小児アレルギー科医の視線

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大人の食物アレルギーその3「GRPアレルギー」

2025年02月15日 14時37分01秒 | 食物アレルギー
大人の食物アレルギーその3は「GRPアレルギー」です。
一般の方には馴染みのない単語ですね。
いや医師の中でもアレルギー専門医以外はおそらく知らないと思われます。

GRPはアレルゲンコンポーネントの一つです。
前項目のPFASは基本的に口腔内にとどまる軽い症状ですが、
中には果物や野菜を食べると激しい全身症状で発症する患者さんがいます。
その原因を探求して見つけられたのがGRPです。

ポイントは「モモやウメで全身じんま疹が出る人は危険」です。


▢ ジベレリン制御蛋白(GRP)アレルギーNSAIDs服用で症状悪化? 一般的なIgE抗体検査をすり抜ける全身性アレルギー
2025/02/13:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);


図1 ジベレリン制御蛋白(GRP)アレルギーの特徴

 20歳代男性のA男は、ある日、モモを食べると蕁麻疹が出ることに気が付いた。先日も同じことがあったため、食物アレルギーを疑い近医を受診。キットを用いた特異的IgE抗体検査でモモは陰性だったため、直接の原因は分からなかったが、それ以降A男はモモを口にするのを何となく控えていた。しかし、その後も原因が分からぬまま、蕁麻疹や顔面潮紅が現れることがあり、次第に「体調の問題で、疲れがあると蕁麻疹が出やすいのかもしれない」などと思うようになった。
 ある朝、A男は朝食に梅干しとお茶漬けを食べた。また頭痛があり、前日から続けて市販の頭痛薬(NSAIDs)を服用した。仕事に遅刻しそうだったため、A男は走って駅まで向かった。すると、食後1時間を経過したあたりで蕁麻疹が現れ、顔のほてりを自覚した。A男は「いつもの症状か」と楽観視していたが、症状はみるみる悪化。眼瞼浮腫や鼻閉、呼吸困難も現れ、救急搬送された。救急外来では、食物アレルギーによるアナフィラキシーショックが疑われ、治療が行われた。
 後日、A男は専門医に紹介され、上記のエピソードからモモの特異的IgE抗体検査、ウメとモモの粗抽出液を用いたプリックテストを実施した。特異的IgE抗体検査は陰性だったものの、プリックテストではウメとモモが陽性に。さらに詳細な検査により、ウメとモモのジベレリン制御蛋白(GRP)アレルギーと診断された。専門医は、これらの原因食物について、加工品も含めた除去指導を実施。誤って口にしたときに備えて、抗ヒスタミン薬とエピペンを処方し、携帯するよう伝えた。
「モモを食べると蕁麻疹が出るが、キットを用いた特異的IgE抗体検査は陰性」
「加熱・加工した果物でも蕁麻疹が出る」
「運動やNSAIDsの服用を契機に症状が悪化し、アナフィラキシーに至った」
──もし、原因不明のアレルギー患者からこういったエピソードを聞いたら、GRPアレルギーを疑ってほしい。
 GRPアレルギーは、約10年前に原因物質が同定された比較的新規のアレルギー疾患だ。植物ホルモンのジベレリンにより誘導される、抗菌ペプチドの一つであるGRPを原因とする。日本では、ウメやモモを原因とするGRPアレルギー患者が多い。一般的に、果物や野菜の主要アレルゲンはPR-10やプロフィリンといった蛋白質だが、GRPアレルギー患者の多くは、これらのアレルゲンに対する特異的IgE抗体検査で陰性となるため、長らく原因アレルゲンが不明だった。
 本邦のGRPアレルギー研究をリードしてきた、昭和大学医学部皮膚科教授の猪又直子氏によると、「自験例では、果物アレルギーの患者100人のうち、PR-10やプロフィリンの特異的IgE抗体検査が陰性の患者が20人おり、そのうちGRP陽性の患者が13人(65%)いた。原因不明の果物アレルギー患者の多くに、GRPアレルギーが潜んでいる可能性がある」という(図2)。


図2 日本人の果物アレルギー患者に占めるGRPアレルギー患者の割合
(Inomata N, et al. 2020を基に編集部作成)

▶ NSAIDsの服用や運動といったCo-factorに注意
 モモのアレルギーと言えば、カバノキ科花粉症との交差反応で生じる花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)が比較的よく知られている(関連記事:特定の季節に起こる頭痛や倦怠感、原因判明の契機となった食物アレルギー)。PFASは、主に口や喉に痒みやしびれが生じる口腔内アレルギー症候群(OAS)が主な病態で、アナフィラキシーまで進展するケースは少ない(表1)。上述の通り、PR-10やプロフィリンが原因アレルゲンで、これらは消化酵素で分解されるからだ。同様にこれらのアレルゲンは熱にも弱いため、加熱したものであれば口にすることができる。
 PR-10やプロフィリンに比べ、GRPは消化酵素や熱に耐性だ。そのため、GRPアレルギーの患者は、蕁麻疹や眼瞼浮腫のほかアナフィラキシーやショックなど、全身性かつ重大な症状に発展しやすい治療法は原因食物の除去指導だが、GRPアレルギーの場合は缶詰なども含めた、加工された原因食物も含めて避けるよう指導する必要がある
 「特にうっかり口にしてしまいやすいのがウメの加工品。日本では、市販のお弁当や総菜などにウメの加工品が入っていることが多い。また、梅ジュースと梅酒は飲料として加工されているため、患者はウメを喫食しているという意識が薄くなる」と猪又氏は指導の際の注意点を述べる。万が一、原因食物を喫食したときに備え、抗ヒスタミン薬や
エピペンを処方し、携帯するよう指導するのもポイントになる。


表1 異なるアレルゲンが誘導するモモアレルギーの違い

 昭和大学の猪又直子氏は「原因不明のアナフィラキシーを発症した患者では、GRPアレルギーを疑ってほしい」と語る。
 猪又氏は「GRPアレルギーは重篤な症状に発展するにもかかわらず、一般的な検査では見逃されやすいのが課題だ」と語る。その理由として、
(1)標準的な特異的IgE抗体検査キットで使用されているリコンビナント抗原に、GRPが含まれておらず陰性になる、
(2)粗抽出液を用いた検査を行っても、粗抽出液に抗原が十分含まれておらず陰性になることがある
──ことが挙げられる。
 さらに、GRPアレルギーに加え、PR-10やプロフィリンを原因アレルゲンとするPFASも持つ患者では、標準的な特異的IgE抗体検査で陽性になる。その結果、GRPアレルギーの可能性に触れられないまま、「生の果物を避ければよい」など、PFASに対する療養指導だけをされてしまう懸念があるという。
 「モモを原因とする食物アレルギーを疑う患者で、特に蕁麻疹や顔面・眼瞼浮腫、喉頭絞扼感や呼吸困難感、意識障害といった全身症状の既往を認めたら、GRPアレルギーも疑ってほしい」と猪又氏。GRPアレルギーの診断にはプリックテストが必要だが、「検査によりアナフィラキシーやショックを発症する可能性もあるため、GRPアレルギーを疑ったら専門医に紹介するのが望ましいだろう」と続ける。
 加えて、GRPアレルギーの患者では、
運動NSAIDs服用といったCo-factorにより、重大な症状が引き起こされることが分かっている。コムギや甲殻類アレルギーの患者に特徴的な、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)の病態も備えているというわけだ。特に注意したいのがNSAIDsの服用だ。FDEIAはCo-factorによって腸管バリア機能障害が生じ、抗原の吸収が促進されることが、症状誘発や増悪を引き起こす一つの原因だとされている。猪又氏によれば、「運動後に比べて、NSAIDs服用後の方がより抗原を吸収しやすい傾向があることが分かりつつある」という。
 GRPアレルギーは成人の報告が多いものの、近年は小児でも報告が増えてきている。特に、中高生では部活動の最中にアナフィラキシーを発症するケースもある。GRPアレルギーは発見されにくい上、症状によっては命を脅かすような疾患にもなる。原因不明だったり、口腔内にとどまらない全身性のアレルギー症状を訴える患者がいたら、食事歴と症状からGRPアレルギーを疑い、専門医へ精査を依頼することが重要になる。


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1 コメント

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はじめまして。 (りぼん)
2025-02-15 23:11:04
はじめまして。
以前、桃でのどがイガイガを経験しました。
それと、ロキソニン湿布で、胃の不調、アスピリン喘息を経験しました。
桃が喉がイガイガする人は、梅も気をつけた方が良いのですね。
初めて知りました。
ロキソニンなどの鎮痛剤は気をつけていました。
情報ありがとうございます。
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