徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

インフルエンザで「早めの受診」は間違い?

2018年02月01日 08時17分20秒 | 小児科診療
 「インフルエンザが疑われたら早めに医療機関を受診して検査を受けましょう」とインフルエンザ専門家が発言したことが医師の間で話題になっています。

■ インフル対策、手洗いやマスクで徹底 症状あれば受診を
2018年01月26日:朝日新聞
 インフルエンザは、主にせきやくしゃみのしぶきを通して感染する。厚生労働省は、予防法として外出後の手洗いのほか、マスクの着用、人混みや繁華街への外出を控えるなどの対策を呼びかけている。
 高齢者や持病がある人は重症化しやすいので特に注意が必要だ。症状がある場合は、学校や職場に行かず、早めに医療機関を受診することが大事となる。
 今季はA型とB型がともに流行しているため、同時期に複数回、インフルエンザに感染する恐れもある。一度感染して快復しても、対策を怠らないようにしないといけない。
 大人の場合、B型はA型と比べると熱が低いため、インフルエンザと思わずに外出して感染を広げる恐れがあるという。けいゆう病院の菅谷憲夫医師は「微熱でも症状が出たら医療機関を受診して検査を受けてほしい」と話している。


 その主旨は「早めに受診しても診断できないので、感染拡大防止という視点では、重症者以外は自宅待機の方がよいのではないか?」という考えです。
 下記記事を読んで、皆さんはどう思われますか?
※ 下線は私が引きました。

■ インフルエンザで「早めの受診」は間違いです!
 つくば市 坂根Mクリニック 坂根みち子
医療ガバナンス学会 :2018年1月31日
 インフルエンザが猛威を振るっています。1月15日からの1週間で全国の医療機関を受診したインフルエンザの患者は過去最高の283万人だそうです。
 日本ではインフルエンザが疑われたらで早めの受診を呼びかけますが、これは間違いです。息が苦しいとか、意識がおかしいとかではない限り、基本は家で寝て自力で治してください。
 医療機関にフリーアクセスが出来る日本で、うつりやすい感染疾患の軽症者が医療機関に殺到したらどうなるか想像がつくでしょう。過去最高の患者が発生している中で、医療現場では、その心配が現実のものとなっています。
 考えてみてください。生きるか死ぬかの疾患で救急搬送してもらうとき、大抵の医療機関も救急搬送自体も軽症のインフルエンザ患者に人手と時間が取られ、重症者への対応の障害となっているのです。また自己免疫疾患やがん患者等、インフルエンザを恐れながら暮らしている人達が、通常の治療ために医療機関に行くことで感染のリスクにさらされるのです。自分や家族がそんな状態だったら、どうでしょうか?
 私たちがどちらを優先すべきか明らかでしょう。

 国の方針がまず間違っています。
 厚労省と首相官邸のホームページには次のように記載されています。

(厚労省) 
Q.インフルエンザにかかったらどうすればよいのですか?
(1) 具合が悪ければ早めに医療機関を受診しましょう。
(首相官邸ホームページ)
 発症から48時間以内に抗インフルエンザウイルス薬の服用を開始すれば、発熱期間の短縮などの効果が期待できます。早めに医療機関を受診し、処方された薬は医師の指示に従って服用しましょう。


 厚労省も首相官邸も医療資源には限りがあるということをご存知ないのでしょうか。このような広報の仕方でどうやって国全体としての感染拡大を防げるというのでしょうか?
 インフルエンザの大流行を受けて、1月26日には、なんと加藤勝信厚労大臣が「早めの受診」を呼びかけていました。厚労省担当者はいったいどのようなブリーフィングを大臣にしているのでしょうか?
 インフルエンザが疑われるとき、国やメディアがすることは、早めの受診を促すのではなく、基本は自宅療養だと伝えることです。

 そもそも、熱が出たり節々が痛かったりしているということは、体内に何かしらのウイルスが入って戦っているということです。でもそのウイルスがインフルエンザなのか、ただの風邪なのかは私たち医療者でもわかりません。(他に細菌感染のこともあります)
 軽症者はいずれにせよ特別な治療が必要なわけではないので、診断を確定させる必要もないのです。医療機関はこの時期、診断を付けてほしい人や軽症の受診者の対応に追われます。
 昨日からのどが痛いけれどインフルエンザではないか検査してほしいと来院されることも多いのですが、迅速検査の診断は陽性の時はインフルエンザであると確定出来ますが、陰性の時は、インフルエンザではないとは言えないのです。インフルエンザは軽い感染で済むことや熱の出ないこともよくあります。その人達に迅速検査しても陽性になることは希です会社や学校は、病院へ行ってインフルエンザかどうか検査してくるように、というのは止めましょう。迅速検査で診断出来る頻度はそう高くないですし、検査が受けられる条件があります。検査を繰り返す人もいますが、迅速検査で陽性になるのを待っているうちにどんどん周囲の人にうつしてしまいます。(どうしても検査したい人のためには、迅速検査はもっと簡便なキットで市販されるのを期待します。)
 医療機関は、本来は諸外国のように肺炎や脳症等合併症が疑われる人に絞り込んで対応させていただきたいのです。

 医療機関のスタッフがインフルエンザをうつされてしまう例も後を絶ちません。現場は更に少ない人数で対応しなければならなくなっています。当院でもある人数までは、受付でトリアージし、感染症の人は隔離し対応出来ますが、キャパシティを越えて患者が殺到した時は、感染症の人も感染しやすい持病のある人も待合室で一緒に待って頂くしかなくなります。さらに問診も診察も説明も不十分となり、見落としのリスクも上がります。これはどこの医療機関でも同じです。千葉のある診療所では、休日の来院患者数が半日で200人を超え、これを医師一人で対応していました。限界を越えた診療は、患者にとってデメリットが大きいだけでなく確実に前線の医療者を疲弊させます。後方支援(広報支援でもありますね)なく、このような状況が続けばどうなるか、厚労省の担当者や大臣には是非一度現場を見て頂くことをお勧めします。

 医療機関がパンクしないよう、重い疾患で通院中の患者さんが安全に治療を受けられるよう、軽い症状の人は自宅待機で治してください。基本は保湿と休養、熱や頭痛が辛ければ、市販の小児用バファリンやタイレノール(アセトアミノフェン)を使ってください。麻黄湯や葛根湯もいいようです。抗ウイルス薬は、発症後48時間以内の人は使えますが、軽症者には必要ありません抗ウイルス薬を使っても回復までの時間は半日ほどしか短縮しないと言われています。家は加湿し、他の人に感染させないようにマスクをして、人とのやり取りはアルコール消毒した手でしてください。熱が出た人は、解熱後48時間まで登校や出社は避けてください。(解熱剤は飲んで結構ですが、解熱剤を飲んで下がったのは解熱した時間に含めないでください) 熱が出ず体調が悪いだけの人は症状が回復するまで自宅療養してください。最近の研究では、インフルエンザが空気感染する可能性に言及していますが(1)、そこでも、自宅待機(stay home)とワクチンを打っておくことを勧めています。実際、よりたくさんの人がワクチン接種を受けていれば「集団免疫」で助かる命も多いのです(2)。

 今後感染症との闘いは、更に過酷なものになっていきます。
 これが致死性の高い新型インフルエンザウイルスならどういうことになるか、想像してみてください。まず「疑わしい人は自宅待機」を徹底させないと、今のように「早めの受診」を勧めていては会社でも学校でも医療機関でもあっという間に感染が広がります。各組織は誰かのお墨付きを待つのはなく自らの判断で休むという体勢を整えないと、今後予想されるパンデミックで壊滅的な被害が出るでしょう。
 それは取りも直さず、組織として不可欠なリスク管理でもあります。

 日本の医療システムは「お互い様」と言う意識で支え合わないとこれ以上持ちません。しわ寄せは本当に医療が必要な人に医療が届かない、という形で現れます。
 今こそ、メディアは本当の専門家の声を聞き、諸外国の例もしっかり取材して、早めの医療機関受診は方針として間違っていると、その中でどういった人が病院に行く必要があるのか(喘息持ちの人、免疫が落ちる持病のある人、妊婦、呼吸困難や意識障害のある人など)を正しく伝えてください。国民の受診行動を変えるためにメディアが果たす役割は大きいのです。

<参考>
厚労省HP
首相官邸HP

(1)Flu study: ‘We found that flu cases contaminated the air around them with infectious virus just by breathing, without coughing or sneezing’
(2)インフルエンザ大流行。日本から失われた「集団免疫」とは?



 「インフルエンザウイルス vs. 人類」の闘いは、今のところインフルエンザに軍配が上がり、人類は負けっ放しと認めざるを得ません。
 上記記事の提案は「医療機関に殺到することにより医療機関の疲弊・麻痺状態を回避する」のが目的です。
 学級閉鎖・学年閉鎖・学校閉鎖の目的も流行阻止ですが、究極には医療機関の麻痺を回避すること。
 これは2009年の新型インフルエンザ流行時に痛感しました。
 学級閉鎖でいったん流行が収まっても、まだ感染していない生徒が残っていると、第二波・第三波の流行が襲ってきて全員が感染するまで終わらないのです。

 では流行を征圧するために、人類にできるベストのことは何か?
 それはワクチンによる予防です。
 ご存じの通り、インフルエンザワクチンの効果は他のワクチンに比べると低いことは否めません。
 しかし、繰り返し繰り返し取り上げてきましたが、間接予防効果(集団免疫)というメリットがあります。
 これは個人の努力に依存するのではなく、コミュニティとして、国単位で取り組むべき対象です。

 小児科医同士の議論で気になっていることがあります。
 「早めに受診しても意味がない」
 「治癒証明証には意味がない」
 とつぶやく医師には、ワクチン消極派が多い印象があるのです。

 インフルエンザについては、医師の間でも混乱があります。
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