小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

生後1ヶ月未満の赤ちゃんの風邪〜重症肝炎を起こすエコーウイルス感染症〜

2025年02月09日 16時23分02秒 | 予防接種
“エコーウイルス”という名前は、小児科医にとって夏風邪であるヘルパンギーナの原因の一つ、くらいの認識です。
しかし近年、新生児に重症肝炎を起こす原因として注目されてきました。
それを扱った記事を紹介します。

重症化するのは新生児(生後1ヶ月までの赤ちゃん)のようです。
生後1ヶ月未満の赤ちゃんが風邪を引く場合、たいていは家族からです。
外出を控え、風邪を引いている兄弟姉妹を近づけないことくらいしかできませんね。

もし、風邪症状がでて、あるいは熱が出てつらそうなら小児科(小児科専門医)を受診してください。
小児科医は生後1ヶ月未満の発熱患者さんを診たとき、
「ただの風邪ですね」
とは言いません。
他の病気の可能性がないかどうか、疑います。
哺乳量が落ちたり、グズリが目立つ場合は病院へ紹介し、
スクリーニング検査を受けてもらいます。

同じ小児科でも“小児科標榜医”(専門は小児科以外だけど小児も診ますよというスタンス)を受診すると、
「風邪かな〜」
と(意味のない)抗生物質を処方されて様子観察、になりがちです。
これは赤ちゃんにとって危険な診療です。


▢ 赤ちゃん3人死亡「エコーウイルス11型」検出 国が調査へ
2025年1月25日:NHK)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
 国立感染症研究所などによりますと、去年8月以降、関東地方で、生まれて1か月以内の赤ちゃんが急性肝不全などを発症して入院し、亡くなるケースが3人報告されたということです。
 医療機関などで調べたところ、3人から「エコーウイルス11型」と呼ばれるウイルスが検出されました。かぜの原因となるウイルスの一種で、新生児が感染するとまれに髄膜炎や心筋炎など重い症状を起こし、最悪の場合亡くなることもあります。
 国内の感染状況は法律で国への報告対象になっていないため詳しくは分かっていませんが、国立感染症研究所によりますと、髄膜炎の検査で見つかったケースなど去年は軽症を含めて90例以上報告されています。
 ただ、過去7年間で死亡例が複数報告されたのは去年だけだということで、国はほかにも重症や死亡のケースがないか、全国的な調査を実施するとしています。
 このウイルスをめぐっては、ヨーロッパを中心に感染した新生児が急性肝不全などを発症して亡くなるケースが3年前から相次いで報告されていました。
 国立感染症研究所感染症疫学センターの神垣太郎サーベイランス総括研究官は「ウイルスの性質が変化し、感染したときの症状が重くなっているかどうか現時点のデータでは分からない。今後の調査で重症化する子どもの割合や原因などが明らかになれば、必要な対策を検討できると思う」と話しています。

▶ 小児科医「せっけん使った手洗い徹底を」
 エコーウイルス11型の家庭での注意点について、神戸市立西神戸医療センター小児科の松原康策部長に聞きました。
 関東地方で急性肝不全などを発症して亡くなる患者が相次いだ去年8月以降、松原部長らのグループはこのウイルスに感染した生後7日から50日までの4人の赤ちゃんを診療したということです。
 4人とも髄膜炎など重い症状を起こして入院しましたが、治療の結果、全員が後遺症なく回復したということです。
 松原部長は「いわゆる夏かぜの原因として以前から知られているウイルスで、感染しても通常は発熱が2、3日続いて治ることが多い。国内の詳しい感染状況が分からないので、このウイルスに注意を払わなければならない状況かどうか現時点ではっきりしたことを言うのは難しい。国内外の報告を見ると生まれて1か月を過ぎた場合重症化するケースは多くはないので過度に警戒する必要はないと思う。一方、重症化のリスクが高いとされる生まれてまもない赤ちゃんや早産の赤ちゃんについてはできるだけ感染を避けるよう対策することが大切だ。患者との接触や便などを通じて感染するが、アルコール消毒だけではだめなので、せっけんを使った手洗いを徹底するよう心がけてほしい」と話していました。

<参考>
概要
ヨーロッパでは 2022 年から新生児のエコーウイルス 11(Echovirus 11、以下 E11)に
よる重症感染症が複数報告され、急性肝不全を伴うことが特徴的で死亡例も複数報告され ている 1)。
日本においても 2024 年夏以降東京などで、E11 による新生児重症肝炎やそれに伴う死 亡例の情報があるため、特に小児科ならびに新生児科診療に関わる医療従事者に対して注 意喚起を行う。
エコーウイルス 11(E11)について
E11 はピコルナウイルス科エンテロウイルス属に属する(+)鎖の一本鎖 RNA をゲノ
ムにもつウイルスである。コクサッキーウイルスなど他のエンテロウイルス属と同様に、 普通感冒、ヘルパンギーナなどの自然軽快する軽症感染症や、時に無菌性髄膜炎、脳炎、 心筋炎などの重症感染症の原因となる。一方で、E11 を含む非ポリオ型エンテロウイルス の特徴として、感染しても多くの場合は無症状である。糞口感染および接触感染、飛沫感 染を起こす。エンベロープを有さないため、消毒用エタノールによる消毒では効果が不十 分である。潜伏期間は通常 3~6 日である。
新生児の重症 E11 感染症について
新生児が E11 に感染すると、敗血症、心筋炎、髄膜炎などの重篤な疾患を発症すること
がある。新生児の重症 E11 感染症の特徴的な臨床像は、黄疸、肝腫大、腹水、および出血 傾向を示す劇症肝炎である 2)。また、髄膜炎や心筋炎の報告もある 2)。国内でも過去に報 告がある 3)。
過去に報告された新生児の E11 感染症では、垂直感染(出生前の経胎盤感染や出産時感 染)、出生後の水平感染、保育所での水平感染 4)や医療従事者による新生児集中治療室での アウトブレイク 5)が報告されている。授乳による感染の可能性も報告されている 2)。
疫学情報
2022 年 7 月から 2023 年にかけてフランスでは肝不全と高い致命率の新生児重症 E11 感
染症が増加していることが 2023 年 6 月に欧州連合/欧州経済領域加盟国に報告されると、
他の加盟国からも同様の報告が相次いだ 2)。重症例に関連する E11 の配列は、2022 年に 出現した新しい変異系統株(以下、新系統 1)にクラスター化していた 1)。同時期(2023 年)にイタリアで同じ新系統1に関連する重症肝炎の 2 症例が報告され 6)、 全ゲノム解析 により、重症で致死的な症例はすべて組換え E11 に関連していることが示された 6)。 2023 年 7 月、欧州疾病予防管理センターは、フランスで初めて検出された新系統1がより重篤 な疾患と関連しているかどうかを評価するため、新生児重症 E11 感染症に関するサーベイ ランスを強化した 2)。スペインでは新系統1による新生児における重症化との関連は認め られていない 7)。
一方、中国湖北省、広東省では 2019 年に、新系統1ではない E11 による新生児の出血
8) 性肝炎症候群の複数例の報告がある 。
今後日本においても E11 感染症流行の動向に注意を払う必要があるが、2024 年 11 月 24 日現在、国立感染症研究所が全国の都道府県市の地方衛生研究所等から報告された病原 体検出情報をまとめた病原微生物検出情報によると、2024 年第 34 週以降に、複数の無菌 性髄膜炎患者から E11 が検出されている 9)。
医療従事者の皆様へ 国内でも、活気不良・哺乳不良を主訴に来院し、凝固障害、血球減少、黄疸・急性肝不
全、腎障害を含む多臓器不全や高フェリチン血症(血球貪食性リンパ組織球症)などの重 篤な症候を呈し、鼻咽頭ぬぐい液を用いた Multiplex PCR にてライノウイルス/エンテロウ イルス、髄液でエンテロウイルスが検出されている重症の新生児症例が経験されている 10)。 有症状者との接触歴が明確でないこともある。新生児の重症肝不全や心筋炎、無菌性髄膜 炎などの重症患者を診療した場合、可及的に急性期の血漿(血清)、咽頭ぬぐい液、尿、便、 髄液、全血等の検体を小分けで凍結保存しておくことで病原体検索に繋がる可能性がある。 検査が可能な機関にすぐに臨床検体を搬送できる場合は、凍結せずに冷蔵で搬送する方が 望ましい。原因不明の肝機能障害(AST 又は ALT が 500 U/L を超える)を認める児につ いては、日本小児科学会を窓口とした病原体の検索が可能な場合がある。詳細は、日本小 児科学会ホームページ(各種活動>予防接種・感染症情報> 原因不明の小児の急性肝炎につ いて)をご参照いただきたい。また、エンテロウイルスであった場合、アルコール消毒で は効果が不十分であることに留意し、特におむつ交換や沐浴に際し石鹸と流水による手指 衛生、環境整備を行う必要がある。

<参考文献>
  1. 1)  Grapin M, Mirand A, Pinquier D,et.al. Severe and fatal neonatal infections linked to a new
    variant of echovirus 11, France, July 2022 to April 2023. Euro Surveill 2023; 28 :2300253.
  2. 2)  Enropean Center for Disease Prevention and Control (ECDC). "Epidemiological update: Echovirus 11 infections in neonates". https://www.ecdc.europa.eu/en/news-
    events/epidemiological-update-echovirus-11-infections-neonates(参照 2024-11-21)
  3. 3)  Hirade T, Abe Y, Ito S, et.al. Congenital Echovirus 11 Infection in a Neonate. Pediatr
    Infect Dis J 2023; 42: 1002-1006.
  4. 4)  Bina Rai S, Wan Mansor H, Vasantha T, et.al. An outbreak of echovirus 11 amongst
    neonates in a confinement home in Penang, Malaysia. Med J Malaysia 2007; 62: 223-226.
  5. 5)  Ho S Y, Chiu C H, Huang Y C, et.al. Investigation and successful control of an echovirus
    11 outbreak in neonatal intensive care units. Pediatr Neonatol 2020; 61: 180-187.
  6. 6)  Piralla A, Borghesi A, Di Comite A, et.al. Fulminant echovirus 11 hepatitis in male non-
    identical twins in northern Italy, April 2023. Euro Surveill 2023; 28 :2300289.
  7. 7)  Fernandez-Garcia M D, Garcia-Ibanez N, Camacho J, et.al. Enhanced echovirus 11 genomic surveillance in neonatal infections in Spain following a European alert reveals new recombinant forms linked to severe cases, 2019 to 2023. Euro Surveill 2024;
    29 :2400221.
  8. 8)  Wang P, Xu Y, Liu M, et.al. Risk factors and early markers for echovirus type 11 associated
    haemorrhage-hepatitis syndrome in neonates, a retrospective cohort study. Front Pediatr
    2023; 11: 1063558.
  9. 9)  病原微生物検出情報(IASR). "週別無菌性髄膜炎患者からの主なウイルス分離・検出
報 告 数 、2020~2024 年". https://kansen-
levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data16j.pdf(参照 2024-11-21)
10) 松井俊大、幾瀬樹、庄司健介、他:エンテロウイルスによる新生児重症感染症. 病原微
生 物 検 出 情 報 (IASR). https://www.niid.go.jp/niid/ja/entero/entero-iasrs/13018- 539p01.html (参照 2024-12-06)

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