小児アレルギー科医の視線

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麻疹&ワクチン関連記事拾い読み(2017)

2017年03月26日 09時47分29秒 | 予防接種
 日本は2015年3月にWHOから「麻疹排除国」と認定されました。
 しかしその後も海外からの持ち込み例による散発〜小流行が繰り返されています。
 その現状と対策を探るべく資料を集めてみました。

 気づいたこと。

 麻しんワクチン接種者、それも2回接種済みでも麻疹にかかっている事実。
 そして接種歴のある患者さんは典型的な症状が揃わない「修飾麻疹」(例えば微熱だけで発疹なし、しかし血清学的に感染が証明される、等)が多く診断が困難なこと。

 今後の麻しん騒ぎは、外国からの持ち込みが中心になること。
 それが広がって流行させないためには、ワクチン2回接種率および免疫抗体保有率を集団免疫率以上に保つ努力をひたすら続ける必要があること。

 職場における麻しん対策として、抗体検査・ワクチン接種が考えられますが、任意接種となるので強制はできず、法的に考えると、啓蒙して費用補助にとどまらざるを得ないこと。

 等々。

■ <特集>麻疹・風疹/先天性風疹症候群 2016年3月現在
病原微生物検出情報 IASR Vol.37 No.4, 2016年4月発行
・日本の麻疹及び麻疹予防接種の経緯:
(1976年)予防接種法に基づく予防接種の対象
(1978年)定期接種化(対象:幼児)
(2006年)MRワクチン導入、2回接種開始(第1期、第2期)
ー2007年に10-20代を中心とした年齢層で麻疹が大流行ー
(2008-2012年)中高生(中学1年生/高校3年生)への接種(第3期、第4期)
(2012年)指針改定:麻疹患者と診断後直ちに届け出。
(2015年)改正感染症法により、診断後直ちに届け出が必要な感染症として規定
(2015年3月)麻疹排除状態認定。


<参考>
・「麻疹発生時対応ガイドライン」(国立感染症研究所2013年3月)
・「麻疹に関する特定感染症予防指針」(厚生労働省、2016年改定版)


■ <特集>麻疹 2016年
病原微生物検出情報 IASR Vol.37 No.3, 2017年3月発行
・2015年の麻疹による死亡者数は推定124200人で途上国の小児が中心。
・日本では2009年以降10代患者が減少、ついで1-4歳の割合が減少し、相対的に成人の割合が増加し、2015年以降は報告数の7割以上が成人。それとともにワクチン接種既往のある人の典型的な経過をとらない「修飾麻疹」の比率も上昇。









・2011年度以降、2歳以上の全ての年齢群において抗体保有率(PA抗体価≧1:16)は95%を維持している。2016年には2400万人が海外から訪れ、1600万人が海外へ渡航しており、このような状況では海外からの麻疹ウイルスの輸入は不可避である。日本が今後も麻疹排除状態を維持するためには、麻疹ウイルスが輸入されても流行を拡大させない社会環境を維持していく必要がある。そのためには、

1)2回の定期接種率を95%以上に維持し、麻疹に対する抗体保有率を高く維持する。
2)サーベイランスを強化し、患者の早期発見、適切な感染拡大予防対策を講じる。
3)医療従事者、学校・保育関係者、空港・港湾関係者、海外渡航予定者、不特定多数のものとの接触機会の多い職場で働く人たちなどへの必要に応じたワクチン接種の奨励。

などが求められる。



関西国際空港内事業所での麻疹集団感染事例について
・2016年8月に関空Aターミナルの出発ロビー業務に従事していた20代の従業員が麻疹を発症した。診断までの接触者は約200人、関空事業所内で計33人が麻疹と診断され、初発者の発症日から24日後の発症者を最後に終息した。




 上の表での病型定義は、

【麻疹】38℃以上の発熱、全身性の発疹、一つ以上のカタル症状(咳、鼻汁、結膜炎)の3つすべてを満たすもの。

【修飾麻疹】
①前述3症状のうち1つか2つを満たすもの。
または、
②37℃台の発熱または体熱感、限局性の発疹、一つ以上のカタル症状のうち1つ以上を満たすもの。
とした。

修飾麻疹館派の症状は3症状を全て呈する症例は19%と少なく、麻疹を疑うのが困難な軽微な者が多くを占めた。



・検査:
(定量PCR)陽性率は、咽頭ぬぐい液83.3%、血清20.8%、尿4.2%と咽頭ぬぐい液が最もウイルス検出に適した検体と考えられた。
(血清IgM/IgG抗体)有症期のIgM抗体陽性率は20%、回復期で6.7%、IgG抗体陽性率は有症期86.7%、回復期に100%。
 80%の事例でIgM抗体価が有症期に陰性となった一方で、患者の60%は128以上の高いIgG抗体価が認められた。その理由の一つとして、修飾麻疹患者においては、既に報告されているとおりIgMの上昇はあまり見られず、発症直後からIgG抗体高値が見られたものと推察された。
 修飾麻疹事例では、ウイルス・ゲノム量が比較的少なく、IgM抗体上昇が明瞭に見られない場合も多いため、今後の診断には麻疹IgMだけでなく、IgG抗体価の検出と核酸検査の結果を総合的に判断していく必要性がある。

<参考>
・「関西空港内での麻しん(はしか)の集団感染事例について」(大阪府HP)

職域における麻しん対策の課題とあり方についてー産業医の立場から
(イオン株式会社)
 産業医のジレンマの数々。

1)安全配慮義務の拡大
 「労働安全衛生法」に基づいて労働者に対して実施されている一般定期健康診断は「適正配置・就業措置」を目的として実施されており、健康診断の受診のみならず、その結果に基づく事後措置までが事業者(企業)に求められている。
 一般定期健康診断の項目は、法令(労働安全衛生規則第44条)で規定されており、法令では規定されていない項目(法定外項目)については労働者の個人情報という位置づけとなることから、事業者が法定外項目を取得するに際しては、利用目的の通知および労働者からの同意が必要となる。
 法定外項目であっても、事業者が健康情報を取得する以上、その内容に応じた安全配慮義務が生じる。
(例)抗体検査などで麻しんの免疫が得られていないと判明していた労働者が麻しん感染のリスクの高い業務に新たに従事することにより、麻しんに感染して重篤化したような場合、麻しん感染のリスクの低い業務に配置しなかったという対応不備について、事情者の民事上の責任が問われることにつながる(訴訟リスクの発生)。

2)適正配置実施上の課題
 予防接種を希望しない労働者に対してどこまで指示できるか、免疫獲得までの待機期間中の勤怠・給与の取り扱いをどうするか、入社や配置換えのために受けたい予防接種により重篤な副作用が発生した場合の事業者の責任はどうなるか、当初の予定業務にどうしても就かせることができない場合に採用取り消しで対応することは容認されるか(採用取り消しはトラブルとなるのが必至)等の検討課題が生じることになる。

3)予防接種実施にかかる課題
 健康診断のように比較的低侵襲の内容であれば、事業者のコスト負担を検討すればすむ単純な話かもしれないが、予防接種は非常に希であるにせよ、重篤な副作用が生じる場合がある。予防接種健康被害救済制度があるとはいえ逸失利益分まですべて補償されるとは限らず、また事業者の指示で受けた予防接種に起因する事象となると、その後の当該労働者の生活全般について、事業者が責任を負わなければならなくなる。

4)よりよい取り組みに向けて
 以上の事情より、抗体検査や予防接種の機会の提供は、例えば健康保険具見合いが実施する福利厚生事業(人間ドック)の一環として実施する、あるいは前述の経済産業省の「健康経営銘柄」評価項目で示されているように「費用補助」にとどめるのが現実的な対応となる。
 麻しん対策は職域での取り組みはもちろん重要であるが、事業者のみに過度の責任を負わせないような工夫や配慮も求められる。
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