「食物アレルギー」と聞くと、子どもの病気というイメージがあります。
しかし近年、大人の食物アレルギーが話題になるようになってきました。
食物アレルギーには診療ガイドラインが作成されているのですが、
当初は「小児の食物アレルギー診療ガイドライン」という名称だったものが、
ある時期から“小児”をはずして「食物アレルギー診療ガイドライン」に変更され、
時代の流れを感じたものです。
さて、大人の食物アレルギーは子どもと比べると、ちょっと複雑なメカニズムが背景にあります。
アレルゲン研究が進むとともに、
一つの食材には複数のアレルゲン成分が存在することがわかり、
それを「アレルゲンコンポーネント」と呼ぶようになりました。
そして「アレルゲンコンポーネント」はいろいろな食材に共通して存在し、
「交差反応性」を表現していることも判明しました。
さらに「アレルゲンコンポーネント」は花粉アレルゲンと三次構造が似ていることがあり、
ある花粉アレルゲンに反応する人は、
ある食材のアレルゲンコンポーネントを花粉と勘違いして反応し、
症状が出てしまうというカラクリもわかってきました。
これらのことを頭の中で整理するのは大変です。
それを扱った記事を3回に分けて紹介します;
最初に取りあげるのは食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)・・・「エフパイス」と読みます。
これはアレルゲンとなる食材を食べてから数時間後にお腹の症状が出るタイプ。
ふつう食物アレルギーは食べるとすぐにじんま疹などの皮膚症状が出るのが典型的ですが、
食べてから発症するまでに時間がかかり、皮膚症状はないのが特徴です。
そしてこのタイプはアレルギー血液検査では陽性に出ないことも大きなポイント。
このタイプ、小児アレルギー領域では「卵黄アレルギー」で注目されています。
卵アレルギーと聞くと「卵白がメイン、食べるとじんま疹」というイメージです。
でも、卵白は食べても無症状、しかし卵黄を食べると数時間後に繰り返し嘔吐する、
という例が多く報告され、この疾患概念が生まれました。
記事ではカキアレルギーを取りあげています。
<ポイント>
・FPIESは、皮膚や呼吸器症状を伴う即時型アレルギーとは異なり、嘔吐や下痢といった消化器症状が中心で、原因食物の喫食から発症まで1~6時間と時間がかかる。
・乳幼児や小児のFPIESでは、原因食物として卵や牛乳、小麦、貝など、多くの食物が挙げられている。
・成人のFPIESでは、貝、甲殻類、魚と比較的限られるのが特徴。
・成人の魚介類アレルギー患者の中にもFPIESの人が潜在的に存在する可能性がある。成人のFPIESの原因食物としては、本邦では特にカキの頻度が高い。
・20~40歳代の女性で発症することが多く、その症状は腹部の張りや腹痛、嘔吐、下痢といった消化器症状が中心。
・FPIESはIgE抗体を介さない「非IgE依存性食物アレルギー」のため、IgEを検出するふつうのアレルギー血液検査では診断できない。診断には経口負荷試験(直接その食材を食べて症状が出るかどうか確認する)が必要。
・そのため診断までに時間がかかりがちで、成人のFPIESは診断されるまで平均10年かかり、その間に6~8回、原因食物の喫食に伴うエピソードを経験しているという報告もある。
・急性期の治療は輸液などの循環血液量の回復が主で、長期的な管理は原因食物の除去指導が基本。
・幼児や小児ではFPIESの発症後、成長とともに完治することが多いが、成人では一度発症すると完治することはない。
▢ 運悪くカキに“あたり”続ける若年女性は、非IgE依存性アレルギーかも
(2025/02/10:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
広島県出身で30歳代女性のA子・・・夕食にカキフライを食べた深夜、ひどい腹痛と下痢、吐き気が生じた。フライに火があまり通っていなかったことによる食中毒を疑い、翌日は自宅で安静にしていた。後日、A子は実家に帰省し、生カキを食べたところ、数時間後、またもひどい腹痛と下痢を起こした。感染性胃腸炎を疑い、近医を受診したが原因は分からず、一緒に食べた家族には何の症状もない。「最近、私は運悪くカキに“あたる”」とA子は感じた。
その後もA子は、カキでおなかを壊すことが何回か続いた。その度にひどい腹痛を伴うため、主治医に相談したところ、「カキのアレルギーかもしれないが、うちではカキのIgE抗体検査はできない」と言われ、専門医に紹介された。紹介先では、
その後もA子は、カキでおなかを壊すことが何回か続いた。その度にひどい腹痛を伴うため、主治医に相談したところ、「カキのアレルギーかもしれないが、うちではカキのIgE抗体検査はできない」と言われ、専門医に紹介された。紹介先では、
(1)これまで問題なくカキを喫食できていたが突然発症した、
(2)カキ喫食時に毎回発症する、
(3)喫食後、数時間たって発症する、
(4)ひどい腹痛、下痢、吐き気の症状を呈する
──といったエピソードから「食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)」が疑われた。
カキの経口負荷試験を実施したところ、摂取数時間後に腹痛と下痢症状を認めたため、カキを原因とするFPIESと診断。加熱したものやオイスターソースなども含め、今後、カキを除去するよう指導した。なお、カキの特異的IgE抗体検査は陰性だった。

図1 食物蛋白誘発胃腸炎(FPIES)の特徴(取材を基に編集部作成)
「カキに“あたりやすい”」
「居酒屋で刺し身を食べるとおなかをよく壊す」
「子どもの頃からカニが大好きだったのに、最近、食べると体調を崩す」
──これらは、成人のFPIESを疑うきっかけになる特徴的なエピソードだ。
近年、小児の食物アレルギーとして認知度が高まりつつあるFPIES。皮膚や呼吸器症状を伴う即時型アレルギーとは異なり、嘔吐や下痢といった消化器症状が中心で、原因食物の喫食から発症まで1~6時間と時間がかかることから、「見つかりにくい食物アレルギー」の一つとされている(関連記事:卵黄が原因の食物蛋白誘発胃腸炎患者、卵白は食べてもいい?)。
しかし研究が進むにつれ、どうやら成人にも一定数、FPIES患者が存在することが分かってきた。米国の研究では、18歳未満におけるFPIESの推定有症率は0.5%程度だが、18歳以上の成人でも0.22%存在すると報告されている(Nowak-Wegrzyn A, et al. J Allergy Clin Immunol. 2019;144:1128-30.)。
近年、小児の食物アレルギーとして認知度が高まりつつあるFPIES。皮膚や呼吸器症状を伴う即時型アレルギーとは異なり、嘔吐や下痢といった消化器症状が中心で、原因食物の喫食から発症まで1~6時間と時間がかかることから、「見つかりにくい食物アレルギー」の一つとされている(関連記事:卵黄が原因の食物蛋白誘発胃腸炎患者、卵白は食べてもいい?)。
しかし研究が進むにつれ、どうやら成人にも一定数、FPIES患者が存在することが分かってきた。米国の研究では、18歳未満におけるFPIESの推定有症率は0.5%程度だが、18歳以上の成人でも0.22%存在すると報告されている(Nowak-Wegrzyn A, et al. J Allergy Clin Immunol. 2019;144:1128-30.)。
国立成育医療センターの森田英明氏によると、「本邦ではまだ、成人FPIES患者の大規模な疫学調査は行われていないが、魚介類アレルギーがあると申告した成人117人のうち、約2割がFPIESと考えられる特徴を有していたという報告がある(Watanabe S, et al. Allergol Int. 2024;73:275-81.)。成人の魚介類アレルギー患者の中に、FPIESの人が潜在的に存在する可能性が示された」と述べる。
FPIESはIgE抗体を介さない「非IgE依存性食物アレルギー」だ。詳細な発症メカニズムは明らかになっていないが、現時点では、原因食物の蛋白質を消化管で吸収することで発症し、セロトニンが病態形成に関与している可能性が示唆されている。急性期の治療は輸液などの循環血液量の回復が主で、長期的な管理は原因食物の除去指導が基本となる(関連記事:アドレナリン無効の食物アレルギー、どう対処する?)。
なお、一般的には、食物アレルギーと言えば「IgE依存性アレルギー」を指すことが多く、IgE非依存性のFPIESは食物アレルギーの特殊型とされている。日本小児アレルギー学会の「食物アレルギー診療ガイドライン2021」では、食物アレルギーを「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」と定義しており、「近年、明らかになりつつある非IgE依存性の食物アレルギーもその中に記載されている」と森田氏は話す。
なお、一般的には、食物アレルギーと言えば「IgE依存性アレルギー」を指すことが多く、IgE非依存性のFPIESは食物アレルギーの特殊型とされている。日本小児アレルギー学会の「食物アレルギー診療ガイドライン2021」では、食物アレルギーを「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して生体にとって不利益な症状が惹起される現象」と定義しており、「近年、明らかになりつつある非IgE依存性の食物アレルギーもその中に記載されている」と森田氏は話す。
▶ 消化器症状を訴える患者をFPIESと疑うには?
乳幼児や小児のFPIESでは、原因食物として卵や牛乳、小麦、貝など、多くの食物が挙げられている。それに対し、成人のFPIESでは、貝、甲殻類、魚と比較的限られるのが特徴だ(表1)。成人では、20~40歳代の女性で発症することが多く、その症状は腹部の張りや腹痛、嘔吐、下痢といった消化器症状が中心となる。乳幼児や小児ではFPIESの発症後、成長とともに完治することが多いが、成人では一度発症すると完治することはないとされている。

表1 乳幼児・小児と成人におけるFPIESの特徴の比較(取材を基に編集部作成)
では、プライマリ・ケアの現場では、成人のFPIESをどのように疑えばよいのか。森田氏によると、成人のFPIESの原因食物としては、本邦では特にカキの頻度が高いという。カキの喫食による消化器症状では、ノロウイルスなどによる感染性胃腸炎が最も多いと考えられ、「1回の消化器症状のみでFPIESを鑑別することは正直難しい」(同氏)。それでも、「患者から『カキによく“あたる”』『私だけ運悪く“あたる”』といったエピソードを聞いたら、FPIESを想起してほしい」と続ける。現在の本邦の衛生環境を考えると、喫食したカキが毎回ノロウイルスなどに汚染されているとは考えにくい上、食事を共にした人の集団感染がなければ、食中毒の可能性が下がるためだ。
「それまで問題なくカキを食べられていたのにもかかわらず、成人になって突然発症することもFPIESを疑うポイントになる」と森田氏。「一般的に食物アレルギーと言えば、蕁麻疹や呼吸器症状を認めるIgE依存型アレルギーが想起されることが多い。蕁麻疹や呼吸器症状がなくても、喫食後数時間で生じる消化器症状が食物アレルギーによる可能性もあると考えて、症状が苦しそうであれば専門医に紹介してほしい」(同氏)。
とはいえ、成人のFPIESは、乳幼児や小児以上に発見しにくい疾患であるのも事実。海外では、成人のFPIESは診断されるまで平均10年かかり、その間に6~8回、原因食物の喫食に伴うエピソードを経験しているという報告もある(Hua A, et al. J Allergy Clin Immunol Glob. 2024;3:100304)。FPIESはひどい痛みを伴う消化器症状を引き起こすことが多く、診断が遅れるほど患者は理由が分からない苦しみを受けることになる。・・・
「それまで問題なくカキを食べられていたのにもかかわらず、成人になって突然発症することもFPIESを疑うポイントになる」と森田氏。「一般的に食物アレルギーと言えば、蕁麻疹や呼吸器症状を認めるIgE依存型アレルギーが想起されることが多い。蕁麻疹や呼吸器症状がなくても、喫食後数時間で生じる消化器症状が食物アレルギーによる可能性もあると考えて、症状が苦しそうであれば専門医に紹介してほしい」(同氏)。
とはいえ、成人のFPIESは、乳幼児や小児以上に発見しにくい疾患であるのも事実。海外では、成人のFPIESは診断されるまで平均10年かかり、その間に6~8回、原因食物の喫食に伴うエピソードを経験しているという報告もある(Hua A, et al. J Allergy Clin Immunol Glob. 2024;3:100304)。FPIESはひどい痛みを伴う消化器症状を引き起こすことが多く、診断が遅れるほど患者は理由が分からない苦しみを受けることになる。・・・