小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

子どもが頭をぶつけたので心配・・・

2018年09月05日 10時00分51秒 | 小児医療
 という相談をよく受けます。
 心配なのは頭部打撲による「頭蓋内出血」なので、小児科より脳神経外科領域ですが、重症感がなくとりあえず医者の意見を聞きたい・・・と受診されるのでしょう。

 診察で気になる所見があるときは迷わずCTのある病院へ紹介しています。
 一見して元気な患者さん(こちらがほとんど)に対する私の説明は、

・現時点で意識障害・けいれんなどの重い神経症状はないので緊急性を要する状態ではありません。
・ただし、脳内の細い血管が切れるとすぐに症状が出ないこともあります。
・頭部打撲後1ヶ月は注意して様子観察し、気になる症状(ぼーっとしやすい、吐きやすい、転びやすい)や今までできていたことができなくなったりした病院を紹介しますから、また来てください。


 という感じです。

 さて近年、子どもの頭部打撲傷に対する診療ガイドラインが複数の国で提案されるようになりました。
 とくに頭部CTの適応が議論されています。
 日本ではあまり注目されていませんが、頭部CTは放射線被曝により発がんリスクが存在します。
 諸外国ではコストともに、発がんリスクも評価における大きな要素です。
 資料によると、

<頭部CTによる被曝と発がん>
・2〜3回のCT → 脳腫瘍発生リスクが3倍
・5〜10回のCT → 白血病発生リスクが3倍(脳腫瘍/白血病の発症率は10万人中2.8/4.5)

 有名なのは米国の「PECARN」、カナダの「CATCH」、英国の「CHALICE」。
 他にも英国の NICE guideline(NICE clinical guideline 176 Head injury. Jan 2014)というのもあるらしい。
 ガイドライン作成ブームの火付け役は「PECARN」(Kuppermann による Lancet 論文)。
 現場の診療の参考になるのかどうか、記事を集めて読んでみました;


□ 頭部外傷患児に対する不要なCT検査を回避できる予測ルールが確立された
2009.10.15:ケアネット:菅野守:医学ライター
 新たに導出された予測ルールを用いれば、頭部外傷後の子どものうち臨床的に重大な外傷性脳損傷(ciTBI)のリスクが低い患児を同定して、不要なCT検査を回避できることが、アメリカCalifornia大学医学部Davis校救急医療部のNathan Kuppermann氏らPECARN(Pediatric Emergency Care Applied Research Network)の研究グループによって明らかにされた。外傷性脳損傷は子どもの死亡および身体障害の主要原因であり、脳手術など緊急の介入を要するciTBIの患児を迅速に同定する必要がある。頭部外傷小児に対するCT検査は、放射線被曝による悪性腫瘍のリスクがあるため、CTが不要な低リスク例を同定する方法の確立が切望されていた。Lancet誌2009年10月3日号(オンライン版2009年9月15日号)掲載の報告。

◇ ciTBIを除外する年齢別の予測ルールを導出し、検証するコホート研究
 PECARNの研究グループは、CTが不要な低リスク例の同定法の確立を目的に、頭部外傷患児を対象にプロスペクティブなコホート研究を行った。
 対象は、頭部外傷受傷後24時間以内の18歳未満の子どもで、Glasgow 昏睡スケールのスコアが14~15の患児とした。ciTBI(外傷性脳損傷による死亡、脳手術、24時間以上にわたる気管内挿管、2泊以上の入院)に関する年齢特異的な予測ルールを策定し、その妥当性を検証した。
 北米の25の救急施設から42,412例が登録された[2歳未満の導出集団(derivation population)8,502例、検証集団(validation population)2,216例、2歳以上の導出集団25,283例、検証集団6,411例]。CT所見は14,969例(35.3%)から得られ、376例(0.9%)でciTBIが検出され、60例(0.1%)で脳手術が施行された。

◇ 検証集団で、2歳未満、2歳以上のいずれにおいても、高い陰性予測値と感受性を確認
 2歳未満の患児におけるciTBI除外の予測ルールとして、
1)健常な精神状態
2)前頭部以外に頭皮血腫がない
3)意識消失がないあるいは5秒以内の意識消失
4)損傷の発生機序が重度でない
5)触知可能な頭蓋骨骨折がない
6)親の指示に従って正常な動作ができる
が導出された。
 検証集団におけるこれらの予測ルールのciTBIに関する陰性予測値は100%(1,176/1,176例)、感受性も100%(25/25例)であった。2歳未満のCT検査施行例694例のうち、この低リスクのグループに分類されたのは167例(24.1%)であった。

 2歳以上の患児におけるciTBI除外の予測ルールとしては、
1)健常な精神状態
2)意識消失がない
3)嘔吐がない
4)損傷の発生機序が重度でない
5)頭蓋底骨折の徴候がない
6)重篤な頭痛がみられない
が導出された。

 検証集団におけるこれらの予測ルールのciTBIに関する陰性予測値は99.95%(3,798/3,800例)、感受性は96.8%(61/63例)であった。2歳以上のCT検査施行例2,223例のうち、この低リスクのグループと判定されたのは446例(20.1%)であった。
 検証集団では、2歳未満および2歳以上の予測ルールのいずれにおいても、必要な脳手術が施行されなかった例は1例もなかった。
 以上の知見により、著者は「これらの検証された予測ルールを用いれば、ルーチンのCT検査が不要なciTBIのリスクが低い患児を同定することが可能である」と結論し、「予測ルールは患児を不要な放射線被曝から保護し、頭部外傷後のCT検査の意思決定において、医師および家族とって有益なデータをもたらす」と指摘している。


<原著論文>
Kuppermann N et al. Identification of children at very low risk of clinically-important brain injuries after head trauma: a prospective cohort study. Lancet. 2009 Oct 3; 374(9696): 1160-70. Epub 2009 Sep 14.



□ 軽症に見える小児の頭部打撲にCT検査は行うべきか?
2012/1/12 石垣恒一=日経メディカル オンライン
 症例数や統計学的な妥当性は大事だが、あまりにこだわると、読む論文はほとんどなくなってしまう。研究のオリジナリティーなどにも目を配り、「論文は愛をもって読む」ことを標榜する福井大総合診療部教授の林寛之氏。そんな林氏に、読破した大量の論文の中から、一読推奨という救急領域の論文を紹介してもらった。
 まず、「ここ数年で一番のヒット」と評するのが、一見軽症の小児の頭部打撲にCT検査を行うべきか否か、その判断基準を検討した論文9(次ページの「林先生のおすすめ論文リスト」参照)。小児への被曝のリスクを考えれば、CT検査は避けるに越したことはない。けれども、外傷性脳損傷を見逃すのは怖い…。現場でしばしば遭遇する逡巡に、指針を示そうとしたものだ。
 基準作成の検討に用いたのは、鈍的頭部外傷から24時間以内に北米の25の救急部を受診した18歳未満の患者4万2412人(平均年齢7.1歳)。その結果、2歳未満の頭部外傷についてCTをどう適用するかの考え方を示したのが図5だ。図の左側の7つの条件がクリアできれば、重篤な脳損傷であるリスクは0.02%。「こういったデータを親御さんに提示できれば、『CTはいらなさそうですね』といった説明の材料になる」。頭をぶつけてたんこぶをこしらえた子どもは頻繁に訪れる。「CTがない医療機関でこそ、参考にできる論文だと思う」(林氏)。
 図5右下を見ると、最終的にはCT適用の「判断」が求められることとなり、検討項目には「医師の裁量」「親の希望」が含まれている。「これを見て『な~んだ。結局同じじゃないか』と思うかもしれないけれど、逆に、実際の臨床を理解する人が研究しているという、リアリティーを感じる」と林氏は評価する。

図5 軽症と見られる頭部外傷(GCS=14,15)に対するCT 検査適用の考え方(2歳未満)
(論文9) Lancet 2009;374:1160-70. より改編引用。「2 歳以上」については、ぜひ原著を参照されたい。



<原著>
・Kuppermann N, et al. Lancet 2009;374 :1160-70.
Identification of children at very low risk of clinically-important brain injuries after head trauma : a prospective cohort study.



□ 頭部CTの適応はどのように決めていますか?
2013/10/23:日経メディカル
 15歳以下の子どもの頭部外傷時にCTを撮る基準について、小児科の指導医の先生にPECARN studyというのを教えてもらいました。他にもいくつかstudyがあるみたいですが、親がしっかり監視してくれるという条件のもとで、なるべく被曝を避けるようにするのが現代の流れだということです。子どもは余命が長いこともあり、CTで悪性腫瘍発生率が有意にあがってしまうわけですね。
 PECARN studyは次のようにまとめられています。
 ciTBI (clinically important Traumatic Brain Injury:外傷性脳挫傷)除外基準によると、陰性予測値は、2歳未満で100%、2歳以上で99.95%だったそうです。これなら以下の基準を満たす小児はCTを撮らなくてもよさそうです。

<2歳未満>
1)健常な精神状態
2)前頭部以外に頭皮血腫がない
3)意識消失がないあるいは5秒以内の意識消失
4)損傷の発生機序が重度でない
5)触知可能な頭蓋骨骨折がない
6)親の指示に従って正常な動作ができる

<2歳以上>
1)健常な精神状態
2)意識消失がない
3)嘔吐がない
4)損傷の発生機序が重度でない
5)頭蓋底骨折の徴候がない
6)重篤な頭痛がみられない
(PECARN study: Kuppermann et al, Lancet(2009);372;1160)

 訳に関しては、こちらも参考にしました。論文で推奨されているAlgorithmはこちらでも参照できます。



□ 3つの小児頭部外傷ルール、診断精度が高いのはどれ?/Lancet
2017/04/21:ケアネット:医学ライター 吉尾 幸恵
 頭部外傷の小児において、CT検査の適応を臨床的に判断する3つのルール(PECARN、CATCH、CHALICE)は、デザインされたとおりに使用された場合の感度は高いことが、オーストラリア・王立小児病院のFranz E Babl氏らが行った前向きコホート研究(APHIRST)による検証の結果、明らかになった。これら3つのルールは、CT検査を行うべき頭部外傷患児の同定に役立つが、これまで外部検証や多施設大規模比較試験は行われていなかった。著者は、「今回の結果は、ルールの導入を検討している医師にとって、重要な出発点となる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2017年4月11日号掲載の報告。

◇ 頭部外傷小児約2万例で、3つのルールの診断精度を検証
 APHIRST(Australasian Paediatric Head Injury Rules Study)は、2011年4月11日~2014年11月30日に、オーストラリアおよびニュージーランドの10病院において行われた。対象は、救急診療部を受診した18歳未満のあらゆる重症度の頭部外傷患者で、PECARN(2歳以上と2歳未満で層別化)、CATCH、CHALICEの各ルールに特異的な転帰(それぞれ、臨床的に重大な外傷性脳損傷[TBI]、神経学的介入の必要性、臨床的に重大な頭蓋内損傷)を予測する診断精度を評価した。
 検証コホートで、ルールごとに選択基準および除外基準を満たした集団においてルール特有の予測変数を算出。2次解析では、軽度頭部外傷患者(グラスゴー・コーマ・スケール[GCS]:13~15)を対象とした比較コホートにおいて、ルール特有の予測変数を用いて臨床的に重大なTBIの診断精度を算出・評価した。

◇ 感度はPECARNが優れるものの3つのルールで診断精度に差はない
 計2万137例が解析され、このうちCT検査が行われたのは2,106例(10%)、入院は4,544例(23%)、脳神経外科手術施行83例(<1%)、死亡15例(<1%)であった。PECARNは、2歳未満5,374例中4,011例(75%)、2歳以上1万4,763例中1万1,152例(76%)、CATCHは4,957例(25%)、CHALICEは2万29例(99%)に適用された。
 検証コホートの解析において、感度が最も高かったのは、2歳未満に対するPECARN(感度100.0%、95%信頼区間[CI]:90.7~100.0、38/38例)、ならびに2歳以上に対するPECARN(99.0%、95%CI:94.4~100.0、97/98例)であり、次いでCATCH(高リスク予測因子のみ:95.2%、95%CI:76.2~99.9、20/21例/高リスクと中等度リスク予測因子:88.7%、95%CI:82.2~93.4、125/141例)、CHALICE(92.3%、95%CI:89.2~94.7、370/401例)の順であった。
 軽度頭部外傷患者1万8,913例を対象とした比較コホートの解析において、臨床的に重大なTBIの感度は同等であった。両解析における陰性的中率は、3ルールすべて99%以上であった。
 なお、著者は、「PECARNの主要評価項目である臨床的に重大なTBIを、評価項目として用いたため、PECARNルールに好ましい結果に偏った可能性がある」と指摘している。


<原著論文>
Accuracy of PECARN, CATCH, and CHALICE head injury decision rules in children: a prospective cohort study(Lancet)



□ ソファから落ちて頭をぶつけた男児に頭部CT?
2017/9/15 中西奈美=日経メディカル
 Choosing Wiselyキャンペーンで指摘された、時に患者に不利益を与える価値の低い検査。日常診療で遭遇しがちな肺血栓塞栓症、蕁麻疹、頭部外傷の症例を基に、実際に検査をどう賢く選んでいくかを実際に考えてみよう。

Q C君に頭部CT検査を実施する?
ケース3:C君、5歳男児。
 「ソファから落ちて床に頭をぶつけた」と母親に付き添われて外来を受診。落下直後、C君は火がついたように泣いたが、数分で泣きやんだという。受診まで特に変わった様子はなく、看護師とも楽しそうに話している。一方、母親は「頭のことなので、CTを撮ってほしい」と強く要望している。
【所見・既往歴など】
 殴打した部分に皮下組織の毛細血管から出血した痕があるが、血腫は認められない。
 母親からの聴取で、意識障害や嘔吐などはなかった。
 ソファ面の高さは50cm。落下から5時間程度たっている。
 既往歴、手術歴なし。

※ 出題:田波穣氏(埼玉県立小児医療センター放射線科)

 子どもが転倒し、壁や床に頭部を殴打することは日常起こりやすい事故。小児科や内科、救急外来では自分の状態を言葉で説明できない子どもを抱え、保護者が不安を募らせ駆け込んでくる場面によく遭遇するのではないだろうか。
 特に、ケース3のように頭部に関わる疾患や外傷の場合、母親をはじめとする家族が画像検査を望むことは少なくない。ここではC君の母親が要望する軽度の頭部外傷に対するCT検査について考えてみたい。
 「CT検査は小児においても画像診断のモダリティーになりつつある」と埼玉県立小児医療センター(さいたま市中央区)放射線科の田波穣氏は話す。装置やソフトウエアの進歩により、被曝線量の少ない撮影が可能になってきたが、CT検査はいまだ医療放射線被曝の主な要因となっている。
 小児の被曝に関しては、

(1)一部の放射線誘発性癌に対し、小児は成人よりも2~3倍脆弱である、
(2)小児は平均余命が長く、小児期の放射線曝露に関連する発癌が寿命に影響を与える可能性がある、
(3)放射線誘発性癌は長い潜伏期を経て増大することが多く、そのスピードは腫瘍の種類および被曝線量によって変化する

──という特徴がある。
小児では特に適応の正当化と線量の最適化が重要」と田波氏は言う。いずれも検査をオーダーする主治医と患児の家族が、リスクとベネフィットを理解した上で実施を検討しなければならない。

図1 軽度の頭部外傷に対するCT検査適用フローチャート(多施設共同研究「PECARN」の結果、Lancet. 2009;374:1160-70.より改変)




(ちなみの原著のフローチャートはこちら)


 特に、意識喪失やめまい、嘔吐などといった神経学的な異常を伴わない軽度の頭部外傷後にCT検査が必要かどうかは、「PECARN」と呼ばれる多施設共同研究から図1のように提案されている。他に、CHALICEルールやCATCHルールも、感度の高い基準として評価されている。
 C君の意識レベルを示すGCS(Glasgow coma scale)は15であり、頭蓋骨折や神経学的な所見も認められない。母親がCT撮影を望んでいるが、被曝のリスクを説明し納得してもらい、検査を行わないことが妥当だと田波氏は判断した。母親には、重症の可能性は低いため、被曝のリスクを説明し、検査を行うべきではないことを伝えた。また、帰宅後も目を離さず様子を確認し、嘔吐や痙攣、傾眠、頭痛の悪化などが認められた場合にはすぐに外来を受診するよう指導した。

A 頭蓋内出血などの危険性は低いため、被曝のリスクを重視し、CT検査は行わない。



参考
Glasgow Coma Scale


★ 意識障害の評価;
 15点:正常
 14−13点:軽度
 12−9点:中等症
 8点以下:重症。
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