という意見の記事が目に留まりました。
一部「?」という箇所もありますが、
不毛な感情論ではなく、科学的な検証に基づく意見なので、
あえて取りあげ、紹介します。
そもそも「集団検診は必要なのか?」という視点から検証し、
「日本の学校健診にはエビデンスがない!」と断言してます。
さて、日本でも乳児検診は順次集団検診から個別検診へ移行してきました。
これは流れ作業ではなく「ひとりひとりしっかり診察すべき」という視点です。
一方の学校健診は集団検診のまま。
一人に1分もかけない診察、その中で様々な疾患の可能性をチェックし、
もし見逃せば訴訟に発展して医師免許さえ危なくなる…
これは担当する医師から見ても相当“ブラック”な仕事です。
事実、あるアンケートでは「医師の82%が学校健診をやりたくない」との回答。
ではなぜ、学校健診が継続しているのか?
いろいろな要因が考えられますが、
一つの大きな要因は「コスト」と「手間」でしょうか。
個別検診にすると、膨大な時間とお金が必要になります。
自治体はそれを嫌がることでしょう。
現代の子どもは忙しい。親も忙しい。
その中で、時間を作って健診目的でクリニックを受診する…
生徒家族も嫌がることでしょう。
記事の中では、外国の事情と比較しています。
諸外国では疾患発見のメリットとコストを天秤にかけ、
「学校健診は意味がない」
というエビデンスに基づいて廃止されてきた経緯を紹介しています。
例えば、アメリカの予防医学作業部会(USPSTF)で小児に推奨されている検査項目は以下の通り;
A(検査推奨):HIV・梅毒、血液型不適合とB型肝炎ウイルス(対象者が妊娠している場合に限定)
B(検査推奨):不安、うつ病、クラミジア、淋菌、B型肝炎ウイルス、親密なパートナーによる暴力、弱視(3歳から5歳のうちに1回以上)、肥満(妊娠している対象者についての推奨、18歳以上についての推奨を省きます)
A(検査推奨):HIV・梅毒、血液型不適合とB型肝炎ウイルス(対象者が妊娠している場合に限定)
B(検査推奨):不安、うつ病、クラミジア、淋菌、B型肝炎ウイルス、親密なパートナーによる暴力、弱視(3歳から5歳のうちに1回以上)、肥満(妊娠している対象者についての推奨、18歳以上についての推奨を省きます)
・・・あれ?側弯症がないですね。共通した項目がほとんどありません。
逆に、日本では行っていない血液検査が入っています。さらに、不安・うつ病のチェックや性感染症など、健康を直接悪化させる切羽詰まった項目ばかり。
純粋に日本でも
「学校健診、やる価値があるのか?」
を検討すべきタイミングであると私も感じました。
診察の際の着衣・脱衣問題などは問題の本質ではありません。
私が検索した範囲では、外国では、
「病気があるかどうか判断するのだから、肌を見せて当たり前」
という文化があるようです。
日本では成人して会社の検診を受けるときも、
女性が下着を取る・取らないでもめていますね。
また、子宮頚がん検診の受診率も低いままです。
これは「恥じらいの文化」という日本特有のものかもしれません。
しかし、世界標準を目指すなら、
「デリケートゾーンは大切にする」
ことと並行して、
「病気の有無をチェックするときは大切なところもしっかり診てもらう」
と、子どもの頃から教育すべきでしょう。
■ 日本の医師は「利権」のために児童を虐待している…群馬の「陰毛視診」問題で若手医師が抱いた違和感
(2024/6/24:President online)より抜粋(下線は私が引きました);
群馬県みなかみ町の小学校で、70代の男性医師が、本人や保護者の合意を得ずに、児童の下半身を視診していたことが、問題になっている。医師の大脇幸志郎さんは「男性医師は『視診しなければ診断を誤る』と話しているようだが、理解できない。そもそも学校健診の大半はエビデンスがない」という――。
・・・
▶ アメリカの基準なら「日本の学校健診は過剰」
健康診断に意味があったかどうか、健康診断をするグループとしないグループを追跡した試験がたくさん行われています。
そうした試験結果をまとめる専門家団体の米国予防医学作業部会(USPSTF)が、どんな診察なら適切かをまとめています。
結論から言いますと、USPSTFを基準にすると、日本で行われている学校健診は大幅に過剰です。
▶ 検査が推奨されているのは「HIV・梅毒の検査」など
例えば、前述の文部科学省通知では「特に留意が必要」なものとして「脊柱の疾病」「胸郭の疾病」「皮膚疾患」「心臓の疾病」をあげています。
ただ、USPSTFはこれらの検査を支持していません。
USPSTFが「小児(Pediatric)」または「思春期(Adolescent)」に対して検討している検査は55件。
そのうち一斉検査に対して最高ランクの「A」がついているもの(つまり、検査するよう推奨しているもの)は、HIV・梅毒の検査と、対象者が妊娠している場合に限って血液型不適合とB型肝炎ウイルスの検査だけです。
次の「B」ランクも検査推奨ですが、これにあたるのは「不安」、「うつ病」、「クラミジア」、「淋菌」、「B型肝炎ウイルス」、「親密なパートナーによる暴力」、「弱視(3歳から5歳のうちに1回以上)」、「肥満」です(妊娠している対象者についての推奨、18歳以上についての推奨を省きます)。
▶ 日本の学校健診にはエビデンスがない
日本では、「学校保健安全法施行規則」において学校健診の内容が決められています。
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一 身長及び体重
二 栄養状態
三 脊柱及び胸郭の疾病及び異常の有無並びに四肢の状態
四 視力及び聴力
五 眼の疾病及び異常の有無
六 耳鼻咽頭疾患及び皮膚疾患の有無
七 歯及び口腔の疾病及び異常の有無
八 結核の有無
九 心臓の疾病及び異常の有無
十 尿
十一 その他の疾病及び異常の有無
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一見して、USPSTFの推奨とほとんど一致していないことがわかると思います。
「脊柱及び胸郭の疾病」に含まれる側弯症はUSPSTFでは「I」ランク、つまり検査が有効であるというエビデンスがないと判定されています。
もちろんなんでもアメリカに合わせるのがいいわけではありません。
ただ、USPSTFは詳細なデータを公表していますが、日本の学校保健安全法施行規則にはなんのエビデンスも添えられていません。
▶ 古い時代の健診がズルズル続いているだけ
ちなみに、前述の文科省通知で参照している「児童生徒等の健康診断マニュアル」には引用文献がひとつも挙げられていません。
なぜ日本の学校健診はこんな残念なことになっているのでしょう。
その理由は、リストに「結核」があることから察せられます。
このリストの原型ができたのは1958年。
要するに、データに基づいて健診の「利益」と「害」をちゃんと評価するという思想がまだなかったころに学校健診のやりかたを細かく決めたまま、検証されることもなくズルズル続いているのです。
▶ 世界では健診の見直しが進んでいる
一方、世界的には健診のあり方を見直す動きが進んでいます。1960年代以降、世界保健機関(WHO)やアメリカ、カナダの団体が健診の検証を呼びかけたことが、USPSTFなどの事業につながりました。その運動の中にいたデイヴィッド・サケットという人がのちに「エビデンスに基づく医学の父」と呼ばれるようになります。
一方、日本の学校健診はエビデンスに基づいていません。「診察はやればやるほどよい」という安直な考えがまかり通り、冒頭に紹介したようなトラブルを引き起こしています。
・・・
また、無駄な診察のために大量の公的資金と貴重な医療従事者の労働力が費やされていることも問題です。
私はまず学校健診を完全に廃止すべきだと思います。効果不明で逆効果の疑いさえある健診によって、リソースが無駄遣いされるだけでなく、子供の心身を危険にさらしているからです。
そのうえで、健診の効果を検証するために、それぞれの検査項目が本当に必要なのかどうか、検査するグループとしないグループを作って比較する必要があります。この試験を実行するためには、前提として一斉健診が廃止されていなければなりません。
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大脇 幸志郎(おおわき・こうしろう) 医師
1983年、大阪府に生まれる。東京大学医学部卒業。出版社勤務、医療情報サイトのニュース編集長を経て医師となる。首都圏のクリニックで高齢者の訪問診療業務に携わっている。著書には『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』、訳書にはペトルシュクラバーネク著『健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭』(以上、生活の医療社)、ヴィナイヤク・プラサード著『悪いがん治療 誤った政策とエビデンスがどのようにがん患者を痛めつけるか』(晶文社)がある。
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