小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

偏食外来(見習い)

2025年01月05日 15時01分07秒 | 予防接種
神奈川県立子ども医療センターでは偏食外来(担当:大山牧子Dr.)を開設しています。
どんな診療をしているのか、大いに興味があります。
大山先生のレクチャーをWEB上で見つけ、視聴してみました。

初診で45分、再診で30分を書け、じっくり診療しているそうです。
これは病院だからできることで、開業小児科の当院ではとてもそんなに時間をかけられません。
また、多職種でチーム医療をしていることも特徴で、これも開業医では無理です。

そして相談内容は“好き嫌い”レベルではなく、
より広い“食べない・食べてくれない”という食事拒否レベルであることがわかりました。
世界的には「摂食障害」と定義されており、
好き嫌い・偏食のイメージより、病的状態です。

開業医でどこまでできるか、模索中です。
診療のエッセンスをいただくべく、WEB配信セミナーを視聴しました。
メモを備忘録として残しておきます。

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 1.食に関する神話

Q.  飲んだり食べたりはヒトの本能として備わっているものですよね?
 → 生まれた赤ちゃんは本能的に飲食できるわけではなく、学んで獲得する技能である。

Q.  離乳食はスプーン使用が原則?
 → 手づかみ食べが自然であり、食べ物に手を伸ばして、つかんで、自分の口に入れるという食事の基本がそこにある。

Q.  手づかみ食べは危険なのでは?
 → 安全に与えるポイントがある;
✓ 赤ちゃんがのけぞっていないこと(泣いていると仰向け反り姿勢になりNG)
✓ 赤ちゃんが自分から食べ物を口に入れること
✓ 大人が側で見守っていること

Q.  食事は1日3回が基本ですよね?
 → 朝起きてから寝るまでの時間を2.5時間で割った数が1日の食事回数。
・・・16か月〜3歳までは、早め早めに与えると、食事と食事の間隔を2.5時間から3時間あけるより食べる量が減ります。

Q.  食事はしつけの場だから、よくないことは叱らないといけない?
 → 4歳までの子どもの頭の中には「食卓では口から出したり落としてこぼしたりしてはいけない」という考えはありません。
・「ダメ!」と言うと、子どもは注目されたと思ってもっとやる。
・して欲しくない行動には反応しないのが原則。

2.小児摂食障害とは
(定義)
年齢にそぐわない経口摂取障害で、
医学的、栄養的、摂食技能の機能障害を合併する。
精神社会機能障害を持つ場合も持たない場合もある。
小児摂食障害の結果、WHOの身体機能構造障害、活動障害、生活状況における問題をきたす。

3.子どもの偏食は介入する必要があるのか

▶ 正常範囲の摂食状況
・好き嫌い(ピッキーイーター)
・食欲低下、興味がない
・食べるのが遅い(30分以上かかる)
・食べ物を口に入れたまま(フードポケッティング)
・日々の摂取量のうち30%程度までの幅は成長に影響しない。

▶ 小児摂食障害の頻度(アメリカ)
・小児全体の2-29%
・医学的な課題のある小児(※)の2-40%
※ 早産児、心肺疾患、先天異常、遺伝疾患、食物アレルギー、慢性疾患、神経発達症
・重度の認知障害のある児の80%

▶ 医学的介入を要する小児摂食障害
・身体構造機能障害をきたした場合
 ✓ 治療可能な疾患の治療:扁桃肥大、慢性便秘
 ✓ 栄養的課題を持つ場合:成長障害、微量元素不足
 ✓ 発達年齢相当の口腔運動技能を獲得していない場合
・活動障害、生活状況における問題をきたしている
 ✓ 集団・集団生活に入れない
 ✓ 毎日の食卓のトラブルで養育者の育児不安、負担感が高い場合
・これまで言われてきた小児集団の1-2%よりはるかに多い。

▶ 専門家へ相談の要否をスクリーニングするチェックリスト
(乳幼児摂食障害スクリーニング:0-4歳)
① お子さんはあなたにお腹が空いたことを知らせますか(※1)? No・YES
② お子さんはあなたから見て十分量を飲んだり食べたりしますか? No・YES
③ お子さんに飲んだり食べたりさせるのに(食べるのに)どのくらい時間がかかりますか(※2)?
  (5分以内あるいは30分以上) (5〜30分)
④ お子さんに飲んだり食べたりさせるために、何か特別なこと(おもちゃ、テレビ、ビデオ、YouTubeなど)をしていますか? YES・No
⑤ お子さんはあなたにお腹いっぱいだと知らせますか? No・YES
⑥ 上記の質問に答えて、あなたはお子さんの食事について心配がありますか? YES・No

※1)母乳、人工乳、牛乳の場合は飲んで1時間すれば食事にできます。食事時間を決めて与えるようにすると2週間で空腹感のある生活になると言われています。食事時間を決めて、歌を歌いながら、手洗い、行進などしながら、椅子に座るようにしてみましょう。朝早起きすると、時間のデザインをしやすいです。
※2 )一食にかける時間が45分を超えると、食べることに費やすエネルギーの方が、食事エネルギーより増えてしまう。子どもの食事時間を調べた研究によると、1回の平均食事時間は20分、ゆっくり食べる子どもでも25分。食事時間は15〜30分(長くても40分まで)にしましょう。

 → 赤字の答えが2コ以上あれば、専門家受診を推奨

4.小児科医に対応できる範囲

・医学的要因:早産、心肺疾患、遺伝/染色体異常、頭蓋顔面奇形、神経発達症、消化器疾患・アレルギー(小児科医)
・神経発達症:自閉スペクトラム症、全般性発達遅滞、脳性麻痺/運動障害(小児科医、児童精神科医)
・消化器疾患:胃食道逆流、慢性便秘、好酸球性食道炎(小児科医、小児外科医)
自律神経調節不全(小児科医、児童精神科医)
 ✓ 睡眠障害
 ✓ 乳児期早期:睡眠覚醒レベルの異常から哺乳に苦労した既往。
 ✓ 検査では正常なのに吐きやすい。緊張すると吐く。
 ✓ 空腹という体のサインに鈍感/過敏(痛みとして感じる児も)
 ✓ 遊びだしたら夢中で食べることを忘れる。
 ✓ 食事は退屈で常に刺激を求める。
・栄養評価
 ✓ 成長曲線が標準カーブに沿っているか
 ✓ 沿っていなければ血液検査を:Hb, MCV, ALP, フェリチン、総鉄結合能、亜鉛、TTR、RBP、ビタミンB1、ビタミンC、25-HビタミンD
・栄養指導(小児科医、栄養士)
 ✓ 成長曲線に沿っていても、20品目以下なら微量元素欠乏のことがある
・摂食機能因子の評価・指導(小児科医、保育士、保健師、言語聴覚士、歯科医)
 ✓ 食べる機能の完成は2歳、2歳まで待って介入していると手遅れになる。

▶  “食べる機能”発達過程のつまづきと具体的なアドバイス
・哺乳・摂食障害が起こりやすい時期
・・・つまづきの月齢を知ると、今、目の前の子どもは何ヶ月相当の食べる機能を持っているか推測可能
① 反射飲みから随意飲みになる頃
 → 与えられるがままにではなく、空腹と満腹の感覚が出てきていわゆる飲みムラが出てくる。
② 乳汁からペースト状の固形食の時期
 → 食事摂取方法の大きな転換であり、口腔機能の適応を要する時期
③ なめらかなペースト状から粒や塊への移行期
 → 舌の前後運動での飲み込み(ゴックン)から、舌の側方運動(モグモグ)、舌の上下運動(カミカミ)も必要になる。

▶ スムーズな離乳食の進め方神奈川県小児保健協会HPより)
・・・いつから?なにを?どのように?

(いつから?)
・・・暦年齢ではなく、子どもの発達段階に合わせて
口を閉じるようになったら(口を開くようになったらではありません!)スプーンで与え始める
② 舌の動きに注目:前後 → 上下 → 側方 → グルグル回し、と上手になる。
③ 「前歯でひとくち大にかみ切る」から「奥歯(の出る場所)でかめる(粉砕)」に変わっている。
④ 以上を行いながら、同時におもちゃの持ち替えが始まる頃(6-8か月)から、固くてかめないモノで手づかみ食べの練習を始めましょう。
※ すべての段階で、食べた量ではなく、子どもの表情に注目!

(なにを?)
・・・ペースト食+手づかみ食べの食品
★ 手づかみ食べに関してはこちらをご覧ください。

(どのように?)
・・・スプーンで与える+手づかみ食べ
スプーンでの与え方のポイント;
① 乳児用スプーンを使う(ボールが浅い、持ち手が長い)
② 養育者はスプーンに少量の食事をのせ、水平に持って口の真ん中から入れる。
③ くちびる子を得てすぐの所、または舌の先端で止める。舌の前方1/3より奥に入れない。
④ 子どもがくちびるを閉じたら水平に引き抜く。

・心理的因子:精神社会的機能不全(小児科医、保育士、保健師、臨床心理士、児童精神科医)
1.食べさせられると、積極的・消極的に避ける
2.養育者が、子どもの栄養・ニーズに合ったケアをしない
3.食事に関する社会機能から隔離されている
4.食事の時、養育者と子どもの関係性がない
  
1.食べさせられると、積極的・消極的に避ける
・一番効果があるのは「強制をやめる」こと
❌️ スプーンは必要?
 ✓ スプーンで食べさせると、顔を背ける、手で払いのけるなど嫌がる場合は、思い切ってスプーンや箸で与えることを一切やめましょう。
❌️ NGな言葉や態度
 ✓ 一口だけでも食べよう!
 ✓ おいしいよ〜
 ✓ せっかく作ったのに〜
 ✓ 何で食べないの?
 ✓ お腹空いてるはずだよね?
 ✓ 食べるかどうかをみんなで見ている
❌️ 食べ物の種類・量
 ✓ 食べないものを必ず置く
 ✓ 食べるものでも食べきれないくらいの量を置く

・食卓での親子の役割を決めることがポイント
・・・メニューは子どもの希望を鵜呑みにせず、親が決めることが大切。
✓ 親が決めること:いつ?どこで?なにを食べる?
✓ 子どもが決めること:食べるか食べないか、どうやって食べるか?

2.養育者が、子どもの栄養・ニーズに合ったケアをしない
3.食事に関する社会機能から隔離されている
 → 年齢に見合った、食事の時間・空間の調整が相当する

★ 食事環境の調整とアドバイス
・食事はすべて(3食も軽食も)、場所を決めて食べるようにしましょう。
・食事する環境に、気になるおもちゃ、テレビ、ビデオなどが目につかないようにしましょう。
・食事中は、他人が口の周りや手を拭かない。自分で拭きたがる場合は濡らしたタオルなどを置いて、いつでも自分で拭けるようにしましょう。
・食卓から下りてから、口を拭き、手を洗いましょう。
・キレイに食べさせようと、口周りや手を拭くのは感覚過敏の元になるかもしれません。
・食べ方や食べた量を話題にしないで、食べ物を話題にしましょう。兄姉などの食べっぷりをほめるのもよいでしょう。また、これを食べたら好きなアレを食べてもよいなどと、ご褒美にしないことも大切です。
・食器はシンプルに(キャラクター付きは❌️)、食べ物が目立つようにしましょう。自分の食べ物の領域をはっきりさせると落ちついて食べるお子さんもいます。シンプルな滑らないシリコンのランチョンマットをおくのもよいでしょう。
・スプーン、お箸を上手に使うことに集中しすぎず、楽しく食べることを優先しましょう。“手づかみ食べ”もOKです。
★ テーブル・椅子の調整
・食卓の高さは、子どものおへそと乳頭の間になるように。前腕が食卓につくくらいが子どもには食べやすいです。
・歩けるようになったら、椅子と食卓の調整を。お子さんの足首、膝、股関節の部分が90度になるように。足の裏が床に全部ついていることが大事。
・椅子が体に合わない場合、タオルやクッション、牛乳パックや雑誌を台にしたりして調整を。
★ 姿勢を安定させることが食事の基本
・姿勢は呼吸の次に大事なことです。
・“倒れないようにする”という指示から運動脳を解放し、食べる操作に専念できる。
・姿勢が安定すると呼吸を助ける。
・座位姿勢を安全にする。
・手と口の協調を安定させる。
・噛むための関節の可動範囲を拡げる。

▶ 生活リズム調整(食事環境調整の一環として)
・空腹を感じるような生活を。
 ✓ 生活リズム、食事を決まった時間に出す。
 ✓ 便秘対策
 ✓ 眠りの儀式:眠るまでの一連の行動を決める。
・食べ物を食べる場から食卓の皆が食事時間を楽しむ場へ。
 → 自律神経を整える役割(遊び・興奮の交感神経優位から、リラックスの副交感神経優位へ)

▶ 専門家によるチームプレイで対応
・摂食技能のエキスパート:言語聴覚士または作業療法士
・小児消化器専門医
・小児管理栄養士
・発達小児科医
・臨床心理士・ソーシャル・ワーカー


<参考>
食べない子ども・偏食への対応(2021年、大山牧子Dr.)

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