講談社、2010年発行。
子どもが風邪を引くと小児科へ行って薬をもらって一安心・・・これが平均的な日本人の親の感覚です。
しかし、著者はこの感覚に疑問を呈します。
「その薬、ホントに必要?」
著者は町医者40年選手のベテラン小児科医で、長年の経験に基づいた珠玉のコメント群が詰め込まれた本です。ちょっとクセのある毛利子来氏(予防接種反対派)と共に行動している方なので話半分で読もうかと思いきや、至極まともな内容でした。西洋医学で限界を感じる分野(過敏性腸症候群など)には漢方を取り入れているのも自分のスタンスと似ていると感じました。
ただ、あとがきにも書かれていますが「ぼくは自分が実際に経験したことについてしか書けない性格」という点が本書の魅力である一方で、短所にもなってます。一人の小児科医の経験することは自ずと限定され、それにこだわると「科学的」ではなくなってしまうのです。客観的データに基づかない判断が散見され、そこは残念でした。
(例)タミフルを含めた抗インフルエンザ薬、アトピー性皮膚炎におけるステロイドの使い方、等
気になった箇所をメモメモ(同じ小児科医である私が得た情報と少々異なる箇所が散見されましたので、そこには灰色でボヤキが入ってます);
□ 薬を乱用していませんか?
薬の乱用に拍車をかけているものに乳幼児医療の無料化ということがあるのも残念なことです。いつでも気軽に医療が受けられるという日本の医療のアクセスの良さが逆に医療の受けすぎという弊害を作り出してしまったわけです。日本では病院へ行くことと薬をもらうことがほぼイコールで繋がってしまうこともあって、不必要な受診が不必要な薬を使用することに結びつくのです。
「お薬はいりませんよ」とぼくが言うと、
「えー、おみやげなしなの」という顔をされることがよくあるのです。
不必要な薬を使えば弊害があります。乳幼児期に抗生物質をたくさん飲むと、後年ぜんそくなどアレルギー性の病気になる率が少し高くなるという報告もあります。
□ 「こなぐすり」の種類について
粉薬は正式には散剤といいます。粉末の粒子が細かいものを細粒といい、細粒よりも粒子が粗く匂いや苦味をおさえてゆっくり溶けるようにしたものは顆粒とかドライシロップとか呼ばれます。ドライシロップは水に溶けてシロップ状になります。
□ 子どもの飲み薬の種類と使い分け
3歳以下の子どもの場合、錠剤は咽に詰まらせてしまう危険もあるので使わないことになっています。3歳以上の子どもでも錠剤を上手く飲み込めないことが多いので、小学生になるくらいまではシロップや粉薬を使う方がよいと思います。
□ 苦い抗生物質の飲ませ方
薬の種類によってはジュースなどと混ぜるとかえって苦味が出てしまうこともあることを知っておいてください。
特にある種の抗生物質では要注意です。クラリス(=クラリシッド)、ジスロマック、エリスロマイシンなどの抗生物質は、酸性飲料と呼ばれるオレンジなどの柑橘系ジュース、スポーツドリンク、乳酸菌飲料、ヨーグルトなどと混ぜると苦味が生じるので子どもは嫌がります。
ぼくが実際に試したところでは、ここに挙げた抗生物質はウーロン茶や麦茶とまぜると味が無くなって飲みやすくなりました。
□ 熱性けいれんの頻度
子ども100人のうち3~4人はひきつけを一度は経験すると云われますから決して珍しいものではありません。初めてひきつけを起こす年齢としては1~2歳が多いです。
一度ひきつけた子どもがその後また高熱になったときにひきつける確率はかなり高く40%ですが、90%の子どもは一生のうちひきつける回数が2回以下です。そして6歳くらいになるとひきつけなくなるのがふつうです。5回以上ひきつける子どもも数%いますが、回数が多くても後遺症が残ったりはしません。
□ ひきつけ予防薬(ダイアップ坐薬)の考え方
ひきつけを3回起こした子どもはさらに何回か起こす可能性があるので予防措置を行います。体温が37.5℃以上になったらダイアップ坐薬を肛門から挿入します。そして8時間後に38℃以上の熱があればもう一度坐薬を挿入します。これで終了です。
それ以上使う必要がない理由は、ひきつけがふつう最初に発熱してから48時間以内に起こるからです。ダイアップ坐薬を上記の方法で2回使うと、効き目が48時間持つのです(注:メーカーの説明では24時間です・・・)。
ダイアップ坐薬を使用するか否かは保護者の選択でよく、「使わなければいけない」と考える必要はありません。
ダイアップを使うことに医学的な意味はないのです。ひきつけが起こっても後遺症の心配はない、ただあのけいれんをもう絶対見たくないという人は使ってもいいし、ボーッとしたりふらついたりするのがいやなら使わなくてもよいのです。
結局、ダイアップ坐薬は「またひきつけるのではないか」と不安になっているお母さんやお父さんを楽にするための薬だと考えてください。ですから「ひきつけが起こってもかまわない」と考えるお母さん、お父さんは使わなくてよいのです。
解熱剤を使うと、熱は一旦下がっても解熱剤の効き目が切れる時間になるとまた上がりますが、この時またひきつける可能性があります。解熱剤で体温を上げ下げするより、上がりっぱなしにしておいた方がひきつけも起こりにくいと考えられるので、ひきつけやすい子にも解熱剤は使うべきではないと考えている医者が多いようです(注:医学書には「解熱剤を使っても熱性けいれんの頻度は変わらない」と書いてある方が多いのですが・・・)。
□ 腸内細菌という名の常在菌
小腸には1mlあたり1億個の細菌細胞がひしめき合っていて、大腸には1mlあたり1000億個もの細菌細胞がいるのです。これらの腸内細菌の総重量は900gを超えます。
そしてこの膨大な細菌達は僕たちの体にとても役に立っています。
ジェフリー・ゴードンという学者によると、人間の腸の中に常在菌がいないと腸が正常に成長しません。腸は自然の毒素や胃が分泌する強力な酸から自らを守るために、1週間から2週間に一度、腸壁を入れ替えます。成長するにつれ、新しい細胞が腸の下層から上層の方へ移動することで新しくなるのですが、この移動を促しているのは細菌が発する信号で、この信号がないと腸は正常に成長しません。
さらに腸内細菌はビタミンを作る手助けをし、栄養素の吸収を助け、傷ついた腸細胞を修復する働きもしています。
<大腸菌いろいろ>
健康な人の腸の中にふつうに存在する常在菌で、便1gの中には大腸菌が10の6乗個から10の8乗個くらい含まれています。この大腸菌は腸の中にいる間は無害だけれど、腸以外の場所、例えば胆道、尿路(尿道、膀胱など)、呼吸器などに入り込んでしまうと病気を引き起こすと云われてきました。
しかし最近では、ふつうの大腸菌は腸以外の場所に入り込んでも病気は起こさず、病原因子と呼ばれる特別な構造を持った大腸菌だけが病気を起こすと云われています。
また、それとは別に、腸の中でも病気を起こす病原性大腸菌と呼ばれる特殊なものも存在し、有名な出血性大腸菌もその一つです。
□ 抗生物質を飲むと下痢するわけ
ヒトの腸の中には無数の常在菌と呼ばれる細菌(腸内細菌)が存在しています。この中でビフィズス菌、酪酸菌、乳酸菌などは腸の調子を整え、消化を助けてくれています。
ところが抗生物質を飲むと、腸へ到達した抗生物質が腸内の「良い常在菌」の一部を殺してしまいます。常在菌が減ると腸の調子を整える力が低下しますし、常在菌が十分存在する間は腸内に入り込めなかった病原菌が、常在菌が減ったのをチャンスばかりに入り込み、その結果として下痢が起こるのです。
□ 健康な子どものノドにも細菌はいる
<溶連菌>
健康な人100人のノドを調べたら5人くらいの人に溶連菌がいたという報告、いや20人の人に溶連菌がいたという報告があります。溶連菌は多くの場合、のどにくっついても病気を起こさないのですが、たまに病気を起こすことがあって、それは咽頭炎、扁桃炎という形になります。
<肺炎球菌>
肺炎の原因になる菌ですが、もともと健康な人の鼻とノドにいることが多い常在菌です。幼児では25~50%と高率にいます。ウイルス性の風邪を引いて抵抗力が落ちているようなときにこの菌が増えると、肺炎になることもあるのです。
□ インフルエンザはウイルス?それとも細菌?
実は両方存在します。
冬に流行するインフルエンザはウイルス、乳幼児に接種するヒブワクチンのターゲットはインフルエンザ菌です。
ややこしいですね。
最初、インフルエンザの患者さんからこの菌が見つかったので、これがインフルエンザの原因だろうということになってインフルエンザ菌と名付けられました。
しかしその後、インフルエンザはインフルエンザウイルスによって起こることが分かり、インフルエンザに罹っている人にインフルエンザ菌が二重に感染することがあるということもわかりました。
その時点でこの菌の名前を別の名前に変えればよかったのですが、なぜかそのままになって今に至るものですから混乱を招くわけです。
□ 抗生物質長期内服の危険性
メイアクト、フロモックスなど、第3世代セファロスポリン系と呼ばれる抗生物質を長期に使うと低血糖(血液中の糖分の量が異常に低下すること)を起こすことが報告されています。
中耳炎になってメイアクトを34日間、フロモックスを19日間飲み続けた1歳児が低血糖になりけいれんを起こした例、のどかぜでフロモックスとメイアクトを50日間飲んだ1歳児が低血糖となりやはりけいれんを起こした例などがあります。
強力な抗生物質を長期間飲むということの危険性が広く認識される必要があると思います。
医者の側としては、細菌感染症の患者さんに出会ったらまず原因になっている細菌は何かということを考え、最初に「その細菌には効くがその他の細菌には効果が弱い」といった抗生物質を使うようにして、広範囲に効く抗生物質は他の抗生物質が効かないときの2番手として使うことにするべきでしょう。
また患者さんの側としては「なるべくよく効く強い抗生物質をください」というふうに医者に求めないことが必要だと思います。
乳幼児期にたくさん抗生物質を飲むと、将来アレルギー性の病気に罹りやすくなるという事実も報告されています。抗生物質信仰をみんなで改めていくことが大事ですね。
□ とびひ(伝染性膿痂疹)の治療の変遷
以前は塗り薬としてはゲンタシン軟膏、飲み薬としてはセファロスポリン系の抗生物質が多く使われていました。しかしMRSA等の耐性菌の増加によりこの組み合わせでは治りにくくなってしまいました。
最近は塗り薬ならアクアチム軟膏、飲み薬はホスミシンが用いられる傾向があります。
耐性菌対策としては、軽症例ではまず塗り薬だけで治療し、よくならないときに飲み薬を使おうという方法が勧められています。
□ 中耳炎は抗生物質なしでも治る?
急性中耳炎の自然治癒率は約80%と高いことが分かってから、欧米では「高熱があって痛みが強い」急性中耳炎でも3日間は抗生物質を使わずに自然経過を見るというのがふつうになって。きていますそして4日目になって軽快してくる様子が見えなければはじめて抗生物質を使うのです。
□ 突発性発疹は2回罹ることがある
突発性発疹はウイルス感染症であり、その原因はヒトヘルペスウイルス6型(発見されたのは1986年と比較的最近のこと)とヒトヘルペスウイルス7型の2種類が知られています。
実際、突発性発疹に2回罹る子どもがいます。そのような例では、1回目の方が2回目より高熱のことが多く、この場合、1回目がヒトヘルペスウイルス6型によるもので、2回目がヒトヘルペスウイルス7型に夜ものだろうと考えられています。
6型も7型も乳幼児期に感染した後、ずっと体の中に残っているようで、乳児が突発性発疹に罹るのは周りの大人が時々ヒトヘルペスウイルス6型、7型を外に出すため、そこから感染するらしいのです。
□ タミフルは危険、抗インフルエンザは必要ない?
・・・と著者は記していますが、その根拠は著者の経験のみであり、科学的データの基づいたものでないのが残念です。
例えば「タミフルやリレンザが登場する以前、何十年もの間、ぼくは毎年冬にはインフルエンザの患者さんを多数診察してきましたが、重症になった人はほとんどいませんでした。インフルエンザ自体、恐い病気とは思いません」という記述があります。
インフルエンザ脳症で目の前の患者さんが為す術亡くなっていくという経験をした私にとっては受け入れがたいコメントです。
□ 下痢止めの種類
塩酸ロペラミド(商品名:ロペミン)は下痢止めとしてもっともよく使われるものですが、2歳未満の子どもに対しては「原則禁忌」(よほどの場合を除いて使ってはならない)ということになっているくらい強い薬ですから、子どものウイルス性胃腸炎や細菌による食中毒の場合の下痢には使うべきではありません。
抗コリン薬と呼ばれる下痢止めがあります。ロートエキスや硫酸アトロピンなどがその仲間ですが、昔は良く使われたけれど最近はあまり使われなくなりました。
天然ケイ酸アルミニウム(商品名:アドソルビン)は吸着薬と呼ばれ、これは腸を刺激するような有害物質や過剰な水分を吸着して腸の動きを抑える薬です。短期間使うなら副作用の少ない薬と云えます。
・・・私は子どもの下痢の治療に整腸剤とアドソルビンを組み合わせて使用しており、著者の意見に賛成です。それでも治りが悪いときは漢方薬を併用しています。
□ 経口補水液(ソリタ-T顆粒、OS-1等)の飲ませ方
経口補水液を飲ませる場合、液体であっても一気にぐいぐい飲むと吐きますから、おちょこに1杯ぐらいの少量を1回分としてほんの少しずつ与えます。ストローを使える年齢ならストローで少しずつ吸わせます。
吐き続けているときでも少量ずつの水分補給は行います。5~6時間もすれば吐くのも自然に治まってくるのがふつうですから、薬は必要ではありません。
子どもが風邪を引くと小児科へ行って薬をもらって一安心・・・これが平均的な日本人の親の感覚です。
しかし、著者はこの感覚に疑問を呈します。
「その薬、ホントに必要?」
著者は町医者40年選手のベテラン小児科医で、長年の経験に基づいた珠玉のコメント群が詰め込まれた本です。ちょっとクセのある毛利子来氏(予防接種反対派)と共に行動している方なので話半分で読もうかと思いきや、至極まともな内容でした。西洋医学で限界を感じる分野(過敏性腸症候群など)には漢方を取り入れているのも自分のスタンスと似ていると感じました。
ただ、あとがきにも書かれていますが「ぼくは自分が実際に経験したことについてしか書けない性格」という点が本書の魅力である一方で、短所にもなってます。一人の小児科医の経験することは自ずと限定され、それにこだわると「科学的」ではなくなってしまうのです。客観的データに基づかない判断が散見され、そこは残念でした。
(例)タミフルを含めた抗インフルエンザ薬、アトピー性皮膚炎におけるステロイドの使い方、等
気になった箇所をメモメモ(同じ小児科医である私が得た情報と少々異なる箇所が散見されましたので、そこには灰色でボヤキが入ってます);
□ 薬を乱用していませんか?
薬の乱用に拍車をかけているものに乳幼児医療の無料化ということがあるのも残念なことです。いつでも気軽に医療が受けられるという日本の医療のアクセスの良さが逆に医療の受けすぎという弊害を作り出してしまったわけです。日本では病院へ行くことと薬をもらうことがほぼイコールで繋がってしまうこともあって、不必要な受診が不必要な薬を使用することに結びつくのです。
「お薬はいりませんよ」とぼくが言うと、
「えー、おみやげなしなの」という顔をされることがよくあるのです。
不必要な薬を使えば弊害があります。乳幼児期に抗生物質をたくさん飲むと、後年ぜんそくなどアレルギー性の病気になる率が少し高くなるという報告もあります。
□ 「こなぐすり」の種類について
粉薬は正式には散剤といいます。粉末の粒子が細かいものを細粒といい、細粒よりも粒子が粗く匂いや苦味をおさえてゆっくり溶けるようにしたものは顆粒とかドライシロップとか呼ばれます。ドライシロップは水に溶けてシロップ状になります。
□ 子どもの飲み薬の種類と使い分け
3歳以下の子どもの場合、錠剤は咽に詰まらせてしまう危険もあるので使わないことになっています。3歳以上の子どもでも錠剤を上手く飲み込めないことが多いので、小学生になるくらいまではシロップや粉薬を使う方がよいと思います。
□ 苦い抗生物質の飲ませ方
薬の種類によってはジュースなどと混ぜるとかえって苦味が出てしまうこともあることを知っておいてください。
特にある種の抗生物質では要注意です。クラリス(=クラリシッド)、ジスロマック、エリスロマイシンなどの抗生物質は、酸性飲料と呼ばれるオレンジなどの柑橘系ジュース、スポーツドリンク、乳酸菌飲料、ヨーグルトなどと混ぜると苦味が生じるので子どもは嫌がります。
ぼくが実際に試したところでは、ここに挙げた抗生物質はウーロン茶や麦茶とまぜると味が無くなって飲みやすくなりました。
□ 熱性けいれんの頻度
子ども100人のうち3~4人はひきつけを一度は経験すると云われますから決して珍しいものではありません。初めてひきつけを起こす年齢としては1~2歳が多いです。
一度ひきつけた子どもがその後また高熱になったときにひきつける確率はかなり高く40%ですが、90%の子どもは一生のうちひきつける回数が2回以下です。そして6歳くらいになるとひきつけなくなるのがふつうです。5回以上ひきつける子どもも数%いますが、回数が多くても後遺症が残ったりはしません。
□ ひきつけ予防薬(ダイアップ坐薬)の考え方
ひきつけを3回起こした子どもはさらに何回か起こす可能性があるので予防措置を行います。体温が37.5℃以上になったらダイアップ坐薬を肛門から挿入します。そして8時間後に38℃以上の熱があればもう一度坐薬を挿入します。これで終了です。
それ以上使う必要がない理由は、ひきつけがふつう最初に発熱してから48時間以内に起こるからです。ダイアップ坐薬を上記の方法で2回使うと、効き目が48時間持つのです(注:メーカーの説明では24時間です・・・)。
ダイアップ坐薬を使用するか否かは保護者の選択でよく、「使わなければいけない」と考える必要はありません。
ダイアップを使うことに医学的な意味はないのです。ひきつけが起こっても後遺症の心配はない、ただあのけいれんをもう絶対見たくないという人は使ってもいいし、ボーッとしたりふらついたりするのがいやなら使わなくてもよいのです。
結局、ダイアップ坐薬は「またひきつけるのではないか」と不安になっているお母さんやお父さんを楽にするための薬だと考えてください。ですから「ひきつけが起こってもかまわない」と考えるお母さん、お父さんは使わなくてよいのです。
解熱剤を使うと、熱は一旦下がっても解熱剤の効き目が切れる時間になるとまた上がりますが、この時またひきつける可能性があります。解熱剤で体温を上げ下げするより、上がりっぱなしにしておいた方がひきつけも起こりにくいと考えられるので、ひきつけやすい子にも解熱剤は使うべきではないと考えている医者が多いようです(注:医学書には「解熱剤を使っても熱性けいれんの頻度は変わらない」と書いてある方が多いのですが・・・)。
□ 腸内細菌という名の常在菌
小腸には1mlあたり1億個の細菌細胞がひしめき合っていて、大腸には1mlあたり1000億個もの細菌細胞がいるのです。これらの腸内細菌の総重量は900gを超えます。
そしてこの膨大な細菌達は僕たちの体にとても役に立っています。
ジェフリー・ゴードンという学者によると、人間の腸の中に常在菌がいないと腸が正常に成長しません。腸は自然の毒素や胃が分泌する強力な酸から自らを守るために、1週間から2週間に一度、腸壁を入れ替えます。成長するにつれ、新しい細胞が腸の下層から上層の方へ移動することで新しくなるのですが、この移動を促しているのは細菌が発する信号で、この信号がないと腸は正常に成長しません。
さらに腸内細菌はビタミンを作る手助けをし、栄養素の吸収を助け、傷ついた腸細胞を修復する働きもしています。
<大腸菌いろいろ>
健康な人の腸の中にふつうに存在する常在菌で、便1gの中には大腸菌が10の6乗個から10の8乗個くらい含まれています。この大腸菌は腸の中にいる間は無害だけれど、腸以外の場所、例えば胆道、尿路(尿道、膀胱など)、呼吸器などに入り込んでしまうと病気を引き起こすと云われてきました。
しかし最近では、ふつうの大腸菌は腸以外の場所に入り込んでも病気は起こさず、病原因子と呼ばれる特別な構造を持った大腸菌だけが病気を起こすと云われています。
また、それとは別に、腸の中でも病気を起こす病原性大腸菌と呼ばれる特殊なものも存在し、有名な出血性大腸菌もその一つです。
□ 抗生物質を飲むと下痢するわけ
ヒトの腸の中には無数の常在菌と呼ばれる細菌(腸内細菌)が存在しています。この中でビフィズス菌、酪酸菌、乳酸菌などは腸の調子を整え、消化を助けてくれています。
ところが抗生物質を飲むと、腸へ到達した抗生物質が腸内の「良い常在菌」の一部を殺してしまいます。常在菌が減ると腸の調子を整える力が低下しますし、常在菌が十分存在する間は腸内に入り込めなかった病原菌が、常在菌が減ったのをチャンスばかりに入り込み、その結果として下痢が起こるのです。
□ 健康な子どものノドにも細菌はいる
<溶連菌>
健康な人100人のノドを調べたら5人くらいの人に溶連菌がいたという報告、いや20人の人に溶連菌がいたという報告があります。溶連菌は多くの場合、のどにくっついても病気を起こさないのですが、たまに病気を起こすことがあって、それは咽頭炎、扁桃炎という形になります。
<肺炎球菌>
肺炎の原因になる菌ですが、もともと健康な人の鼻とノドにいることが多い常在菌です。幼児では25~50%と高率にいます。ウイルス性の風邪を引いて抵抗力が落ちているようなときにこの菌が増えると、肺炎になることもあるのです。
□ インフルエンザはウイルス?それとも細菌?
実は両方存在します。
冬に流行するインフルエンザはウイルス、乳幼児に接種するヒブワクチンのターゲットはインフルエンザ菌です。
ややこしいですね。
最初、インフルエンザの患者さんからこの菌が見つかったので、これがインフルエンザの原因だろうということになってインフルエンザ菌と名付けられました。
しかしその後、インフルエンザはインフルエンザウイルスによって起こることが分かり、インフルエンザに罹っている人にインフルエンザ菌が二重に感染することがあるということもわかりました。
その時点でこの菌の名前を別の名前に変えればよかったのですが、なぜかそのままになって今に至るものですから混乱を招くわけです。
□ 抗生物質長期内服の危険性
メイアクト、フロモックスなど、第3世代セファロスポリン系と呼ばれる抗生物質を長期に使うと低血糖(血液中の糖分の量が異常に低下すること)を起こすことが報告されています。
中耳炎になってメイアクトを34日間、フロモックスを19日間飲み続けた1歳児が低血糖になりけいれんを起こした例、のどかぜでフロモックスとメイアクトを50日間飲んだ1歳児が低血糖となりやはりけいれんを起こした例などがあります。
強力な抗生物質を長期間飲むということの危険性が広く認識される必要があると思います。
医者の側としては、細菌感染症の患者さんに出会ったらまず原因になっている細菌は何かということを考え、最初に「その細菌には効くがその他の細菌には効果が弱い」といった抗生物質を使うようにして、広範囲に効く抗生物質は他の抗生物質が効かないときの2番手として使うことにするべきでしょう。
また患者さんの側としては「なるべくよく効く強い抗生物質をください」というふうに医者に求めないことが必要だと思います。
乳幼児期にたくさん抗生物質を飲むと、将来アレルギー性の病気に罹りやすくなるという事実も報告されています。抗生物質信仰をみんなで改めていくことが大事ですね。
□ とびひ(伝染性膿痂疹)の治療の変遷
以前は塗り薬としてはゲンタシン軟膏、飲み薬としてはセファロスポリン系の抗生物質が多く使われていました。しかしMRSA等の耐性菌の増加によりこの組み合わせでは治りにくくなってしまいました。
最近は塗り薬ならアクアチム軟膏、飲み薬はホスミシンが用いられる傾向があります。
耐性菌対策としては、軽症例ではまず塗り薬だけで治療し、よくならないときに飲み薬を使おうという方法が勧められています。
□ 中耳炎は抗生物質なしでも治る?
急性中耳炎の自然治癒率は約80%と高いことが分かってから、欧米では「高熱があって痛みが強い」急性中耳炎でも3日間は抗生物質を使わずに自然経過を見るというのがふつうになって。きていますそして4日目になって軽快してくる様子が見えなければはじめて抗生物質を使うのです。
□ 突発性発疹は2回罹ることがある
突発性発疹はウイルス感染症であり、その原因はヒトヘルペスウイルス6型(発見されたのは1986年と比較的最近のこと)とヒトヘルペスウイルス7型の2種類が知られています。
実際、突発性発疹に2回罹る子どもがいます。そのような例では、1回目の方が2回目より高熱のことが多く、この場合、1回目がヒトヘルペスウイルス6型によるもので、2回目がヒトヘルペスウイルス7型に夜ものだろうと考えられています。
6型も7型も乳幼児期に感染した後、ずっと体の中に残っているようで、乳児が突発性発疹に罹るのは周りの大人が時々ヒトヘルペスウイルス6型、7型を外に出すため、そこから感染するらしいのです。
□ タミフルは危険、抗インフルエンザは必要ない?
・・・と著者は記していますが、その根拠は著者の経験のみであり、科学的データの基づいたものでないのが残念です。
例えば「タミフルやリレンザが登場する以前、何十年もの間、ぼくは毎年冬にはインフルエンザの患者さんを多数診察してきましたが、重症になった人はほとんどいませんでした。インフルエンザ自体、恐い病気とは思いません」という記述があります。
インフルエンザ脳症で目の前の患者さんが為す術亡くなっていくという経験をした私にとっては受け入れがたいコメントです。
□ 下痢止めの種類
塩酸ロペラミド(商品名:ロペミン)は下痢止めとしてもっともよく使われるものですが、2歳未満の子どもに対しては「原則禁忌」(よほどの場合を除いて使ってはならない)ということになっているくらい強い薬ですから、子どものウイルス性胃腸炎や細菌による食中毒の場合の下痢には使うべきではありません。
抗コリン薬と呼ばれる下痢止めがあります。ロートエキスや硫酸アトロピンなどがその仲間ですが、昔は良く使われたけれど最近はあまり使われなくなりました。
天然ケイ酸アルミニウム(商品名:アドソルビン)は吸着薬と呼ばれ、これは腸を刺激するような有害物質や過剰な水分を吸着して腸の動きを抑える薬です。短期間使うなら副作用の少ない薬と云えます。
・・・私は子どもの下痢の治療に整腸剤とアドソルビンを組み合わせて使用しており、著者の意見に賛成です。それでも治りが悪いときは漢方薬を併用しています。
□ 経口補水液(ソリタ-T顆粒、OS-1等)の飲ませ方
経口補水液を飲ませる場合、液体であっても一気にぐいぐい飲むと吐きますから、おちょこに1杯ぐらいの少量を1回分としてほんの少しずつ与えます。ストローを使える年齢ならストローで少しずつ吸わせます。
吐き続けているときでも少量ずつの水分補給は行います。5~6時間もすれば吐くのも自然に治まってくるのがふつうですから、薬は必要ではありません。