小児アレルギー科医の視線

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舌下免疫療法、皮下免疫療法(減感作療法)・・・免疫療法の歴史を紐解く

2025年02月03日 08時15分34秒 | 花粉症
現在人気急上昇中の「舌下免疫療法」。
当院での多数のお子さんに行っていますが、
しっかり手応えがあり有効です。
ただ現在、需要と供給のバランスが崩れて新規開始が出来ない状況が続いているのが残念。

この舌下免疫療法とは、
舌下にスギ花粉エキスの塊(すぐ溶ける錠剤)を含み、
吸収させてからだの免疫反応を誘導し、
症状が出にくい体質に変えていくという、
いわゆる“体質改善”です。

ですから内服を止めると症状がすぐ再燃する抗アレルギー薬と異なり、
終了後も一定期間、効果の持続が期待できます。
もっとも、登場した当初は「一生花粉症と縁が切れます」と宣伝していましたので、
夢の治療法ではないことがわかってしまいましたが。

それでも一定期間、薬を使わなくても花粉症症状が気にならないというのはいいですね。
例えば、4年間施行すると、終了後5-6年は調子がよい、つまり合計10年間花粉症に悩まされずに済むのですから。

さて、舌下免疫療法が登場する以前は「減感作療法」という名称で、
皮下注射する免疫療法が行われてきました。
この辺の歴史を遡る記事が目に留まりましたので紹介します。

<ポイント>
■ 花粉の発見
 → 17世紀後半から18世紀初頭
■ 花粉アレルギー(花粉症)の発見
 → (現象としては古代ギリシャ・ローマ時代の記録にも)1828年、ジョン・ボストック博士が花粉症に関する最初の報告。日本における最初の花粉症の報告は、スギ花粉症ではなく、ブタクサ花粉症だった( 1960〜 1961 年に荒木英斉博士によるブタクサ花粉症研究)。スギ花粉症に関する最初の報告は、1964年に斉藤洋三博士や堀口申作博士による。
※ アレルギーという単語は、1906年に、オーストリアの小児科医クレメンス・フォン・ピルケによって初めて造語。
■ 免疫療法の開発 → 様々な投与経路が研究されている
1) 皮膚の下の樹状細胞に伝えるために注射をする → 皮下免疫療法
2) 腸管の樹状細胞に伝えるために食べる → 経口免疫療法
3) 舌の下にいる樹状細胞に伝えるために舌の下に置く → 舌下免疫療法
4) 皮膚にいる樹状細胞に伝えるために特殊なシールを貼る → 経皮免疫療法

日本でスギ花粉症が報告されてから、まだ60年くらいしか経っていないのです。
その後「国民の3人に1人以上が患者」という時代が来るとは誰が想像したことでしょう。


▢ スギ花粉、本格的な飛散シーズンへ 花粉症の「免疫療法」はどう発展した? 
2025-2/2:withnews)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・人類は、花粉をどのように知り、そしてアレルギーの原因として認識し、そして対応しているのでしょうか。その歴史をあらためて振り返り、深掘りしてみました。(小児科医・堀向健太/ほむほむ先生)

▶ 花粉はどのようにみつかった?

 スギ花粉症の本格飛散の時期が近づいています。今年も2月から本格的に飛散がはじまるようです[1]。・・・初期療法といって、症状がではじめたら早めに治療を開始すると、その症状のヤマを低くすることができます[2]。
・・・本来は免疫にとって敵ではないはずの花粉。 人類は、花粉をどのように知り、そしてアレルギーの原因として認識し、そして対応しているのでしょうか。今回は、その歴史を振り返ってみたいと思います。
  そもそも、花粉はどのようにみつかったのでしょう。 その歴史は、17世紀後半から18世紀初頭までさかのぼります。 ドイツの医師であり植物学者であったルドルフ・ヤコブ・カメラリウスは、植物には雄しべと雌しべがあり、植物の有性生殖を初めて証明しました。 そして、進化論で有名な科学者チャールズ・ダーウィンは、1862年に "The Various Contrivances by which Orchids Are Fertilized by Insects"(ランが昆虫によって受粉される様々な工夫)を出版しました。 ダーウィンは、ランが特殊な形や構造をしていることに着目し、ランの見た目はきれいに見せるためではなく、ハチやチョウ、ガなどの昆虫を誘引していると考えたのです。 そして、ランの中には雌の昆虫のように見える部分や匂いを持つものがあり、雄の昆虫を騙して近づけて花粉を拾わせ受粉に役立てていることを示しました。 さらに、1800年代半ばに、オーストリアの修道士であったヨハン・グレゴール・メンデルは、エンドウ豆の花の色、エンドウ豆の形、エンドウ豆の色といった観察しやすい性質があり、花粉で交配し数世代にわたって何が起こったかを記録したのです。 メンデルの法則、有名ですよね。 そうして、人類は花粉の存在を知り、その役割に関する理解を深めていったのです。
▶ ブタクサアレルギーが問題に
 さて、その花粉がアレルギー症状を起こすということは、昔から知られていました。その記録は古代ギリシャ・ローマ時代にまで遡ります。 とはいえ、アレルギーという用語そのものは、1906年に、オーストリアの小児科医クレメンス・フォン・ピルケによって初めて造語されたものです。 ですので、花粉症に関する科学的な研究報告も、19世紀になってからになります。
  1828年、ジョン・ボストック博士が花粉症に関する最初の報告をしました[3]。 そして1869年に、チャールズ・ハリソン・ブラックリーは、アレルギー反応を観察するために花粉を皮膚で反応させるという、アレルギーの最初の皮膚テストの手法を考案し、1873年に、花粉症がイネ科植物の花粉によって引き起こされることを証明したのです[4]。 
 米国では、ブタクサアレルギーが早々に問題となり、ヨーロッパでは、1900年以降、北米からのブタクサが混じった穀物や種子の輸入により、ブタクサの爆発的な拡大が起こります[5]。 しかし1930年代まで日本ではブタクサはめずらしく、当時はブタクサ花粉はアレルギーの原因にはならないと考えられていました[6]。 しかし、ブタクサは、世界に拡大していき、日本でもその植生は変化していくことになります。 そして日本における花粉症の体系的な研究が、 1960 年から 1961 年にかけて、荒木英斉博士によってブタクサ花粉症に対して行われました[7]。 そう、日本における最初の花粉症の報告は、スギ花粉症ではなく、ブタクサ花粉症だったのです。
▶ スギ花粉症の初報告と、その後の拡大
 スギ花粉症に関する最初の報告は、1964年に斉藤洋三博士や堀口申作博士によってなされます[8][9]。 ただ、国際医学雑誌へのはじめての報告は、1987 年に石崎博士らによってであり、日本に特有の花粉症として知られるようになったのです[10]。 
 スギ花粉症が日本独自に大きくふえたのは、第二次世界大戦後、木材用にスギの大規模な植林を行い、これらのスギが成熟して花粉を大量に生産するようになったためと考えられています。 斉藤洋三博士は、栃木県日光市に勤務している際に、スギ花粉症に気がついておられ、スギ花粉が特に飛散している地域であったことがうかがえます[9]。 花粉症は、環境に大きく左右されるアレルギー疾患なのです。
▶ スギ花粉症に対する治療の発展
 1914年、レオナルド・ヌーンとジョン・フリーマンによって、初めてアレルゲン免疫療法が提唱されました[11]。しかし、当時は、まだ『アレルギー』という用語すらまだ提唱されたばかりの時代です。 ですので、普及はまだ時間がかかる状況でした。 1930年代後半に『抗ヒスタミン薬』が普及し、アレルギー症状を抑えるのに役立つようになりました[12]。 
 そして1963年に石坂公成博士と照子博士夫妻により、IgE抗体が発見されました[13]。この発見は、アレルギー反応のメカニズムを理解する上で大きな突破口となりました。 アレルゲン免疫療法が使用される素地ができてきたのです。 スギ花粉症とは、体がスギ花粉を悪いものだと勘違いし撃退しようとして、スギ花粉に出会うたびにくしゃみ、鼻水、目のかゆみを引き起こしているようなものです。 そしてアレルゲン免疫療法とは、スギ花粉は脅威ではないと体に教え込むような治療といえます。 
 スギ花粉に対するアレルゲン免疫療法は、皮下免疫療法(皮下に注射する)、舌下免疫療法(舌の下にスギ花粉の製剤を1分間置く)が使用されています。 以前、この免疫療法のルートに関しては、「食物アレルギーはどこまで治療できる?免疫療法の歴史と、安全な治療法が模索されている話|第6回[14]」で紹介しましたね。
1) 皮膚の下の樹状細胞に伝えるために注射をする → 皮下免疫療法 
2) 腸管の樹状細胞に伝えるために食べる → 経口免疫療法 
3) 舌の下にいる樹状細胞に伝えるために舌の下に置く → 舌下免疫療法 
4) 皮膚にいる樹状細胞に伝えるために特殊なシールを貼る → 経皮免疫療法 
 そして、イネ科花粉に対する舌下免疫療法も開発がすすみはじめています[15]。 変化する環境に対応できるようなこれらの治療が、さらに進むことが期待されています。

【参考文献】 
[3] Bostock J. Case of a Periodical Affection of the Eyes and Chest. Medico-chirurgical transactions. 1819;10(Pt 1):161-165. 
[4] Blackley CH. Experimental researches on the causes and nature of catarrhus aestivus (hay-fever or hay-asthma). Bailliere, Tindall & Cox; 1873. 
[5] Chen KW, Marusciac L, Tamas PT, Valenta R, Panaitescu C. Ragweed Pollen Allergy: Burden, Characteristics, and Management of an Imported Allergen Source in Europe. International archives of allergy and immunology. 2018;176(3-4):163-180. 
[6] Hara H. Hay Fever Among Japanese: III. Studies of Atmospheric Pollen in Tokyo and in Kobe. Archives of Otolaryngology. 1939;30(4):525-535. 
[7] Araki H. Studies on pollinosis. II. Sensitization with pollens. Arerugi=[Allergy]. 1961;10:354-370. [8] Horiguchi S, Saito Y. [DISCOVERY OF JAPANESE CEDAR POLLINOSIS IN NIKKO, IBARAKI PREFECTURE]. Arerugi = [Allergy]. 1964;13:16-18. 
[9] Saito Y. Japanese cedar pollinosis: discovery, nomenclature, and epidemiological trends. Proceedings of the Japan Academy Series B, Physical and biological sciences. 2014;90(6):203-210. 
[10] Ishizaki T, Koizumi K, Ikemori R, Ishiyama Y, Kushibiki E. Studies of prevalence of Japanese cedar pollinosis among the residents in a densely cultivated area. Ann Allergy. 1987;58(4):265-270. 
[11] Noon L. Prophylactic inoculation against hayfever. Lancet 1911; 1:1572. 
[12] Busse WW. Role of antihistamines in allergic disease. Annals of allergy. 1994;72 4:371-375. 
[13] Ribatti D. The discovery of immunoglobulin E. Immunology letters. 2016;171:1-4. 


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