小児アレルギー科医の視線

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鼻水止めとけいれんとの関係〜アップデート2024〜

2024年11月06日 12時54分13秒 | 予防接種
風邪の時に処方される鼻水止め(第一世代抗ヒスタミン薬)はけいれんを起こしやすくする、
とされています。
そして近年、鼻水止めを処方する小児科医・耳鼻科医が減少してきました。

ではなぜ、政府・厚生労働省は「鼻水止めを乳幼児に使ってはいけない」と警告を出さないのでしょうか?
鼻水止めの代表格であるペリアクチン(シプロヘプタジン)の添付文書を確認してみましょう。
小児に関係ありそうな項目を抜粋してみますと・・・

【禁忌】
2.5 気管支喘息の急性発作時の患者
2.6 新生児・低出生体重児
【要注意】
9. 特定の背景を有する患者に関する注意
9.1 合併症・既往歴等のある患者
9.1.1 気管支喘息(急性発作時を除く)又はその既往歴のある患者抗コリン作用により、喀痰の粘稠化・去痰困難を起こすことがあり、喘息の悪化又は再発を起こすおそれがある。
・・・
9.7 小児等
9.7.1 新生児又は低出生体重児
投与しないこと。新生児・低出生体重児を対象とした有効性及び安全性を指標とした臨床試験は実施していない。新生児へ投与し、無呼吸、チアノーゼ、呼吸困難を起こしたとの報告がある。
9.7.2 乳児又は幼児
年齢及び体重を十分考慮し、用量を調節するなど慎重に投与すること。過量投与により副作用が強くあらわれるおそれがある。抗 ヒスタミン剤の過量投与により、特に乳・幼児において、幻覚、 中枢神経抑制、痙攣、呼吸停止、心停止を起こし、死に至ることがある。

以上がすべてです。
“痙攣”に関する記述は、「乳児又は幼児」という年齢層において、「過量投与」の際に起こすことがある、とあるのみです。
逆に言うと、通常量では乳幼児であっても安全、ということになりますね。

政府が使用を禁止していない、添付文書が変更されていないということは、
巷で「抗ヒスタミン薬は危険だ!」騒いでいても、
安全性を覆すエビデンスがまだないということなのでしょう。

政府が許可されている薬なので、
小児科専門医である私は、鼻水止めを処方しています。

ただし、効果が今ひとつなのです。
垂れてくる鼻水は減らしてくれるけど効果不十分、
青っ洟や、鼻の奥に溜まって鼻づまり状態では無効です。

そのため鼻水・鼻づまりがつらそうなこどもには漢方薬を提案しています。

漢方薬は鼻水の状態によりくすりを使い分けます。
水っぱなに効く漢方薬、
鼻づまりに効く漢方薬、
あおっ洟に効く漢方薬、
・・・すべて異なるのです。

鼻水止めと痙攣に関して、
以下の記事が目に留まりましたので紹介します。

けいれん発作(診断名はてんかん、てんかん重積、けいれん)に及ぼす抗ヒスタミン薬内服のリスクを評価した報告です。
一つ確認しておきますが、一般の方が心配する「熱性けいれん」がこの中に含まれているのかどうか不明です。そして日本の小児科医は「てんかん」と診断されている患者さんに抗ヒスタミン薬を処方することはありません。
上記より、この報告をどう読んでどう評価すべきか、ちょっと迷います。

結論は、以下の通り;
・発作が起きた1〜15日前に処方された抗ヒスタミン薬はけいれんのリスクを1.22倍高くする(統計学的に有意差あり)。
・生後6ヶ月〜24ヶ月児に抗ヒスタミン薬を投与すると痙攣リスクが約1.5倍高くなる(統計学的に有意差あり)。
・生後25ヶ月〜6歳児では約1.1倍(統計学的に有意差なし)。
・生後7歳以上では約1.1倍(統計学的に有意差なし)。

つまり、
小児に鼻水止めを飲ませると、飲んでいない時より痙攣のリスクが約1.2倍になり、
特に生後2歳未満の乳幼児では約1.5倍になる(それ以上の年齢では差はない)。
ということになります。

効かなくて痙攣のリスクを上げる抗ヒスタミン薬を処方するより、
効いて痙攣のリスクを上げない漢方薬の方がいいですね。


▢ 第一世代抗ヒスタミン薬は児のけいれん発作リスクを高める
「JAMA Network Open」より一部抜粋(下線は私が引きました);

 第一世代抗ヒスタミン薬(以下、抗ヒスタミン薬)は児のけいれん発作リスクの上昇と関連し、特に生後6〜24カ月の児ではリスク上昇が顕著であるとする研究結果が、「JAMA Network Open」に8月28日掲載された。
 慶熙医療院(韓国)のJu Hee Kim氏らは、韓国国民健康保険公団データベースのデータを用いて、第一世代抗ヒスタミン薬の処方と児のけいれん発作リスクとの関連を評価した。対象は、2002年1月1日から2005年12月31日の間に出生し、追跡期間中(2019年12月31日まで)にけいれん発作イベント(ICD-10による診断が、てんかん、てんかん重積、またはけいれん)のため救急外来を受診した児1万1,729人。条件付きロジスティック回帰モデルを用いて、危険期間(index date;発作イベントが初めて生じた日の1〜15日前)における抗ヒスタミン薬の処方が発作イベントの発生に与える影響を、対照期間1(index dateの31〜45日前)および対照期間2(index dateの61〜75日前)と比較し、オッズ比として推定した。加えて、index date時点における年齢層(「生後6〜24カ月」「生後25カ月〜6歳」「7歳以上」)、性別、居住地などで層別化した解析も行った。
 対象者のうち3,178人(男児55.9%)が危険期間、対照期間1、対照期間2のいずれかで抗ヒスタミン薬を処方されていた。

発作イベントの発生は、
 生後6〜24カ月:985例、31.0%
 生後25カ月〜6歳:1,445例、45.5%
 7歳以上:748例、23.5%
第一世代抗ヒスタミン薬の処方を受けた児は、
 危険期間:1,476人(46.4%)
 対照期間1(1,239人、39.0%)
 対照期間2(1,278人、40.2%)
と危険期間が対称期間1・2よりも多かった。

 年齢、性別、居住地などの交絡因子を調整すると、
危険期間における抗ヒスタミン薬の処方は発作イベントのリスク増加と有意に関連していた(調整オッズ比〔aOR〕1.22、95%信頼区間〔CI〕1.13〜1.31)。
 次に年齢層別、男女別、居住地などでそれぞれ層別化して抗ヒスタミン薬の処方と発作イベントリスクとの関連を見たところ、年齢層の影響の大きさに違いが見られ(交互作用のP=0.04)、特に生後6〜24カ月の児ではaORが1.49(95%CI 1.31〜1.70)と有意なリスク増加が認められた。これに対し、生後25カ月〜6歳でのaORは1.11(同1.00〜1.24)、7歳以上の児のaORは1.10(同0.94〜1.28)と有意でなかった。男女別など他の因子別の解析では、有意な結果は得られなかった。
 著者らは、「6〜24カ月の児などけいれんリスクが高い者に対する第一世代抗ヒスタミン薬の処方は、慎重に行うべきであろう。今後、抗ヒスタミン薬とけいれん発作との関連を解明するため、さらなる研究が必要だ」と述べている。(HealthDay News 2024年9月4日)

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