The Rest Room of ISO Management
ISO休戦
加谷・高橋・熊野・須田・著“日銀利上げの衝撃”を読んで
ウクライナ情勢では様々な情報が錯綜しているが、ウクライナでの12個旅団再編成とそれを戦力の中核とする反攻が、喧伝されている。 反攻戦線の焦点は①ザポロジエ州からアゾフ海の海岸線到達を目指す②ヘルソン州からクリミア半島の付け根を目標とする③激戦が続く東部地域、の3方面とされる。
①はロシア占領域の東西分断により西部域への兵站分断による弱体化を狙うものであり、②は既にウクライナ軍がヘルソンから渡河して南へ進行奪還した実績があるのでその橋頭保を活かす作戦、③は現状バフムト攻防をめぐって情報が錯綜する地域となっている。特に、民間軍事会社ワグネル代表・プリゴジン氏がロシア正規軍にクレームを付けてごてている。これは何らかのロシア政権内部でのいざこざを表面化させて、主導権を握ろうとしている政治的意図もあるようにも見受ける。これは見方によっては、プリゴジン氏の政権内での孤立化への焦りとも見れるのかも知れない。
こう見れば、最も重要なのは①なのは一目瞭然であろう。②、③は①の効果を上げるための陽動作戦として副次的なものとなる。①の進攻が成功すれば、マリウポリからペルジャンシク一帯の沿岸部を占領でき、この沿岸部占領すれば当然アゾフ海のロシア側の制海権を侵害でき、これによりあわよくば対岸のクリミア大橋への長射程ミサイル等での攻撃が可能となる。そうなれば陸上と同様、海上のクリミアへの兵站を脆弱化することが可能となり、ロシアによる侵攻全体の実効を半分以上減殺することができるからだ。但し、この地域の西部メリトポリ方面はロシア側も十分に警戒していて、備えが充実しているので激戦化して効果が少ないと見込まれるそうだ。
この進攻作戦ではドイツ製のレオパルト2戦車を主力とする旅団が中心となるはずで、後続に旧ソ連製のT64戦車やT55戦車を主力とする旅団を使うことになる訳だが、まだまだ新鋭のレオパルト2戦車や英国製チャレンジャー2戦車、米国製エイブラムス戦車の絶対数が不十分、或いは準備不足のようで、これが揃うまで反攻を手控えるのではないかという憶測が一般的になっているようだ。そのためゼレンスキー大統領の“反攻開始までまだ時間が必要”との発言が出て来ていると推測される。西側からのウクライナ支援を継続的に強力に維持するためには乾坤一擲の反攻を絶対的に成功させなければならないからだという。
ウクライナ側の情勢は以上のようだが、ロシア側では対ナチス戦勝記念式典の縮小があった、という。
ロシア政権内部、或いはベラルーシの協力国家の指導部の人的関係が脆弱化し始めているようだ。先述のプリゴジン氏のゴタゴタもあるが、プーチン氏の体調が問題であるばかりではなく、ベラルーシ大統領ルカシェンコも体調不良との憶測が流れ始めている。これにより、ロシアがベラルーシに供与した戦術核の使用が早まるのではないかとの懸念が出て来ている、という。
翻って国内では、野党第一党が内部でゴタゴタしている。これは代表が“次期衆院選で150議席獲得できなければ辞任する”と宣言したのが原因である。根拠なき150議席獲得宣言はさすがに問題だろう!
それよりも先週指摘したように、基礎自治体での勢力を伸ばすことが先決ではないのか。それが党の足腰の強化となるのだ。そうでなければ、150議席獲得などは空中楼閣なのだ。自民がアホアホ、ホノボノ路線なのに対し、これを何路線というべきか?ノンキも極まれりではないのかッ!
ところで、LGBTQへの差別禁止法の整備を促す書簡をG6とEUの7人の大使が連名で岸田首相に提出していたという事実をご存じだったろうか。私も一部TV報道で初めて知った。ところがどう見てもそれでいいじゃないかと思える超党派議員連盟を中心に作成した同法案の文言を修正したり削除して、ようやく“LGBT理解増進法案”が自民党内で通ったという。このままでは、急速に変化する世界に日本は取り残されて行くような気がしてならない。G7の中の孤児ではないか。それがG7議長国で世界は納得するのだろうか。マスコミからして世界から遅れてしまっているのではないか。このままでは世界の中の蛮族国家ではないか!
前々回、このブログで“河村小百合・著『日本銀行―我が国に迫る危機』(講談社現代新書)” を取り上げた。
それじゃぁ、その“我が国に迫る危機”がこれからどうなると思われるのか知りたくなるではないか。そこで書店で渉猟して見つけたのがこの本“日銀利上げの衝撃”だった。
これは4人の共著である。それも近しい立場ではなく、それぞれ別の見方・別の立場と言って良く、それぞれ個性がにじみ出ている。むしろ、その方が様々な意見が分かって好都合と、飛びついた次第である。そして、その著者の経歴等概要は次に示す本書の概要の中にある。
いつものように本書の概要を次に示す。
[出版社内容情報]
2023年4月8日、2期10年に及んだ黒田日銀総裁から新総裁に交代します。新総裁の方針は日本の為替や経済に大きな影響を与えることは必至です。本書では、新総裁を含め日銀人事はどうなるのかをはじめ、「金利の今後」「不景気の株高を含めた株バブルは起こるのか」「国債引き受け量変化の見通し」「緩和の出口戦略をどうするのか」などについて、金融・経済の専門家が分析、解説しながら今後の展開についてシナリオを提示します。
[内容説明]
2023年4月、異次元の金融緩和を維持してきた日銀の黒田体制がいよいよ終了する。日本経済が大きな転換期に来ている今、次期総裁はどんな策を練っているのか。気鋭の4人の論客が今後の展望を語る。
[目次]
第1章 金融正常化には10年以上かかる―加谷珪一(経済評論家)(量的緩和だけで経済は成長しない;日本はスタグフレーションに入っている ほか)
第2章 岸田政権の意向が色濃く反映される―高橋洋一(数量政策学者)(「利上げか・利上げではないのか」混乱の裏側;利上げした理由は歪みの修正ではない ほか)
第3章 賃金抑制の構造問題解決が急務―熊野英生(経済学者)(「バランスの取れた人選」。和して同ぜず;新総裁が最初に着手するのは、出口への道筋 ほか)
第4章 金融緩和政策は限界に近づいている―須田慎一郎(経済ジャーナリスト)(2%の物価目標は、まだ道半ばの状態;過去10年間の金融政策はいわば「寄せ木細工」 ほか)
[著者等紹介]
加谷珪一[カヤケイイチ]
経済評論家。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後、コンサルティング会社を設立し、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は各誌に連載を持つほか、テレビやラジオで解説者・コメンテーターを務める。
高橋洋一[タカハシヨウイチ]
数量政策学者。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉内閣・第1次安倍内閣ではブレーンとして活躍。菅義偉内閣では内閣官房参与を務めた。現在は嘉悦大学ビジネス創造学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長を務める。
熊野英生[クマノヒデオ]
経済学者。1967年7月、山口県生まれ。1990年3月、横浜国立大学経済学部卒。1990年4月、日本銀行入行。2000年8月、第一生命経済研究所入社。2011年4月より首席エコノミスト。日本ファイナンシャル・プランナーズ協会常務理事兼任。
須田慎一郎[スダシンイチロウ]
経済ジャーナリスト。日本大学経済学部卒。経済紙の記者を経て、フリージャーナリストに。新聞、雑誌などで執筆活動を続けるかたわら、テレビ、ラジオ、YouTubeチャンネルなど、多方面で活躍。2007年から2012年まで内閣府、多重債務者対策本部有識者会議委員を務め、政界・官界・財界での豊富な人脈を基に、数々のスクープを連発。
(以上本データはこの書籍が刊行された当時に書籍に掲載されている著者の紹介情報。)
先に、これは異なる立場での4人の共著であると述べた。いわば本のオムニバスだ。
前回いささか勇み足的発言をして、“理工系出身の経済専門家が、・・・その見識を疑うような発言を堂々となさっているのを見ると情けない思いにとらわれるのは、私だけだろうか。そのような方々がMMT理論を安易に振りかざしているのではないか。世の中にはいい加減な議論が多過ぎるような気がする。”と書いたが、この4人の卒業した大学と専攻を見て欲しい。
4人の内2人が理工系なのだ。残り2人は経済学部だが、言って悪いが日本の超一流大学の経済学部卒ではない。否、私はこの4人が超一流ではないと言っている訳ではない。もっと他にもこういったテーマの本が他の著者で多数出版されていても良いのではないかと思うのだ。日本の経済学の他のトップ・クラスは一体、何処に消えたのか?と言いたい。そして、こうした本はむしろそういった大勢のトップ・クラスの人達が執筆して、国民を啓蒙するべきものではないのか。正に日本は危機の正面に居るのか、はたまたそういう危険は想定しなくて良いのか、どういう種類の異常が日本経済に起きているのか説明する責任が一流の経済学者には有るのではないのか。一体全体、どこに逃亡したのか?無責任ではないのか、と私は思っている。
閑話休題。本の内容紹介から入ろう。
先ず、“はじめに”で出版社編集部の挨拶からスタートしている。ここでは、日銀総裁・黒田東彦氏が今年4月8日に任期満了となり、歴代最長だったことを告げ、その一貫した方針“2%インフレ目標の実現”を唱え、異次元緩和を推進したと述べている。その黒田氏が離任直前に、“長期金利の変動幅上限を0.25%から0.5%に引き上げる”とした。これは異次元緩和を終え、正常化への出口戦略への第一歩であろうと指摘し、新体制への移行を準備するものであろうとしている。
そこで、新体制に求められる施策はどういったものであると予測されるのかを4人の専門家に問うたとしている。
そして目次を示した後、戦後の歴代の日銀総裁の事跡を付けたリストを掲載している。
本文は4人の共著者の筆頭、第1章を担当したのは当代一の経済コメンテータ・加谷珪一氏。正にテレビその他で引っ張りダコの著者である。
日銀の異次元緩和について“量的緩和だけで経済は成長しない”として、“成長戦略”が不可欠であったことを指摘している。そして日本は単なる不景気ではなく“スタグフレーションに入っている”とも言う。だらだらと緩和を継続したのが誤りで、“6年目には撤退するべきだった”とも言っている。
新施策への移行では、“長期金利1%への移行”がその第一歩とするべきであろうと述べている。1%ならば景気の足を引っ張らないだろう、と。しかし“短期金利は0%維持”でなければ国債利払いの金利が上昇し国家予算破綻となる可能性が出てくると言っている。
又、諸外国はコロナ禍での緩和の後、物価上昇を懸念し、或いは対策の遅れが言われる中、急速に利上げを実施してきている。日本も本格的インフレが起きる前に金利を上げる必要があると示唆している。もし“長期金利の制御に失敗したら円の信認が低下して過度の円安”つまり円売りが加速するとする。
“成長戦略”が不可欠とは言っても、単なる財政出動では投資の乗数効果を発揮できず景気は良くならないのは、2010年代に明らかになっている。消費性向を向上させなければならず、そのためには賃金上昇が必要で、そのための労働生産性向上への投資が欠かせないとの指摘となっている。日本ではIT投資がいい加減で、ビジネスモデルを変更する変革ができていないことが問題なのだという。“ドイツは輸出で高く売っているが、日本は安くしか売れない。”ドイツは先進国への輸出で儲けているが、日本はそうではない。つまりドイツは付加価値を付けて売っているのだという。日本は部品や半製品が多いが、ドイツは最終製品が多いのだ。また輸出を伸ばすと言っても、中国への輸出では米国政府との摩擦が問題となるばかりで、国内消費も増やす必要があるだろうとも言っている。
第2章は東大数学科卒で財務省に入った高橋洋一氏である。
先ずは、イールド・カーブ・コントロールの歪み是正の手法についての批判から入っている。“年限ごとの国債を買いまくれば修正できる”との指摘だ。だが、それは買入する国債の量が問題となるのではないのか、と思うのだが、いとも簡単にできる話だと言っている。この点が理解できない。さすがMMT信奉者であろうか。
利上げへ向けた日銀の政策変更を岸田首相の意向の反映であり、岸田首相が円安での物価上昇を懸念し、市中銀行の財務を懸念してでのことだろうと推測している。
アベノミクスで安倍政権が“インフレ目標を掲げた”ことと、“雇用の確保・促進”について“最高の評価ができる”と絶賛している。
次にインフレと失業率の関係を示すフィリップス曲線の概念図の説明に入っている。この著者作成図で著者は“NAIRU(インフレを加速しない失業率)がマクロ経済政策、とりわけ金融政策において重要だと指摘”していて、“「失業率が下限に達するときのインフレ率の推計値」こそ、インフレ目標の正体”であると言っている。これは分かり易い。また、一時的にCPI(消費者物価指数)が2%を超えたとしてもあまり意味がなく、GDPデフレータが2%を長く超えなければ増税するのは問題だと言っている。つまり現状では増税不可であり、為すべきは“積極財政”と“金融緩和”なのだという。
したがって、防衛費増額は必要だが、増税以外で乗り越えるべきであり、むしろ“国債発行で賄うのはごく一般的”であるとしている。“国債=借金=悪”は間違いであり、1300兆円の借金で“財政破綻はしない”旨のことを言っている。むしろ“国債を発行しなければ経済は冷え込んでいく”とさえ言う。企業は借金して大きくなって行く。国家も同じで貸借対照表を作ってみれば分かるという。そして、そのバランスシートを示しているのだが、それが残念ながらバランスしていないのだ。私のような素人にはこれは辛い。政府と日銀の連結貸借対照表も微妙にアンバランス(資産が100兆円マイナスで負債が多い)なのだ。著者は本質問題ではないと言って一笑に付すかもしれないが、不安に思う素人にはそれが大切なのだ。
それでも日本国債は破綻しないとして、クレジット・デフォルト・スワップCDSの各国比較表を示している。日本は31bps、メキシコは158.13bps、イタリア140.55bpsに対し、ドイツが24.62bps、アメリカ29.99bps、フランス30.09bps。国債格付けは日本はA+で中国と同じだが、CDSは大きく異なり中国91.2bps。(ちなみに国債格付けでメキシコ・イタリアはBBB、ドイツAAA、アメリカAA+、フランスAA)こうなるとどっちの評価が適正なのかとなるが、恐らく著者の主張ではCDSの方が保険料に関わってくるので、重要だということになるのだろう。
だが、高橋氏が理屈上大丈夫だといくら力説しても、実際に破綻するのは一般社会の大衆心理のなせる業、という側面があることを指摘しておきたい。この3月破綻した米国のSVBについては確かに経営上のリスク管理の問題はあったかもしれないが、理屈上はほぼ破綻の危険はなかったハズのものだったのではないか。大衆心理で“金利上昇はこの銀行には危ないのではないか?”と思った大衆が預金を引き出し続けた結果の破綻だった、と言われる。昭和恐慌も当時の蔵相が国会で事実無根の“本日、東京渡辺銀行が破綻した”との発言により、翌日東京渡辺銀行が休業し、動揺した大衆は関係のない他の銀行にも預金引き出しに殺到したのが原因だった、という史実がある。
このように金融機関の破綻は社会心理による要素が大きいのだ。だからこそ、金融機関、政府機関への大衆の信頼感醸成が重要な破綻管理の要素となっており、そのためのマネジメントであることが肝なのだ。皆にヤバイと思われたら、そうなるのだという側面を見忘れてはならない。
第3章は日銀出身の熊野英生氏。
日銀総裁人事は“バランスの取れた人選”であり“和して同ぜずの人”だとして好意的に受け止めている。また高橋氏と同様、、岸田首相の意向も配慮しての黒田氏の最後の一手だったと推測している。
新政策について同氏も加谷氏同様の見解で、先ず“長期金利の歪是正”だろうとし、1%ならば実勢に近付くのではないかと言っている。そして長期金利が上がれば、住宅ローンに影響が出るかもしれないが、そうなると今度は価格自体が値崩れする要素が出て来るので、一概にそれが問題とはならないはずだと言っている。
イールド・カーブ・コントロールが歪むのは、当たり前だが市場実勢と乖離した管理相場になっているからだと指摘している。またそうした管理相場は長続きしないものだ、としている。だからこそ、管理相場の維持は困難であり、日銀は“緩和効果”を狙うべき立場であると言っている。
ここでも国債格付けの格下げの懸念が話題になり、“「国内でマネーが回っていればそれでいいじゃないか」などと言う人もいるが、成績表を付けている人から見て「そうではないだろう」ということになれば、それはまずいことであり、S&Pのコメントでも、日銀に対する信用が大切だ”というような意味のことを述べている。第2章へのコメントで私が言った感想と同様のことを指摘しているのだ。
マイナス金利の終了時期について言及している。コロナ禍で“ゼロゼロ融資(ほぼゼロ金利融資)”といったことも行われてきていたので、そこへ返済に金利が付くようになると影響は大きい。その返済の時期が2023年7月~2024年4月に集中しているので、マイナス金利は2025年5月くらいまで続けざるを得ないだろうと見込んでいる。
短期金利が上がった出口戦略が実施された場合、一時的に不景気にはなるが、やがて金利負担増に慣れて、景気が上向けば健全な社会が待っている、という。そうなる前提には加谷氏同様“賃上げ”が鍵だという。そしてそれに耐えられるように“生産性向上”が課題となる。
そのように社会全体の配分が問題となるはずとなるので、“社会保障分野の「お金の使われ方」の吟味”も必要だと言及している。
そして、“金融政策や年金制度は国民の見通しが利くように政治家がシンプルに設計して説明していくことが、今後強く求められる”と言及している。だが今や与野党共にアホアホの状況では望むべきもない、絶望的状況のような気がする。
第4章はフリー・ジャーナリストの須田氏と紹介しようと思って、概要の紹介欄を見直すと“経済ジャーナリスト”となっていてビックリしたところである。私は須田氏は闇社会専門のフリー・ジャーナリストと思っていたからだ。どうやら、その紹介欄を読んでいくと、“2007年から2012年まで内閣府、多重債務者対策本部有識者会議委員を務めた”とあり、闇社会の専門家だったので多重債務者対策本部有識者会議委員を歴任したら、“経済ジャーナリスト”となったのではないかと推測している。間違っていたらゴメンナサイ。
で、内容の紹介であるが、これまでの日銀の金融政策の概要説明から始まっている。繰返しの観があるが緊急出版であったことの影響であろう。
次に、総裁人事に言及して次の指摘をしていたのには珍しくすがすがしさを覚えた。“次期総裁としての名前が挙がっていた雨宮正佳氏が、総裁を辞退した最大の理由は、・・・同氏は副総裁として日銀が本来あるべき姿を維持できず、政治に翻弄されたことに責任を感じ、自分は適任ではないと考えている”からであり、“また自分が総裁になった場合、マーケットからの信頼を得られないのではないかと危惧”してのことだという。日銀総裁とはそういう純粋さが求められるのだ、と思い知った次第である。そして、ここでも“信頼”というキィ・ワードが登場したことに注目したい。
与党内に防衛増税を巡って、積極財政派と財政緊縮派(財政再建派)が全面バトルを展開している。その中で岸田首相は、色のついた人材を総裁に起用すれば、党内内紛が激化することを恐れて、“政治にはニュートラルで学者として自らが信じる理論に忠実な植田氏を選んだ”のだと推測している。だが、“誰が植田氏を推薦したのかは、わかっていません”とある。
デフレ脱却は未だ未完であり、金融緩和は継続の要ありとは、これまでの著者たちと変わりない見解である。金融政策と同時に財政出動が必要、これも変わりない。しかし、従前と同じ政策であれば乗数効果がない財政出動になるとの鋭い指摘は加谷氏だけであった。しかし、ここでも“賃金が上がらない問題”を提起している。そして“コスト削減と価格据え置きがデフレの要因”であると言い、企業(経営者)が設備投資や研究開発を行うための借り入れを行っておらず、500兆円に上る内部留保の積み上げに躍起になっているためだと指摘している。
要は日本の経営者の資本主義的マインド、つまり進取の気性の喪失や冒険心の欠如が原因なのだ。であれば、このマインドを変更させる施策が必要なのであり、それは金融政策でも単なる財政出動でも解消できる問題ではないのだ。
日本人社会に資本主義や自由主義、民主主義は果たして不向きなのだろうか・・・進歩の無い社会・・・そう考えると絶望的な気分になるのだが。
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①はロシア占領域の東西分断により西部域への兵站分断による弱体化を狙うものであり、②は既にウクライナ軍がヘルソンから渡河して南へ進行奪還した実績があるのでその橋頭保を活かす作戦、③は現状バフムト攻防をめぐって情報が錯綜する地域となっている。特に、民間軍事会社ワグネル代表・プリゴジン氏がロシア正規軍にクレームを付けてごてている。これは何らかのロシア政権内部でのいざこざを表面化させて、主導権を握ろうとしている政治的意図もあるようにも見受ける。これは見方によっては、プリゴジン氏の政権内での孤立化への焦りとも見れるのかも知れない。
こう見れば、最も重要なのは①なのは一目瞭然であろう。②、③は①の効果を上げるための陽動作戦として副次的なものとなる。①の進攻が成功すれば、マリウポリからペルジャンシク一帯の沿岸部を占領でき、この沿岸部占領すれば当然アゾフ海のロシア側の制海権を侵害でき、これによりあわよくば対岸のクリミア大橋への長射程ミサイル等での攻撃が可能となる。そうなれば陸上と同様、海上のクリミアへの兵站を脆弱化することが可能となり、ロシアによる侵攻全体の実効を半分以上減殺することができるからだ。但し、この地域の西部メリトポリ方面はロシア側も十分に警戒していて、備えが充実しているので激戦化して効果が少ないと見込まれるそうだ。
この進攻作戦ではドイツ製のレオパルト2戦車を主力とする旅団が中心となるはずで、後続に旧ソ連製のT64戦車やT55戦車を主力とする旅団を使うことになる訳だが、まだまだ新鋭のレオパルト2戦車や英国製チャレンジャー2戦車、米国製エイブラムス戦車の絶対数が不十分、或いは準備不足のようで、これが揃うまで反攻を手控えるのではないかという憶測が一般的になっているようだ。そのためゼレンスキー大統領の“反攻開始までまだ時間が必要”との発言が出て来ていると推測される。西側からのウクライナ支援を継続的に強力に維持するためには乾坤一擲の反攻を絶対的に成功させなければならないからだという。
ウクライナ側の情勢は以上のようだが、ロシア側では対ナチス戦勝記念式典の縮小があった、という。
ロシア政権内部、或いはベラルーシの協力国家の指導部の人的関係が脆弱化し始めているようだ。先述のプリゴジン氏のゴタゴタもあるが、プーチン氏の体調が問題であるばかりではなく、ベラルーシ大統領ルカシェンコも体調不良との憶測が流れ始めている。これにより、ロシアがベラルーシに供与した戦術核の使用が早まるのではないかとの懸念が出て来ている、という。
翻って国内では、野党第一党が内部でゴタゴタしている。これは代表が“次期衆院選で150議席獲得できなければ辞任する”と宣言したのが原因である。根拠なき150議席獲得宣言はさすがに問題だろう!
それよりも先週指摘したように、基礎自治体での勢力を伸ばすことが先決ではないのか。それが党の足腰の強化となるのだ。そうでなければ、150議席獲得などは空中楼閣なのだ。自民がアホアホ、ホノボノ路線なのに対し、これを何路線というべきか?ノンキも極まれりではないのかッ!
ところで、LGBTQへの差別禁止法の整備を促す書簡をG6とEUの7人の大使が連名で岸田首相に提出していたという事実をご存じだったろうか。私も一部TV報道で初めて知った。ところがどう見てもそれでいいじゃないかと思える超党派議員連盟を中心に作成した同法案の文言を修正したり削除して、ようやく“LGBT理解増進法案”が自民党内で通ったという。このままでは、急速に変化する世界に日本は取り残されて行くような気がしてならない。G7の中の孤児ではないか。それがG7議長国で世界は納得するのだろうか。マスコミからして世界から遅れてしまっているのではないか。このままでは世界の中の蛮族国家ではないか!
前々回、このブログで“河村小百合・著『日本銀行―我が国に迫る危機』(講談社現代新書)” を取り上げた。
それじゃぁ、その“我が国に迫る危機”がこれからどうなると思われるのか知りたくなるではないか。そこで書店で渉猟して見つけたのがこの本“日銀利上げの衝撃”だった。
これは4人の共著である。それも近しい立場ではなく、それぞれ別の見方・別の立場と言って良く、それぞれ個性がにじみ出ている。むしろ、その方が様々な意見が分かって好都合と、飛びついた次第である。そして、その著者の経歴等概要は次に示す本書の概要の中にある。
いつものように本書の概要を次に示す。
[出版社内容情報]
2023年4月8日、2期10年に及んだ黒田日銀総裁から新総裁に交代します。新総裁の方針は日本の為替や経済に大きな影響を与えることは必至です。本書では、新総裁を含め日銀人事はどうなるのかをはじめ、「金利の今後」「不景気の株高を含めた株バブルは起こるのか」「国債引き受け量変化の見通し」「緩和の出口戦略をどうするのか」などについて、金融・経済の専門家が分析、解説しながら今後の展開についてシナリオを提示します。
[内容説明]
2023年4月、異次元の金融緩和を維持してきた日銀の黒田体制がいよいよ終了する。日本経済が大きな転換期に来ている今、次期総裁はどんな策を練っているのか。気鋭の4人の論客が今後の展望を語る。
[目次]
第1章 金融正常化には10年以上かかる―加谷珪一(経済評論家)(量的緩和だけで経済は成長しない;日本はスタグフレーションに入っている ほか)
第2章 岸田政権の意向が色濃く反映される―高橋洋一(数量政策学者)(「利上げか・利上げではないのか」混乱の裏側;利上げした理由は歪みの修正ではない ほか)
第3章 賃金抑制の構造問題解決が急務―熊野英生(経済学者)(「バランスの取れた人選」。和して同ぜず;新総裁が最初に着手するのは、出口への道筋 ほか)
第4章 金融緩和政策は限界に近づいている―須田慎一郎(経済ジャーナリスト)(2%の物価目標は、まだ道半ばの状態;過去10年間の金融政策はいわば「寄せ木細工」 ほか)
[著者等紹介]
加谷珪一[カヤケイイチ]
経済評論家。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。その後、コンサルティング会社を設立し、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は各誌に連載を持つほか、テレビやラジオで解説者・コメンテーターを務める。
高橋洋一[タカハシヨウイチ]
数量政策学者。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年に大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉内閣・第1次安倍内閣ではブレーンとして活躍。菅義偉内閣では内閣官房参与を務めた。現在は嘉悦大学ビジネス創造学部教授、株式会社政策工房代表取締役会長を務める。
熊野英生[クマノヒデオ]
経済学者。1967年7月、山口県生まれ。1990年3月、横浜国立大学経済学部卒。1990年4月、日本銀行入行。2000年8月、第一生命経済研究所入社。2011年4月より首席エコノミスト。日本ファイナンシャル・プランナーズ協会常務理事兼任。
須田慎一郎[スダシンイチロウ]
経済ジャーナリスト。日本大学経済学部卒。経済紙の記者を経て、フリージャーナリストに。新聞、雑誌などで執筆活動を続けるかたわら、テレビ、ラジオ、YouTubeチャンネルなど、多方面で活躍。2007年から2012年まで内閣府、多重債務者対策本部有識者会議委員を務め、政界・官界・財界での豊富な人脈を基に、数々のスクープを連発。
(以上本データはこの書籍が刊行された当時に書籍に掲載されている著者の紹介情報。)
先に、これは異なる立場での4人の共著であると述べた。いわば本のオムニバスだ。
前回いささか勇み足的発言をして、“理工系出身の経済専門家が、・・・その見識を疑うような発言を堂々となさっているのを見ると情けない思いにとらわれるのは、私だけだろうか。そのような方々がMMT理論を安易に振りかざしているのではないか。世の中にはいい加減な議論が多過ぎるような気がする。”と書いたが、この4人の卒業した大学と専攻を見て欲しい。
4人の内2人が理工系なのだ。残り2人は経済学部だが、言って悪いが日本の超一流大学の経済学部卒ではない。否、私はこの4人が超一流ではないと言っている訳ではない。もっと他にもこういったテーマの本が他の著者で多数出版されていても良いのではないかと思うのだ。日本の経済学の他のトップ・クラスは一体、何処に消えたのか?と言いたい。そして、こうした本はむしろそういった大勢のトップ・クラスの人達が執筆して、国民を啓蒙するべきものではないのか。正に日本は危機の正面に居るのか、はたまたそういう危険は想定しなくて良いのか、どういう種類の異常が日本経済に起きているのか説明する責任が一流の経済学者には有るのではないのか。一体全体、どこに逃亡したのか?無責任ではないのか、と私は思っている。
閑話休題。本の内容紹介から入ろう。
先ず、“はじめに”で出版社編集部の挨拶からスタートしている。ここでは、日銀総裁・黒田東彦氏が今年4月8日に任期満了となり、歴代最長だったことを告げ、その一貫した方針“2%インフレ目標の実現”を唱え、異次元緩和を推進したと述べている。その黒田氏が離任直前に、“長期金利の変動幅上限を0.25%から0.5%に引き上げる”とした。これは異次元緩和を終え、正常化への出口戦略への第一歩であろうと指摘し、新体制への移行を準備するものであろうとしている。
そこで、新体制に求められる施策はどういったものであると予測されるのかを4人の専門家に問うたとしている。
そして目次を示した後、戦後の歴代の日銀総裁の事跡を付けたリストを掲載している。
本文は4人の共著者の筆頭、第1章を担当したのは当代一の経済コメンテータ・加谷珪一氏。正にテレビその他で引っ張りダコの著者である。
日銀の異次元緩和について“量的緩和だけで経済は成長しない”として、“成長戦略”が不可欠であったことを指摘している。そして日本は単なる不景気ではなく“スタグフレーションに入っている”とも言う。だらだらと緩和を継続したのが誤りで、“6年目には撤退するべきだった”とも言っている。
新施策への移行では、“長期金利1%への移行”がその第一歩とするべきであろうと述べている。1%ならば景気の足を引っ張らないだろう、と。しかし“短期金利は0%維持”でなければ国債利払いの金利が上昇し国家予算破綻となる可能性が出てくると言っている。
又、諸外国はコロナ禍での緩和の後、物価上昇を懸念し、或いは対策の遅れが言われる中、急速に利上げを実施してきている。日本も本格的インフレが起きる前に金利を上げる必要があると示唆している。もし“長期金利の制御に失敗したら円の信認が低下して過度の円安”つまり円売りが加速するとする。
“成長戦略”が不可欠とは言っても、単なる財政出動では投資の乗数効果を発揮できず景気は良くならないのは、2010年代に明らかになっている。消費性向を向上させなければならず、そのためには賃金上昇が必要で、そのための労働生産性向上への投資が欠かせないとの指摘となっている。日本ではIT投資がいい加減で、ビジネスモデルを変更する変革ができていないことが問題なのだという。“ドイツは輸出で高く売っているが、日本は安くしか売れない。”ドイツは先進国への輸出で儲けているが、日本はそうではない。つまりドイツは付加価値を付けて売っているのだという。日本は部品や半製品が多いが、ドイツは最終製品が多いのだ。また輸出を伸ばすと言っても、中国への輸出では米国政府との摩擦が問題となるばかりで、国内消費も増やす必要があるだろうとも言っている。
第2章は東大数学科卒で財務省に入った高橋洋一氏である。
先ずは、イールド・カーブ・コントロールの歪み是正の手法についての批判から入っている。“年限ごとの国債を買いまくれば修正できる”との指摘だ。だが、それは買入する国債の量が問題となるのではないのか、と思うのだが、いとも簡単にできる話だと言っている。この点が理解できない。さすがMMT信奉者であろうか。
利上げへ向けた日銀の政策変更を岸田首相の意向の反映であり、岸田首相が円安での物価上昇を懸念し、市中銀行の財務を懸念してでのことだろうと推測している。
アベノミクスで安倍政権が“インフレ目標を掲げた”ことと、“雇用の確保・促進”について“最高の評価ができる”と絶賛している。
次にインフレと失業率の関係を示すフィリップス曲線の概念図の説明に入っている。この著者作成図で著者は“NAIRU(インフレを加速しない失業率)がマクロ経済政策、とりわけ金融政策において重要だと指摘”していて、“「失業率が下限に達するときのインフレ率の推計値」こそ、インフレ目標の正体”であると言っている。これは分かり易い。また、一時的にCPI(消費者物価指数)が2%を超えたとしてもあまり意味がなく、GDPデフレータが2%を長く超えなければ増税するのは問題だと言っている。つまり現状では増税不可であり、為すべきは“積極財政”と“金融緩和”なのだという。
したがって、防衛費増額は必要だが、増税以外で乗り越えるべきであり、むしろ“国債発行で賄うのはごく一般的”であるとしている。“国債=借金=悪”は間違いであり、1300兆円の借金で“財政破綻はしない”旨のことを言っている。むしろ“国債を発行しなければ経済は冷え込んでいく”とさえ言う。企業は借金して大きくなって行く。国家も同じで貸借対照表を作ってみれば分かるという。そして、そのバランスシートを示しているのだが、それが残念ながらバランスしていないのだ。私のような素人にはこれは辛い。政府と日銀の連結貸借対照表も微妙にアンバランス(資産が100兆円マイナスで負債が多い)なのだ。著者は本質問題ではないと言って一笑に付すかもしれないが、不安に思う素人にはそれが大切なのだ。
それでも日本国債は破綻しないとして、クレジット・デフォルト・スワップCDSの各国比較表を示している。日本は31bps、メキシコは158.13bps、イタリア140.55bpsに対し、ドイツが24.62bps、アメリカ29.99bps、フランス30.09bps。国債格付けは日本はA+で中国と同じだが、CDSは大きく異なり中国91.2bps。(ちなみに国債格付けでメキシコ・イタリアはBBB、ドイツAAA、アメリカAA+、フランスAA)こうなるとどっちの評価が適正なのかとなるが、恐らく著者の主張ではCDSの方が保険料に関わってくるので、重要だということになるのだろう。
だが、高橋氏が理屈上大丈夫だといくら力説しても、実際に破綻するのは一般社会の大衆心理のなせる業、という側面があることを指摘しておきたい。この3月破綻した米国のSVBについては確かに経営上のリスク管理の問題はあったかもしれないが、理屈上はほぼ破綻の危険はなかったハズのものだったのではないか。大衆心理で“金利上昇はこの銀行には危ないのではないか?”と思った大衆が預金を引き出し続けた結果の破綻だった、と言われる。昭和恐慌も当時の蔵相が国会で事実無根の“本日、東京渡辺銀行が破綻した”との発言により、翌日東京渡辺銀行が休業し、動揺した大衆は関係のない他の銀行にも預金引き出しに殺到したのが原因だった、という史実がある。
このように金融機関の破綻は社会心理による要素が大きいのだ。だからこそ、金融機関、政府機関への大衆の信頼感醸成が重要な破綻管理の要素となっており、そのためのマネジメントであることが肝なのだ。皆にヤバイと思われたら、そうなるのだという側面を見忘れてはならない。
第3章は日銀出身の熊野英生氏。
日銀総裁人事は“バランスの取れた人選”であり“和して同ぜずの人”だとして好意的に受け止めている。また高橋氏と同様、、岸田首相の意向も配慮しての黒田氏の最後の一手だったと推測している。
新政策について同氏も加谷氏同様の見解で、先ず“長期金利の歪是正”だろうとし、1%ならば実勢に近付くのではないかと言っている。そして長期金利が上がれば、住宅ローンに影響が出るかもしれないが、そうなると今度は価格自体が値崩れする要素が出て来るので、一概にそれが問題とはならないはずだと言っている。
イールド・カーブ・コントロールが歪むのは、当たり前だが市場実勢と乖離した管理相場になっているからだと指摘している。またそうした管理相場は長続きしないものだ、としている。だからこそ、管理相場の維持は困難であり、日銀は“緩和効果”を狙うべき立場であると言っている。
ここでも国債格付けの格下げの懸念が話題になり、“「国内でマネーが回っていればそれでいいじゃないか」などと言う人もいるが、成績表を付けている人から見て「そうではないだろう」ということになれば、それはまずいことであり、S&Pのコメントでも、日銀に対する信用が大切だ”というような意味のことを述べている。第2章へのコメントで私が言った感想と同様のことを指摘しているのだ。
マイナス金利の終了時期について言及している。コロナ禍で“ゼロゼロ融資(ほぼゼロ金利融資)”といったことも行われてきていたので、そこへ返済に金利が付くようになると影響は大きい。その返済の時期が2023年7月~2024年4月に集中しているので、マイナス金利は2025年5月くらいまで続けざるを得ないだろうと見込んでいる。
短期金利が上がった出口戦略が実施された場合、一時的に不景気にはなるが、やがて金利負担増に慣れて、景気が上向けば健全な社会が待っている、という。そうなる前提には加谷氏同様“賃上げ”が鍵だという。そしてそれに耐えられるように“生産性向上”が課題となる。
そのように社会全体の配分が問題となるはずとなるので、“社会保障分野の「お金の使われ方」の吟味”も必要だと言及している。
そして、“金融政策や年金制度は国民の見通しが利くように政治家がシンプルに設計して説明していくことが、今後強く求められる”と言及している。だが今や与野党共にアホアホの状況では望むべきもない、絶望的状況のような気がする。
第4章はフリー・ジャーナリストの須田氏と紹介しようと思って、概要の紹介欄を見直すと“経済ジャーナリスト”となっていてビックリしたところである。私は須田氏は闇社会専門のフリー・ジャーナリストと思っていたからだ。どうやら、その紹介欄を読んでいくと、“2007年から2012年まで内閣府、多重債務者対策本部有識者会議委員を務めた”とあり、闇社会の専門家だったので多重債務者対策本部有識者会議委員を歴任したら、“経済ジャーナリスト”となったのではないかと推測している。間違っていたらゴメンナサイ。
で、内容の紹介であるが、これまでの日銀の金融政策の概要説明から始まっている。繰返しの観があるが緊急出版であったことの影響であろう。
次に、総裁人事に言及して次の指摘をしていたのには珍しくすがすがしさを覚えた。“次期総裁としての名前が挙がっていた雨宮正佳氏が、総裁を辞退した最大の理由は、・・・同氏は副総裁として日銀が本来あるべき姿を維持できず、政治に翻弄されたことに責任を感じ、自分は適任ではないと考えている”からであり、“また自分が総裁になった場合、マーケットからの信頼を得られないのではないかと危惧”してのことだという。日銀総裁とはそういう純粋さが求められるのだ、と思い知った次第である。そして、ここでも“信頼”というキィ・ワードが登場したことに注目したい。
与党内に防衛増税を巡って、積極財政派と財政緊縮派(財政再建派)が全面バトルを展開している。その中で岸田首相は、色のついた人材を総裁に起用すれば、党内内紛が激化することを恐れて、“政治にはニュートラルで学者として自らが信じる理論に忠実な植田氏を選んだ”のだと推測している。だが、“誰が植田氏を推薦したのかは、わかっていません”とある。
デフレ脱却は未だ未完であり、金融緩和は継続の要ありとは、これまでの著者たちと変わりない見解である。金融政策と同時に財政出動が必要、これも変わりない。しかし、従前と同じ政策であれば乗数効果がない財政出動になるとの鋭い指摘は加谷氏だけであった。しかし、ここでも“賃金が上がらない問題”を提起している。そして“コスト削減と価格据え置きがデフレの要因”であると言い、企業(経営者)が設備投資や研究開発を行うための借り入れを行っておらず、500兆円に上る内部留保の積み上げに躍起になっているためだと指摘している。
要は日本の経営者の資本主義的マインド、つまり進取の気性の喪失や冒険心の欠如が原因なのだ。であれば、このマインドを変更させる施策が必要なのであり、それは金融政策でも単なる財政出動でも解消できる問題ではないのだ。
日本人社会に資本主義や自由主義、民主主義は果たして不向きなのだろうか・・・進歩の無い社会・・・そう考えると絶望的な気分になるのだが。
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