛で首相の座を放り出すことはないだろうか。いわば、虚言に近い言葉を吐く一方で、定まらない肚が また痛むのでは笑い話にもならない。

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